エピローグ
模擬戦から日を跨ぎ、変わらぬ1日が戻ってくる。
半日以上を寝て過ごした結果、体調はこれでもかと言う程に快調。
昨日まで感じていた疲労や脱力感もなく、問題なく校舎へと向かえている。
とはいえ、正直言えば少し気が重いのも事実だ。
理由はそう、分かる人には分かるものだが。
「顔合わせ辛いんだよなぁ…あんだけ啖呵切ったってのに…」
同じクラスだし、と言うか3人しかいないんだからクラス分けも何もないのが我らが1年な訳だが。
八坂が俺のことを変わらず有象無象の1人だからと意識すらしていない可能性もあるが…それはそれで俺の頑張りとは何ぞや?となってしまうのだから頂けない。
有言実行が出来なかった時点で俺がどうほざこうが負け犬の遠吠えである。
気を強く持たねば…何、大丈夫。まだチャンスはある筈だから…。
「てか、まだ俺が知らない戦い方がある訳だよな…いや、それも当然なんだろうけど……」
「おい」
追々座学や訓練項目で追加されるのだろうが、やはり時間は惜しいものだ。
「……おいって」
紅崎先生や高杉先生に、また予習用の教材をお願いしてみるか…。
「―――おいてめえ香坂。無視か、無視してんのかあぁん?」
「は?」
考えにふけている所に後ろから乱暴に声を掛けられていた。
誰だよ朝っぱらから…と思いながら振り向けば、見慣れた赤髪野郎が鞄を肩に背負いながら、そこに立っている。
相変わらず顔立ち綺麗だよなぁ。
同性に言う事じゃないけど中性的だから綺麗系と例えてもこれがまあ違和感がない。
脱げば鍛えている事は分かるが、改造された赤い制服を着ている時は妙に華奢に見えるのも相まって、彼がバリバリのパワーファイターだとは、とてもじゃないが思えないだろう。
しかし八坂め、こいつから声を掛けてくるなんて珍しい。
今までこんな事なかったのにどういう風の吹きまわし………何ですと?
八坂から声を掛けてきた?
「……………何、悪いんだけど負けた場合のペナルティにパシリとか舎弟とかそんなんは決めてなかった筈だけど」
「てめえは俺を何だと思ってやがんだよ」
手に負えない感じの不良だと思ってたんだが何か?
と流石に喧嘩になりかねん事を真正面から言う訳がない。柳生じゃあるまいし。
しかしこれは一体どういう事だ?
これまで挨拶しても無視されてたのがこれである。
あいつから声を掛けてくるなんて思いもしなかった状況だ。
正直何を企んでるかなんて疑うのもこれまでのあいつの行い故であるが。
「まさか、俺を認識した?俺を認めたと言うのか…?」
「…今度はボソボソとなんだよ」
「ああ、いや、悪い。まさか八坂から話し掛けてくるなんて思ってなかったから、正直言えば狼狽えていた」
「………はっ、クラスメイトがいて声くらい掛けるもんじゃねえのか?」
バツの悪そうな表情をしながら八坂は顔を背ける。
流石にこれまで取っていた態度に関しても自覚はあるようでどこか申し訳なさそうな雰囲気を纏っているように感じる。
………そうか。そうなんだな。
分かったよ、これはアレだな。俗にいう、ある種の属性という奴で確か―――。
「……八坂」
「…なんだよ」
「男のツンデレってどうかと思ったけど、お前レベルの美形だとむしろドキリとさせられるな」
「発言きめえわ。ぶっ飛ばすぞてめえ」
まあ流石に冗談だけど。
握り拳を作る八坂を宥めつつも、俺は妙な感動を覚えていた。
こんな些細な事なのに、これはとても代えようのない尊さを抱いていたのかもしれない。
これまで絶対無理だろうと思っていた八坂 亮と会話が成立している、ただそれだけで浮足立つのも単純な話だ。
「………でさ、真面目な話。本当にどうして、俺に声を掛けたんだ?」
「それは……まあ、俺にも思う所があったんだよ。昨日の模擬戦に関してな」
「ほうほう」
あれは俺の負けではなかったのか?
勝利に驕るならまだしも、こうやって畏まった様子になる理由が、やはり分からない。
「香坂 永斗」
「あ、はい」
八坂は俺を睨みつける様に、その青色の瞳を向けた。
「あの勝負は、納得できねえ。だから俺は決めた」
「え、何を?」
「俺がお前を鍛えてやる」
「はい?」
「鍛えて、俺と同じレベルまで引っ張り上げてやるよ。この俺がな!」
人差し指を向けながら、八坂は堂々と宣言する。
―――鍛える?誰を?……俺をか?
闘いに負け、だというのに何故か、俺に対して妙にフレンドリーになる。
そして気が付けば、俺は八坂に鍛えて貰う事になるらしい。
「何でそんな話になるんだ…」
ちょっと状況が飲み込めちゃいないまま、気が付けば俺のルーチンに八坂 亮から師事して貰うが追加される事となる。
やだ。俺の時間、ミチミチ過ぎない…?
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