第2話
幼馴染って言うのはもっとこう青春で、甘酢っぽいものだと思っていました…。
俺自身がこれまでそういう人生の潤いが足りていなかったが為に理想を高く持ち過ぎていた感は否めないが、それでもこれまでの俺の純真な思いは、それはもう木端微塵となったのだ。
「「ぐぬぬぬぬ……!」」
リアルで聞く初めてのぐぬぬぬがこんな殺伐としたものなんて嫌過ぎる!
「あ、あの~八坂くん、柳生さん、おちついて下さい~…」
先生ェ!声小さくて多分聴こえてないから!もっと頑張って!
そうして心の中で応援しつつも状況は変わらず、相変わらず声を掛けても無視されてアタフタしているその教師は、何と俺の方へと視線を向けてきた。
落ち着いて見てみると、結構幼い外見をしている。というかちっこいな、身長150あるのかこの人?
茶髪をポニーテールに纏め、グレージャケットと白いブラウスで大人っぽさを頑張って出しているようだけど………我ながら冷静な分析である。
まあ、さしづめ新人の女教師と言った所か……これはまあ、何ともタイミングが悪い時にクラスを任されたもんだ。南無三南無三。
「あ、あの~香坂くん。2人を止めれませんかぁ…?」
「え?」
今なんと?
それと俺まだ自己紹介してないのに名前……って名簿持ってたわこの人。
いやしかし待て。どうして俺?俺にいけと、あの中に?
「ここは教師として生徒間の仲裁に入る場面じゃないんですか?」
「でも私の声が届いていませんし、ああなったらもう物理的に介入しないと無理ですよ~!」
そう言われて改めて八坂と柳生の様子を見る。
「あぁほんと嫌になるわ。能力者になってまで一緒になるだなんて何なの?ストーカー?けどごめんなさいね。あなたと私がどうこうなる未来なんて何億通り世界が回ってもあり得ないから」
「被害妄想甚だしいんじゃねえかおい。誰が誰のストーカー?ちっちぇ頃に俺の後ろホイホイついて来てたのは誰ですかねえ?勉強だけが取り柄の癖にそんな感情論で滅茶苦茶な事しか言えないの恥ずかしくないんですカー?」
「幼少のころの事を言い出すなんて、未練がましいのね。気持ち悪い」
「最初に言い出したのはてめえだろうが。てめえの事なんざ視界の端にも入れたくねえのに災難だなぁ全くよう」
「は?死ね」
「あ?ぶっ飛ばすぞ」
な、何か二人の背後で炎とかまいたちみたいなのがぶつかっている幻覚が見えるような…。
「あぁ、あれは恐らく実際に発生してますねぇ…」
「何それ怖いんですけど」
というか俺の心読みましたよね?
しれっと教卓の後ろに避難していた俺の隣でちっこい先生は物知り顔で続ける。
「親のどちらかが属性持ちの能力者ですと、適合試験に適った場合、同じ属性を扱えるようになるといいますぅ。そういう意味でも凄いですよぉ。ちゃんとした指導を受ける前からここまではっきりと具現化させてますし~」
「へ、へー……じゃ、じゃあ猶更、何も知らない俺じゃやばいですって!先生も能力者でしょ?大人の実力で鎮圧してきちゃってくださいよ!」
「!……そ、それは無理ですぅ!私能力者じゃないただの副担任なんですもん!」
「なん、だと?」
顔を青ざめ、慌てながら否定するちっこい先生。
いや担任は担任でも副担任ってなんだよ。
「じゃあ本当の担任は!?」
「諸事情で遅れてますぅ…!」
「えぇぇえぇええぇ…」
いないのかよ。じゃあ誰か他の能力者の教員を呼ぶしか…!
俺がそう判断して動こうとした時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「何だこの騒ぎは」
入って来たのは黒の長髪をツインテールにした俺とあまり年が変わらないであろう少女だった。
丸みを帯びた顔つきに大きな目。赤い瞳が印象的な美少女である。
え、3人って聞いてたけど生徒まだいたの?と思ったが服装は俺達と同じ如月高校のものではない、これは…。
「あれ、軍服…?」
「茜先生~!」
「先生!?」
茜先生と呼ばれた少女はちっこい先生を難なく受け止めた。
身長はツインテールの少女の方があるが、明らかにちっこい先生の方が年上である。この貫禄の差は何なのだろうか。
「君は香坂 永斗で間違ってないか」
「あ、はい」
俺と視線が合い、そう尋ねられた為に頷きながら応えた。
その返答に納得した様に少女は頷いている。
「そうか。まあ3人しかいない上に残り2人は特徴的だからな。必然的に残り1名は没個性な外見となるから分かり易い」
「あれ、何か貶されてます?」
こちらのツッコミに返す間もなく茜先生?はちっこい先生を離した後、衝突中の件の2人の元まで歩いていった。
茜先生の接近にまるで気付いていないかのように睨み合い、言い合っていた2人だったが―――。
「ふん」
「がっ!?」
「ぶへっ!?」
「え」
それはもう勢いよくぶん殴っていた。
と言うより殴り掛かる瞬間、茜先生の身体がぶれる。そしてほぼ同時に2人の腹に拳が決まっている様に見えた。は、早過ぎる…。
崩れ落ちる八坂と柳生、一撃KO…!!
ふぅ、と一息つきながら茜先生は自身の手首を握りながら言った。
「事情は知らんが、この手に限る」
「いやバイオレンス!?」
せめて話を聞くとか、そういう説得フェーズ挟みませんかね!?
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