第14話・VS八坂 亮 後編

八坂 亮が繰り出す一撃を受け、香坂 永斗はその身体を吹き飛ばされた。

受け身も取れずに地面へ叩き付けられ、それでもなお勢いは止まらずに地面を転がった。


周囲の視界を遮るように砂煙が上がる。

ソレは香坂 永斗の様子を第三者が窺がう事が困難である程であった。


「香坂くん…!」


その激しい吹き飛ばされ様に高杉 優里が悲鳴に近い声を上げる。

そんな彼女の隣で紅崎 茜が腕を組んだまま静かに戦いを見守っていた。


やはり八坂 亮の戦闘スタイルはある種の完成形として纏まっている。

圧倒的な攻撃力に、重量装備であるクレイモア1式を握っているとは思わせない軽やかな動き。

高機動高火力とは誰もが考えつく事ではあるが、並みの能力者でそれを実現出来る程のフィジカルを鍛える事は並大抵の事ではないだろう。


「あれで2か月か。末恐ろしいものだな」


茜とてこれには思わず唸ってしまう。

実家の方針によって幾らかの下地が出来ていたとはいえ、この短期間でここまでに仕上げているのだ。

これで1年、2年と研鑽と実戦を積めばどれほどになるのだろうか。


(だから、今の彼は1人で完結しているのだろう。独力でここまで来れるのなら誰かの手も借りようとしないのも頷ける)


だが、それを許容出来るかと言われればまた別問題だ。


いがみ合うばかりの生活など、あまりにも寂しいじゃないか。

何よりも、彼等1年は3人しかいないのだから、互いが仲間として共に切磋琢磨をして欲しい。

そう考えるのは、大人の我儘だろうか?


