異世界転生したので推しに人生貢ぎます

ちびまろ

推しがいる世界って最高

ハロー!私の名前はエルアテシア・ルシュヴァルテ、通称エル!そう、日本人よ!

ゴホンっ、実は私は、大好きな推しキャラがいる異世界「スティルマレー」に転生しちゃったの!でも、その転生の理由がちょっと……推しが死んだショックで私もショック死した、というわけ(笑)。


転生後、この世界で私は魔力暴走を起こしてしまった問題児。でも反省してるわ!


この世界は、みんな大好きな異世界ファンタジーの世界で、魔法が使えるのはもちろん、異種族も存在するわ。五つの国があって、それぞれが独自の魅力的な文化を持っているの。でも、この国は残念ながら異種族を歓迎していないの。


ここで重要なのは、


"私の推しであるロバートが獣人の血を引いている"


ということ。彼の美しい黒髪と青い瞳は素敵だけど、怒ると瞳が赤く染まるの。その赤い瞳は獣の象徴として忌み嫌われているの。


つまり差別の対象なの、きれいな黒髪に青いお目目がとーても素敵なんだけど……おこると赤色に染まっちゃうの、その赤い目っていうのは獣の象徴で忌み嫌われているわ。

私が知っている情報だと彼は怒らないように感情を殺す訓練をしてやがて感情というのが分からなくなる。でもヒロインに出会って少しづつ変わっていくのだけれど……結局王子様にはかなわず戦争へ行かされてそこで亡くなってしまうの。


私はこの運命を絶対に変えてみせる!ロバートが戦争で命を落とすなんて、そんな未来は許せない!彼の幸せな老後を、この目で見届けるんだから!


「いつまで鏡に向かって話してるの?」


後ろから私の契約従で白虎のルキが話しかけてきた。


「ルキ!もう起きたの?まだ朝の五時よ、」


白虎のルキは、私が契約した魔獣。今ではゴールデンレトリバーくらいの大きさだけど、鋭い牙とがっちりした体つきが頼もしい存在。契約当時は大騒ぎになったけど、今では私の大切な相棒だ。


「でもエルは今からランニングをするんでしょ?僕もついていく」


そういうとルキはサッと窓から飛び降りてしまった。


「待ってよルキ!」


私も後を追う。窓枠に足をかけると思いっきり飛び降りた。素早く着地してその勢いのまま走り出す。


「今日は何週走るの~?」


「朝ごはん前に軽く十週は走りたいわ」


そういいながら私とルキはかなりのハイペースで走る。これが朝の日課なのだ、獣人は足が速い。訓練していないと普通の人間が追いつくことは到底かなわない。なので私は"いつでも推しを追いかけられるように"トレーニングをしているのだ。。


朝のランニングが終わると軽く筋トレを……スクワット百回、腕立て百回、ベンチプレス百回をしてシャワーを浴びる。そのあと家族と並んで食事をとって午前中は座学とマナー、午後は剣術と馬術をやっている。夕方になるとまた朝と同じメニューをこなし、シャワーを浴びて夕食を食べる。そして五男氏と遭遇してもいいように念入りに髪やスキンケアをして眠りにつく。これが私の日々のルーティーンだ。そんなある日


「エル、例の件本当に進めてもいいのかい?」


「かまいませんわ」


例の件というのは婚約の件だ。初めてのパーティで私の推しは婚約者がいないことを馬鹿にされてそれにカッとして目が赤くなってしまい親からも周りからも軽蔑されてしまう。でも!私の家は公爵家!公爵家の婚約者がいれば誰も文句言えないはず……もし推しに好きな人ができたら婚約破棄すればいいだけだしね。というわけで私はお父様に頼んで婚約の話を進めてもらっていたのだ。


数日後


「エル、これでよかったんだよね?」


不安そうに尋ねるお父様に私は笑顔で頷いた。客室に入るとすでに私の推しは来ていた。漆黒の髪にブルーダイアモンドのような瞳、すらっとした体格にお洋服がとても似合っていた。


