推しの幸せとは

あれから三年、私もついに学園へ入学できる年齢になった。推しの通ってた学校に投稿できる日が来るなんて!!


最高かよぉぉぉぉぉぉ!!!!


ロバートの婚約者として私はだれにも負けないように勉学やマナーに打ち込み、社交術も身に着けてきた。それでも、彼の隣に立つと自分の努力がどこか薄っぺらく感じてしまうことがあった。学園はいわば戦場である。平等とはいってもやっぱり身分差はあるし社交界のルールも適応されている。そんな貴族社会の縮図ともいえる学園で生き残れなければ社交界で生き残ることは難しいだろう。それとロバートに何かあったときには私が守らねば……その後受験をして見事合格!


そしてついにこの日が……


私はすべての準備を終わらせると侍女のマーサと一緒に学園へと向かった。


「いい?ルキ、絶対に影から出てきちゃだめだからね!?」


「了解!」


学園へ着いたら最初にクラス分けがある。そんな中、虎を連れた令嬢が歩いていたらみんなはどう思うだろうか?そんなの怖いに決まっている。なのでルキには申し訳ないが陰でおとなしくしてもらている。クラス分けは能力や学力をもとに行われておりS~Cの四クラスに分かれている。私はSクラス所属となった。というのも貴族は基本家で能力を高めるために訓練をしたり勉強ができるのでS~Aがほとんどだ。逆にC~Bは満足に勉強ができなかった平民などが多く所属している。習っていればなんてことない問題も習ってなければ難しい。ただそれだけの話である。私は自分のクラスへと向かった。予想はしていたがここまでとは……というのもクラス全員が顔見知りで自己紹介などいらないのでは?レベルである。


四大公爵家、スシャルリア家の長女、マルファレア様、シャルバテナ家の次男、ガルスモンド様、第二王子殿下であらせられるベルギア様、侯爵家の長男、シュルッツ様、その他高位貴族が私含めて8人がSクラスのメンバーである。


自己紹介を済ませると学校探検が始まった。先生の指示で学校を見て回るのだが……推しが通っていた学園についに!と思うとわくわくが止まらなかった。図書室に食堂、訓練場やホール、最後に女子寮を見て回って午前中の授業は終了した。お昼の時間になると……


「ねぇエル、食堂に行きませんか?」


おっとりしているがすごくしっかり者のマルファレア嬢が話しかけてきた。


「ぜひ行きましょう」


こうして私たちは食堂へと向かうこととなった。


「ねぇエル、あれみて。学園名物らしいのよ。なんでも彼女の美貌に落ちない男子生徒はいないとか……」


目線の先にいたのはヒロインだった。物語に出てきたとおりだ、攻略対象たちと優雅にランチをしているヒロイン。次の瞬間ヒロインと目が合いニヤリとヒロインが笑う。

私はそれに気づくと急いで食堂を後にしてしまった。


「ねぇエル、どうしたの?」


「ロ、ロバートがいた……」


推しがヒロインとくっつくのは幸せなはず、だってそれが本来のストーリーだから。でもなぜ?なぜ私は素直に喜べないの?それがロバートの幸せなはず、だってロバートは……


「エル!!」


ハッ……


「エル、貴方顔色が悪いわ。いったん保健室に行きましょう。」


そういわれて私は保健室へと向かった。


その後はどうロバートに接していいかわからず避けてしまっていた。怖いのだ、私はここまでかなりシナリオを変えてしまっている。だがストーリーの強制力なのか今見た場面はストーリーで見た場面と一緒だった。でもそれと同時にロバートにはヒロインとくっついてほしくないと思う私がいた。


こんなの友人失格だ。


ロバートとヒロイン一緒にいるのを見るたび、胸が締め付けられるような苦しさが襲ってくる。"これでいいんだ"と自分に言い聞かせてもその感情は収まらなかった。


間違えるな私、私はロバートの幸せのために生きてる。私のためにロバートがつらい思いをしては意味がないのだ。


今日こそは勇気を振り絞ってロバートとのお茶会に誘おう。私はロバートのいる教室へ行くとロバートに話しかけた。


「ロバート様、ランチなどいかがでしょうか?」


すると屈強な騎士のような人たちが私の前に現れて


「ミカエリス様は今忙しいのだ。邪魔をするな」


そういわれてしまった。


「エルアテシア。今日は無理だ」


「えっ……はい、わかりました。」


ロバートの冷たい言葉が胸に突き刺さる。彼がこんな風に私を拒絶するなんて、今まで一度もなかったのに。何が変わってしまったのだろうか?この出来事がショックだったのか私はその日寝込んでしまった。自分でも本当に弱っちい心だと思う、こんなんじゃロバートを助けられない。じゃあロバートの記憶を消せば……お互い苦しむことなく幸せに生きられるのではないだろうか……このままじゃおそらく私はロバートとヒロインの幸せを邪魔してしまうだろう。そんなことは絶対あってはならない。私は鏡の前に立つとそっと呪文を唱え自分の気づきかけていた気持ちと記憶に封をした。


「エル……?」


翌朝私はルキに起こされた。


「エル、泣いてる。悲しい?ルキ、ここにいるよ」


なぜか胸にぽかんと穴が開いたようで……大切なものをなくしてしまった喪失感に襲われた。


「気を引き締めなきゃ……学園に通って卒業するのは貴族の務め。ここで頑張らないでどうするのよ!」


自分を奮い立たせるけれど、何かが欠けている。考えることが面倒で、ただひたすら上を目指し続ける。目標のない今、努力することと筋トレをすることだけが私を動かす唯一の力だった。


「エル!無理はだめだよ!お休み大事!」


最近よくルキが私の体調を気遣ってくれる。それとやたら上級生の女子生徒たちが私の前で男子生徒にべたべたしているのを見せびらかしてくる。そんなことを見せられても、今の私には何の感情も湧いてこないんだが?

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