「茜先生……香坂くん、大丈夫でしょうか。このままじゃ…」

「―――いいえ、大丈夫だ。優里先生」


不安気に呟く優里先生に対し、力強く茜は断言する。

ああ。まだ終わっていない。確かにアレは結構派手だったが何て事はない。


香坂 永斗はまだまだ戦える。









完璧に入った。

そう誰もが思うであろう一撃と盛大に吹き飛んだ相手の姿を見れば、この闘いの優劣は既に決したと考える事だろう。


「いいや、違うな」


自身が振り下ろしたクレイモア1式を見遣る。

その剣腹にうっすらと弾痕が浮かび、発熱している。


「勢いが殺された、ってか?」


亮が狙った角度から、少しずれている。

振り下ろすと同時に、香坂 永斗がハンドカノン1式から放つ弾丸を当ててきたのが原因だろう。


流石は対キメラ用兵装という訳だ。

たかがハンドガンサイズと威力も侮っていたが、まさか斬撃の勢いを削る程だとは思わなかった。


「だが、それだけじゃねえな」


クレイモア1式の剣先を、砂煙が上がる先へと向けながら呟く。


「不自然な程に勢いよく吹き飛びやがった」


亮はその瞬間を捉えていた。

クレイモア1式の刃は角度がずれた事により当たっちゃいなかったのだ。

ただ彼は足を地面から離していた。


「俺の剣圧を利用して―――」


そのまま後ろへと跳んでいっただけだ。


「―――クソが。割とおもしれえじゃん」


あの一瞬の合間にその判断、実行に移す度胸。

素直に称賛すると同時に、忌々し気に思う感情を孕ませて言葉を漏らした。


「ああ、いいぜ。見せてみろよ。どうくるのか、次の一手があれば……!!」


その悉くを食い破ってやるよ。

獰猛に、好戦的に笑みを浮かべた。


そして、砂煙が徐々に晴れていく。

八坂 亮からの問いに答える声はなく、返ってきたのは―――。




兵装解放ウェポンリリース




砂煙を吹き飛ばす青い奔流が八坂 亮へと迫った。


「!!」


何かが来る、その予測は出来ていた為に対応は素早い。

クレイモア1式を構え、自身の前面へと突き出す。


その瞬間、青い奔流がクレイモア1式へと直撃した。


「ぐっ――――!?」


後ろへと押されていく。

しかし、その勢いに抗うように力強く地面を踏む。


基本兵装ベースウェポン、ブラストかよ!砂煙の内側から不意打ちに使うか!!」


亮は叫んだ。

飛んで来たのはハンドカノンの兵装解放、照射タイプの基本兵装・ブラストである。

ここで大技を使う……いいや違う、ここでなきゃ使えないのだ。


(兵装解放は発動までに僅かに溜めの時間が入る。下手に使おうものなら、それを俺が見逃す筈がない)


だからこそ、あの砂煙。

視界を遮ることで兵装解放を悟らせないこと、敢えて吹き飛ばされることで此方との距離を離すこと。


その2つの条件をクリアした。

香坂 永斗は己の不利を利用して、八坂 亮の油断も誘った。


「はっ、舐めてたな。てめえは咄嗟の判断力に優れている。脱帽だ。褒めてやるよ」


「だが!」と八坂 亮は押し負けぬようにクレイモアを両手で構えた。


「てめえの動きが俺に見えてた時点で!何かが来ると分かれば備える余裕はあるんだよ!香坂ぁ!」


不用意に近づいていれば、この不意打ちの兵装解放を防ぐ手立てはなかった。

なので警戒し迂闊に近づく事もしなかった。


結果は正解。

香坂 永斗は砂煙に紛れ、奇襲の一手を放った。

そして八坂 亮はその奇襲に対応する事が出来たのだ。


故に、これで終わりだ。

2度目はない、同じ手が通用する事はない。


「これを凌ぐ、また真正面戦闘に持ち込めばそれで終わりだ」


純粋なスペックでは圧倒している。

まともに戦えば香坂 永斗に勝機はないだろう。

それは歴とした事実、自他共に認める所にある。


故に、この一手が終われば詰みである。

香坂 永斗は、健闘むなしく敗北するのだ。






「いいや、まだ終わらんぜ!八坂ぁ!!」






それでも香坂 永斗は諦めない。

この闘いは簡単には終わらない。


「兵装……解放ゥ!!」


ロングソード1式の刀身が青く煌めいた。


「何……!?」


ブラストを放ちながら香坂 永斗が正面から突っ込んだ。


ロングソード1式とハンドカノン1式の同時兵装解放。

これが香坂 永斗の2段構え。


ハンドカノンは完全に足を止める、ただその為だけの一撃だ。

照射タイプなら猶更都合がいい。撃ち続けている間は流石の八坂 亮も動けやしないのだから。


だからこそ本命の一撃はロングソード1式の兵装解放である。


「お前が正面から戦うパワーファイターってのは十分理解させて貰ったよ」

「何を…」

「己の実力への自信。それに見合う努力をしてきたからこそ絶対に揺るがない」

「……てめえ!!」

「だが、それでも頂けねえ。予想出来たんなら避けりゃいい一撃を、正面から受け止めたのは頂けねえよなぁ!」


真正面から戦えば…八坂 亮の戦いとは結局そこに収束する。

小手先を好まないのは性格故かもしれないが、だったらそこを突かせて貰おうと、香坂 永斗は考えただけの話である。


「不意打ちってのはちゃんと相手の意識外に用意しておくもんだよ。覚えとけ」


ハンドカノンは投げ捨てられた。

ブラストを凌ぎ切った八坂 亮であったが、その目前には既に奴がいる。


「香坂 永斗……!!」


翻弄された事実に震える。

憤怒に燃える瞳が間近で香坂 永斗の瞳と交差した。

彼の瞳は平静のまま、静かなものであった。


青い粒子を纏った刃が、すれ違いざまに八坂 亮の脇腹に叩き付けられた。


―――基本兵装・スラッシュ。


この一撃が決め手となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る