第1話

能力者ウィザード

それは人間に与えられた戦う術を手にした者を指す名称だ。


オリジンズと呼ばれた今や謎多き集団からもたらされた技術は多々あるがその中でも最たるが、この能力者となる為に必要とされる『魔石』とそれの生成技術だった。


魔石とは、あらゆる理がオリジンズ達の世界のものへと置き換わる物であるらしく。

曰く、異世界の戦士とは生まれもってこの石を体内に宿す為に、この世界の人間よりも強く強靭であるのだとか。

また魔力という物もその身で作り出せるようになり、まるで御伽噺の様な魔法だって自由自在となるのだという。


この世界の人間は貧弱だが、魔石を取り込めばキメラにだって対抗出来る力を手にする事が出来る。

その為に今現在、15歳の誕生日を迎えた際にはその魔石との適合検査が必ず行われるようになっている。

適合検査で一定基準値を超える結果を出したら……おめでとう、君は能力者になりますと、つまりそういう話だ。

そこに個人の意思は残念ながら介在しない。半ば強制的に招集を受ける事となる。


能力者という存在に対する一般評はいわばヒーロー。憧憬の感情を向けられる対象だ。

そりゃそうだ。キメラという化け物を倒せる唯一無二の存在であり、彼等によってこのフクオカが救われた事も一度や二度どころではない。


そんな活躍も大々的に報道している訳で、人々からの支持も厚い。

だからこそ適合検査にて適合してしまった日には、それはもう祝福の嵐だ。

昨日まで見向きもしなかった赤の他人でさえ自分の事ように喜ぶ。

身に覚えのない友達が増え、今まで特に話した事がなかった女子からも「実は昔から気になっていました」と告白される。


まあぶっちゃけたら異常だよ。

知りもしない奴からフレンドリーにされるのも、何人もの見ず知らずの異性から告白されるのもただの恐怖である。

それを満喫する奴もいるらしいけど、少なくとも俺には無理だ。人並程度の幸せで俺は十分だ。


まあ、つまりは能力者というのはそれだけのステータスなのだ。

富裕層並の待遇と一生の名誉がもたらされるという訳である。


で、そんな人生スーパーエリート街道が確約された事になる俺こと香坂こうさか 永斗ながとであるが、今の俺を見て一体誰がそれを信じる事が出来るだろうか。

今日に至るまで、俺は気苦労に掛かりっぱなしである。


中学を卒業した後、当然その進学先は相応の場となる。


それが『如月能力者訓練高等学校』

このフクオカにおける唯一、能力者育成を主眼においた学校だ。

授業は一般の高等学校とそう変わらないのだが一部教科が免除された後、能力者の訓練カリキュラムが組み込まれる事になる。

定期テストもないらしく、通常の授業が組み込まれている理由も最低限の学力と一般常識は必要であるとの配慮からだ。

まあ、卒業後は能力者一本なのだから極端な話、そこまで学力は重視されていないのだろう。


話を戻すと、如月能力者訓練……長いから如月高校と略するけど。

入学直前までは気持ちを入れ替えるつもりでいた。

そもそも地元に残っている方が怖い、周りからの期待や此方への過干渉には頭を抱えていたからだ。


入学すれば寮暮らしとなり一般社会とは隔離された環境下での生活となる。

両親もいないから地元には何の未練もない。むしろ煩わしい状況から脱する事が出来るんだから、これはもう望む所と言った所だ。


それに俺と同じように能力者となる事を決められた同級生もいる筈だ。

そんな彼等となら、きっと今の感情を共有出来ると、何となく思っていた。


が、実際に入学した結果。

俺を含めて今期の能力者の適正者は3人だけでした。


え、3人?通常は少なくても10人前後は適正者は出てくるから今期は不作?いや不作ってなんだよ農作物か。


しかも残りの2人がまたやばい。


八坂やさか りょう

赤髪のツンツン頭が特徴的な少年。

支給された制服を初日から改造して、全身を赤く染め上げてやがる…ここってブレザータイプで紺色基調でしたよね?不良かな?


もう一人は柳生やぎゅう 刹那せつな

ショートボブに切り揃えた白髪の少女。

制服こそ八坂のように改造はしていなかったが、何と言うか着こなしていた。

新入生特有の制服に着られてる感がなく、年齢以上に大人っぽく見えた。


どうやら2人は幼馴染。

更にその家系はフクオカにおいて要職に就いているらしく、それぞれ身内からも優秀な能力者を輩出しているらしい。


更に更に、能力者となるべく英才教育を適合検査を受ける年齢となる以前からされている本当の意味でのエリート。適合検査で適合しなかったらどうするつもりだったんだという疑問はこの際置いておく。


―――いやいや、何と言うか情報量多くない?

俺なんてちょっと他より要領がいいくらいが取り柄の一般家庭(というか親なしだからそこらの一般家庭にも劣るかも)出身だぞ?

見てくれだって黒髪で瞳の色が琥珀色で綺麗だねって言われるくらいだ。他は至って中庸なものの筈だ。

それに対して赤髪や白髪やら、更には顔がいいぞ2人とも。思わず見惚れるわ!

能力者となった親がいると、その際の変異した遺伝子が子にも引き継がれるらしいが、当然外見も当てはまるという事だろう。


やっていけるんだろうか、という不安が始まる前から勝っていた。

能力者となる為の英才教育を受けていると言うのなら、スタート地点がそもそも違う。

そういう家系とそうでない家系で足並みを揃える為にクラスを分けるのが本来の流れらしいが今回は適合者3人のみという事で全員同じクラス。

俺の遅れる分は担当教師からの特別講習が追加されるらしい。

つまり2人に合わせろという事である。泣けるぜ。


だが、それでもと、ここまでの不安要素があってなお、不安を内心で抱いても俺は前向きに考えていたのだ。

勉強に関しては…俺が死ぬ気で頑張るしかないのなら頑張る。俺は何事もポジティブに考える事が出来る男だからな。

分からない所があれば担当教師に、場合によっては件の2人も頼ろうと思う。

もしかしたら迷惑を掛ける上に鬱陶しがられる可能性もあるが形振り構ってられなくなるのは予想出来るのだから仕方がない。


あわよくば2人と仲良くなれるかもしれないという下心もあった。

状況はともかく彼等と同じ土俵にいる時点で自分も特別であるという感覚を無意識の内に持っていたのだ。


まあ、そんな考えも全て儚くぶち壊される事になるが―――。





「そこの野蛮人八坂 亮には今更何も言う事はありませんが……足を引っ張らないように。遅れぬよう精々足掻く事ね」


「…馴れ合う気はねえけど…陰険女柳生 刹那には関わるな、以上」


「は?陰険?誰の事かしら赤猿さん?」

「てめえの事以外ねえよ。後誰が猿だ、あ?」





初日に設けられた自己紹介の時間(いや名乗ってないが、自己紹介かこれ?)

そこにあるのは長年培われてきた罵詈暴言の応酬と険悪な空気でした。




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