第5話

何とも不思議な少女だ。

ボケーとしていて、覇気を感じさせない表情。

ただ、桃色の長髪と俺と同じ琥珀色に輝く瞳は素直に綺麗だと思った。


……桃色かぁ。

本当にカラフル、と言うより現実離れした容姿の子が多いな如月高校。


「で、あなたは?」

「…ん」


俺からの問いかけに首を傾げながら、考える様に身振り手振りをする少女。

何度か左右に首を傾げること幾秒。


「―――あ、自己紹介……まだか」

「そこはすぐに出てこないとダメなコミュニケーションっ」


初っ端口の悪いアイツらよかマシだがなっ。

この学校変なのしかいないの?と言う偏見に染まる前に俺は普通の人を探す必要性があるかもしれない。


そんな思考をしている俺に向き合う様に顔を上げた。

隣同士に座っている為これが結構近い距離感で、しかし少女は特に気にしない様子のまま顔を近付ける。


「……たちばな 愛良あいら。3年。よろ?」


何を考えてるか分からない無表情のまま、その少女は名乗った。


あ、先輩でしたか。

いや、同学年俺含めて3人だけだから同じ制服ならそうなるわな。


「あー……香坂 永斗。1年です。よろしくお願いします」

「よろ」

「はい、よろしくお願いします」

「……………」

「……………」


あ、挨拶で止まったァ…!!


次は、次は何を言えば…ああ、駄目だ、そもそも話題の引き出しがない。

忘れかけていた…俺も中学まで碌に友達がいなかったコミュ障寄りの性格だったという事を…。

今日は周りがアレ過ぎて俺自身がある意味一番マトモな部類であると思ってしまっていたのだ…!


「…………」


橘先輩は足をバタつかせながら空を見上げている。

眠たげな表情に、薄く開かれた瞼からの眼差しは今も陽気な青空をのんびりと眺めている様だ。


……会話が途切れた程度で慌てている俺が何だか馬鹿みたいに思えてしまった。


「……………ここ、ほとんど毎日、来る」


橘先輩が唐突に俺へ話し掛けてきた。


「え?」

「このベンチ。他の所と比べても、日差しがよく…当たる、から」


そう言いながら橘先輩は再度俺を見た。

真っすぐと真剣な雰囲気があった。相変わらず眠そうではあるが。


「橘先輩…?」

「今日は、君がいたけど」

「は、はい」

「いつもは、私。ここ、指定席。OK?」

「……えっと」

「OK?」

「あ、はい」


「……よし。分かれば、いい」


そう言って橘先輩はベンチから立ち上がる。

「じゃ」とこちらを一瞥すると、そのまま校舎の方へと歩き去っていった。


「………つまり、どういう事?」


そして俺は、このやり取りが何だったのか理解する事が出来ないのであった。









謎の先輩との邂逅を終え、サンドイッチを食べた俺は自然公園を後にして再び歩いていた。

特に目的地はない。敷地内から出る事は出来ないが、立地を全て把握し切っていない俺からすれば、此処は十分に見学し甲斐のある場所なのである。


それでも驚いたのは敷地内に大型の娯楽施設がある事だ。

ボウリングやゲームセンターか?バッティングセンターもパッと見て回っただけでも確認が出来た。

街中にある建造物が校舎と隣合せにあるのは何ともミスマッチ感が強いもんだ。

確か学生寮にもビリヤードやカラオケルームの様な娯楽室はあるっぽいし、そこも夕飯の後にでも見てみよう。


そうして、更に適当に歩いていると人だかりが出来ている場所を見つけた。

場所はグラウンド・演習場だ。


どうやら上の学年の能力者達による模擬戦が行われている様だった。

授業……ではないのだろう。俺の様に私服姿や制服姿の2年や3年の先輩達らしき生徒がほとんとであったから。

教師らしき大人の姿も見えるから許可を貰った上で行っている様だ。


「……ちょっと覗いて見てもいいかな」


気になる。

何故ならその光景はいずれ俺自身が経験する事になるのだから。


だからこそ、そこへ足が動いたのは俺にとって必然だった。

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