「ごきげんよう、エルアテシア・ルシュヴァルテと申します」


これまで全力で頑張って練習して身に着けたカーテシーをする。さぁ!どうだ!反応は……な、無反応……だと


「ほら!お前も挨拶しろ!」


「こ、こんにちは……ロバート……ミカエリスです……」


クゥー!このおどおど感たまんないね!可愛いよ!我が推しよ!最高だ!一生見ていたい……でも周りはそうは思ってなかったようで父親は真っ赤な顔をしていた。


「庭でも見ませんか?お父様!自慢の庭を見せてきますわ!」


そういうと私は推し……いや、ロバートの手を引いて庭へと向かった。


「綺麗でしょ?私が手入れしてますの」


「えっ……」


ロバートは今の言葉に驚いたようだった。それもそうだろう、普通の貴族は庭で土いじりなんてしない。汚い、不潔だと思うからだ。


「ミカエリス様、私が土いじりをしていることについてどう思いますか?」


私は彼の反応を伺いながら、少し微笑んで見せた。


「えと……あ……い、いんじゃない?」


ふふっ


私はロバートに笑いかけた


「な、なんで……ぼ、僕と婚約したの?そ、その……僕は獣だよ……」


涙目になりながらそう話すロバートに胸がぐっとくるしくなった。


「僕も獣だよ!でもエルの相棒さ!」


ピョコっと私の影からから現れたルキが笑顔で言う。


「えっ!?白虎!?」


ロバートはびっくりして開いた口がふさがっていない。


「エルはね!ロバートのことが大好きなんだよ!いっつもロバートの話ばっかり!」


びっくりしてこちらを見るロバートに私は勇気を振り絞って言うことにした


「私、ミカエリス様に会ったことがあるんです。その時、かっこいいなって思って……完全に一目惚れです。でも絶対幸せにします。だから私とこ、婚約してください……」


急に恥ずかしくなってしまい顔が真っ赤になって言葉がうまく出てこなくなった。失敗したと涙をこらえていると……


「ハハッ、君はかっこいいや。僕も君にふさわしい男になれるように頑張るよ。それと、僕のことはロバートって呼んで」


んー尊い……この笑顔スチルに収めたい。SSRだよ!こんなの!思わず笑みがこぼれてやっぱりこの人は私を幸せにしてくれると確信した瞬間だった。

それから私たちはお茶会や互いの家へと遊びに行って親睦を深めていった。最初はおどおどしていたロバートも私の前ではしゃべれるようになり、我が家の使用人たちとも積極的にコミュニケーションをとれるまでに成長していた。ロバートは婚約が決まって初めて出会ったときの言葉を実行するかのように勉強や剣術を頑張っていた。推しが頑張っている姿を見て私も勇気をもらい、より一層勉学やマナー、剣術に励んだ。お互いお互いのためと切磋琢磨する日々が続きまるで良き友人でありライバルのような関係になっていった。


そしてついにこの日がやってきた。私たちはお茶会に出席することになった、そんな中揺れる馬車の中でロバートは青い顔で座っていた。


「ロバート様大丈夫ですか?安心してください、何かあれば私が切り刻みます。」


今日はロバート様を守るため、ドレスの下に木製の暗器を仕込んである。何かあれば白虎も出てこれるよう練習したので抜かりないはずだ。ロバートをいじめるやつらの顔と名前は憶えている。何かあれば必ず……


「到着いたしました」


ロバートのエスコートで馬車を降りる、"ロバート"のエスコートで!もう気分は帰ってもいいくらいだ。主催者の伯爵夫人に挨拶をすると私たちは指定された席に着いた。

ある程度穏やかにお茶会は進んだがやっぱりイベントは避けられないのか、お決まりのセリフが飛んできた


「おいおい神聖なお茶会に獣の匂いがするぞ!?」そう言ってこちらに近づいてきた。


「お前だな!獣め!臭いんだよ!」


そう言って、男はロバートに向かって紅茶をかけようと手を伸ばした。……そんなこと、私が許すはずがない!私は扇子でその手を一瞬で叩き落とした。


「いったぁ!?」


「クスクス、誰かを貶めようとして醜い悲鳴を上げる豚と私の婚約者を一緒にしないでくださいませ」


「ルシュヴァルテ公爵令嬢!?な、なんでこいつが!」


「その汚らしい口を閉じてはいかが?公爵家を敵に回す覚悟はございますの?」


次の瞬間、唸り声をあげながらルキが陰から飛び出してきた


「ひっ!?び、白虎……」


情けない声をあげてロバートをけなした令息は逃げていった


「ルキ、ありがとう……ハウス!!」


そういうとルキはムゥっという顔をしながら影の中へと帰っていった。


「エルはすごいや……僕なんて……」


少し気落ちしているロバートのもとへ向き直る


「あんな奴のことをロバート様は気にする必要はありませんわ!私だけを見てくださいまし!」


不器用な私にできる励ましなどこの程度だ……


「ふふっ、やっぱり君は強いや。僕も君の隣に立てるように頑張らきゃ。」


うん、ロバートは今のままでも最高だよ!と胸の中で叫んだのはロバートには内緒だ。


それから私たちはお茶会を重ね、沢山の思い出を作り、私の部屋はいつしかロバートとの思い出の品でいっぱいになった。これら一つ一つは私の大切な宝物だ。

でも幸せな日々は突然終わりを迎える……ロバート学園への入学の時期が近づいてきたのだ。私はこれまで以上にロバートと一緒に時間を過ごした。しかし時の流れというのは早いもので、気が付くとあっという間に入学の時期になっていた。


「エルアテシア、手紙も書くし休みの日には帰ってくるからそんなに泣かないでおくれ」


困った顔でロバートは笑う


私だってこんなに離れることがつらいとは思っていなかった。推しという存在が何か別のものに変わる感覚はあったがいまだによくわからない。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらロバートを学園へと見送った。

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