第4話

「ここの購買、バリエーション豊かだな…」


学生寮からそう離れていない距離に購買店がある為、そこで昼食を買う事にした。

店内に入って改めて思うが、やはり中学までの購買とは規模が違う。

此処で必要な物を買い揃える事が出来る様にする為か、品数もそうだが扱っている品種も多彩だ。


生活用品はもちろん、弁当やパンだけでなく調理前の食材も並べてあった。

そういえば寮の部屋には台所も付いている。人によっては食堂ではなく自炊で済ませる事も出来る訳だ。


「月一で支給金もあるんだっけ…やっぱり普通の学校とも違うんだよなぁ、ここ」


冷蔵コーナーに並列されているサンドイッチを手に取りながら、何となく独り言ちる。


能力者になる為の学校なのだから当然それ以外に時間を費やす訳にはいかない。

学校と言いつつも実質徴兵されている様なもんだから普通の学生ではないのだ、俺達は。


「………」


考えてしまう時がある。


今はまだ中学からの延長の様に物事を捉えているが……そうではなくなった時、俺はどうなるのだろうか?


見出された資質だけが理由で戦わなければならない。それも命を懸けてだ。

今のままでは、きっと戦えない。その為の行為を許容出来る気がしない。

例えそれが俺達を殺そうと迫る化け物相手であろうと。


自らの手でナニカの生命活動を奪う事に忌避感を抱いている。

だから俺は、その価値観を変えねばならないのだ。




言葉にするほど、これはきっと簡単じゃない。









如月高校敷地内・自然公園。

生い茂る広々とした芝生にブランコや滑り台といった幾つかの遊具が置かれている。

学校関係者の休憩用に使われるだけでなく、土日には一般開放もされて子供連れの親子の姿も見る事があるそうだ。


まあ、今日は平日な為俺の他には如月高校の生徒の姿しか見ないが。


そんな公園の、湖沿いに設置されたベンチに俺は腰掛ける。

日差しが眩しい。青空に浮かぶ白雲は眺めていると意識ごと身体も吸い込まれる錯覚を覚える程に広大で清らかだ。


「今日も快晴…俺の心はこんなにも浮き沈みしてるのに」


期待して、不安になって、それでも前向きになろうとして、また期待を木端微塵にされる。

オマケに明日からは能力者となる為の厳しい訓練と座学が待っている。


誰かに愚痴りたいと言う訳ではないが、やはり1人だとそのまま溜め込んでしまう。

とはいえ、誰かと一緒にと言う話になった時に思い浮かぶ、身近な同級生となるのはあの2人であって……。


「ないな。今時点だとノーセンキュー。逆にストレス爆増待ったなし」


友達というのは互いに馬鹿やって笑い合いながら切磋琢磨出来る存在であると俺は信じている。


あいつらがやるのは友情・努力・勝利ではない。

ライバルを蹴落とす、ただそれだけを念頭に置いた醜い競争となるんじゃないかと。


まあ、これも所詮想像の内でしかないが。


あの場のあの態度は酷かったが、2人の事をよく知らないのもまた事実だ。

もしかしたら、これから何かしら相手を知る機会も出来るんじゃないかな。


「相手も俺と向き合ってくれたら、の話だけど……」


それがまた難しそうだよな、と考えていたらお腹が鳴ってしまう。

食べる場所を探して歩き回った分、空腹もひとしおとなっていたのを忘れていた。


やだやだ、考え事すると何時もこうだと思いながら俺は買ったサンドイッチの封を開け、その内の一切れを一口。


お、これは―――。


手に取ったのは玉子サンド。

俺の中で一番無難なサンドイッチだが、食べてみるとどうだろう。


使用している食パンは柔らかく甘味がある。

通常の市販の食パンではここまで柔らかさと甘味は残らない。よっぽどいい食パンか、もしくは店内で焼いたか…。

間に挟んである玉子サラダも食パンの甘味を打ち消さない程度の丁度いいしょっぱさだ。

これはマヨネーズとコショウの配分が上手いな。


そしてもう一口、二口。

あっという間に一切れなくなってしまった。


店内手作りという事もあって試しに手に取ってみたがこれは当たりだ。

玉子サラダも食パンからはみ出す程に挟んであって実にボリューミー。リピート確定である。


「う、美味い……!」

「そんなに美味しいの?」

「ああ。少なくとも俺がこれまで食べてきたサンドイッチの中で一番美味しかった。家でサンドイッチくらい作る事はあったけど、やっぱり素材が違うとここまで……」


ん?


二切れ目を手に取った時に、何だか流されるように受け答えしてしまったけど…気が付けば隣に人の気配。


そこには、如月高校の制服を着た俺より一回り小さい少女が座っていた。


「……え、誰?」

「誰だろ?けどその顔はウケる」

「おいこら初対面」


声掛けておいて疑問形って。後ウケるな人の顔を見て。


これまた唐突な出会いとなった。

俺はただただ、口にサンドイッチを咥えたままの間抜け面のまま、いつの間にか隣に座っていた少女と見つめ合う事となったのである。

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