第6話

周囲の観客達が思い思いに声を掛けている。

彼等彼女等の視線を釘付けにしているのは、グラウンド・演習場中央。


そこに立つの2つの人影。

互いが訓練用のホワイトカラーのアーマーを身に纏い、それぞれが得意とする兵装を手に疾走する。


男女一組が今現在も砂埃を上げながら闘いを繰り広げていた。


「「―――っ!」」


白髪の美丈夫の握る槍が、赤髪の美女が操る銃剣が火花を散らし、打ち合いは更に激しさを増す。

軽やかな動きを見せる赤髪の美女は白髪の美丈夫のスピードを圧倒し、彼の死角へ繰り出される剣撃はそのどれもが正確無比に繰り出されている。


だが、白髪の彼はそれに動じない。

ただ冷静に全てを迎え撃つ。


穂先に風を纏わせながら、四方から迫る死角の一撃を全て弾く。

弾く度に、穂先に纏った旋風が赤髪の美女の攻撃を弾くだけでなく、風圧による衝撃で体勢を崩していた。

彼女のスピードを活かした攻勢のペースを乱す為に行い、それはまんまと効果を表した様だった。


「……ちィ!」


赤髪の美女は強く舌打ちをする。

一度距離を離した彼女は銃剣の銃口を白髪の美丈夫へと向ける。


兵装ウェポン……解放リリースゥ!!」


瞬間、銃剣の切っ先に炎を思わせる赤い光弾が形成される。

熱気を帯び、烈火の如く燃え滾る光弾は一度2メートル近く肥大化した後、一瞬の内に30センチ程までに圧縮・収束される。


「来るか」


目の前で赤く煌めく必殺の一撃。

熱風が頬を撫で、火炎の光が白髪の彼の顔を照らす。


―――上等、ならばこちらも相応に応えよう。


白髪の美丈夫は体勢を低くする。

手に持つ両手槍の穂先を相対する赤髪の美女へと向けた。


「…兵装ウェポン解放リリース


そして穂先に莫大な風量が付与される。


暴風を限界まで圧縮した風の刃。

白髪の美丈夫の周囲で突風が吹き荒れる。


互いが互いの必殺の準備を待っていた訳ではない。

それは偶然、図らずとも、そして誰もが望んだ見応えのある瞬間だ。


両者の一撃が放たれたのは全く同じタイミング。



烈火奔流インフェルノストリーム!!」


暴風突破ストームバンガード



赤髪の美女が放つ熱線が、白髪の美丈夫の突撃が


真正面からぶつかった。









戦いの余波であろう熱波が俺の身体を突抜けていくような感覚だった。

俺の回りで同じく観覧していた他の生徒達もその闘いの決着を見守らんと、呼吸さえも忘れ去られた様な静寂の中で見守っている。


この闘いの決着は間もなく着いた。


均衡を崩したのは白髪の先輩の方だった。

真正面から赤髪の先輩が放つ熱線を受け止め、その足が止められたと思ったのも束の間、白髪の先輩が握る槍の穂先は熱線を二つに切り裂いたのだ。


白髪の先輩の突撃は止まらない、止められない。

その前進は加速し続け熱線を切り裂き突破した後に、赤髪の先輩の喉元へと刃を突きつけた。


そして、2人共、それぞれが動きを止めたまま。


最初に動いたのは赤髪の先輩だった。

ただしそれは反撃の為じゃない。


手に持った銃剣を地面へと落とし、そのまま両手を上げた。


誰が見ても明らかだ。降参・敗北を認めた瞬間だった。



観客達の歓声が起きる。

2人の戦いを称える賞賛の声ばかりがあちこちで流れてくる。


―――流石2年のツートップ。見応えのある模擬戦だったな。

―――今日は柳生さんが勝ったけれど、八坂さんもこのままじゃ終われないかな?


柳生、八坂。


聞き覚えのある苗字だけど……まあ、そういう事なんだろう。

優秀な能力者を輩出した家って話だったけど噂に違わないな、ほんとに。


模擬戦が終わった為か件の2人の先輩の下に多くの生徒達が集まっている。

慕われているって事か。先程までの険しさとはかけ離れた柔和な雰囲気が彼等の周りにはあるようだ。


「うんうん。あれが普通なんだよ。人と接する時は」


間違っても毒舌だったり素気なかったり素行悪く人を睨みつけたりするもんじゃありませんとも。


さてと。


このまま眺めててもいいけど、気が付けば時間も17時近くとなっていた。

夕飯時だし、学生寮に帰るか。










オレンジ色に照らされる夕焼け時、学生寮へと帰っている最中だった。


思いもよらず見る事が出来た能力者同士の戦い。

模擬戦とはいえ、2人には鬼気迫るものがあったと思う。


2年のツートップとも言っていた。

つまりあれこそが2年生における上澄みの中の上澄み同士の戦い。

超人染みた動き、魔法の様に風と炎を操る大迫力な光景。


「……見ていてワクワクした」


高揚している。興奮しているんだ俺は。

能力者とはどういうものかの実例をこれでもかと見せ付けられ、今までの感情が全て些事に思える程にどうでもよく感じている。


ああ全く。単純だった。

面倒だと思っていた、どうしてこんな事にと悲観していた。

だけどそれだけじゃないと考えようとしていた俺よ、間違ってなかったぞ。


彼等の様に全く同じようにとは思わない。あの先輩達が才能ありきであると言うのは嫌でも分かる。

だけどさっき見せられたのは、まさしくこれから能力者となる俺の可能性の姿に他ならない。


まあ、あれだ。

かっこいいものを素直にかっこいいと思う。

俺もなれるかな、と子供の様に目を輝かせるのは、高校生だって同じなのだ。


つまりは俺も男の子だったって話。

単純な奴だよ、我ながら。



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