第14話 戦っていく!  白崎なな

 銀の瞳が、俺の頭から下までゆっくりと視線で綺麗になったか確認をしていく。ささっと後ろに回って、背中まで確認をしっかりしてくれた。



「よし! これで大丈夫!」



 俺の手の中には、先ほど取り出した魔石が光り輝いている。深紅の光を自ら放ち、血を凝縮した色をしている。

 ルナが俺の背中から顔だけぴょこっと出して、深紅の輝きを覗き込む。


 ルナの瞳の銀色に映った深紅の光とのコントラストが、魔石の重さを感じる。腰に戻したナイフが、触っていないのにひとりでに動き出した。ナイフの先が鋭利な光を放ち、深紅の魔石を引き寄せる。


 手の中に収まっていた魔石も、磁石のようにお互いを引き寄せ合う。魔石がナイフに付着し、ナイフに飲み込まれていく。最後に血紅色の閃光を放った。


 ナイフに取り込まれた深紅の小さな石は、装飾となって現れた。目の前にいたはずの魔獣は、血の湖を残して跡形もなく消え去っていた。


 大きく滲み広がった血の湖の先に、道の続きが見えてくる。先ほどまで大きな魔獣で視界を遮られていて、先を見通すことができなかった。


 そのずっと先には、青白い光が差し込んでいるのが見える。外から差し込む月明に、道の先が外に繋がっていることを表している。

 


「先に進もうっ!」



 ルナは、気にも止めず血の水溜まりに足を踏み入れて先に進んでいく。彼女に怖いものは存在をしないかのように、感じさせる。


(あぁ、そういえば。捌くのがダメ…… なんだったか?)



 ここまで血に濡れたら、血の水溜まりに足を濡らすのはもうなんとも思わない。ルナの背中を追って、進んでいく。先ほどの閉鎖的な空間から出て、枝垂れる木々に覆われた場所に出た。

 あたり一面緑に覆われていて、ツタが足にまとわりつく。月光をいっぱい浴びて、木々に絡みつき上へ伸びている。



「えっ、この先? 進めるのかな?」



 ルナが、足に絡まったツタを手で外そうとしていた。うまく外せないようで、フラミンゴのように片足立ちになりふらふらとしている。ルナの側で片膝をついて、絡まっている葉を払ってあげた。ルナは、二歩三歩と後ろに下がって少し距離をとった。



「ありがとう」 



 消え入るような細い声でルナは、俺にお礼を言った。少し照れているようで、俯いていてルナの頭のつむじと目が合う。柔らかな髪を、乱すように撫でた。進もうと提案をしようとしたとき、月光に大きな影が通った。


 慌てて見上げた空には、先ほどの影の正体はいない。大きな影は、一瞬通っただけだった。ひらりと落ちてくる葉でさえ、静かで音がしない。空を通った大きな影も、音を立てず風も巻き起こさず通過していった。



「今のって、魔獣なのか?」

 


 ルナに尋ねたが、何かよくわかっていないようで撫でられた俺の手を払いキョトンとした表情になる。目の合うルナの銀の瞳に、先ほどの大きな影を落とした。


 大きな瞳を見開き、そのまま固まってしまう。先ほどの静は一変して、翼の大きな音が周りに響き渡る。俺は、ぐっと上半身を捻らせて空を見上げた。


 そこには、真っ白な大きな鳥が飛んでいる。その鳥の瞳は、三つの金のギョロッと動きそれぞれ別の方向に動かしている。瞬きをゆっくりとして全ての瞳が、俺らに注がれる。


 白い翼を風を巻き起こし、竜巻のように大きな渦を描きはじめる。俺らは、その渦の中心にいて巻き込まれて飛び上がる。



(穴に落とされたり、閉じ込められ…… 挙げ句の果てには、竜巻で飛ばされるなんて)



 俺たちは、空中を漂っている。そんな俺らにはお構いなく、その白い鳥は翼を閉じて地面に着地をした。そして、空に向かって大きな嘴を開いて耳をつんざく泣き声を上げる。その音を近くで聞き、耳がキーンッと痛い。


 鳴き声に反応をした白い大きな鳥たちが、群がってきた。大きさは大小様々で、空一面をその白い大量の鳥に覆われ一面が真っ白に包まれた。


 ルナが、苦しそうな表情をしながら空に向かって両手をかざした。先ほどのように光を放ち、容赦のない爆発が鼓膜をゆする。空を覆う白の魔獣たちの群れは、半減する。大きな音を立てて地面に落ちていく。そして、白の羽を残して溶けるように消えていく。


 竜巻の渦の中から、魔獣の群れが減り消えたのを見届けた。ルナの放った爆発によって巻き上げられていた渦の力が衰退していき、地面に叩きつけられる。俺の上にルナが降ってきて、腹部にも衝撃をうけた。



「ゔゔっ」



 しかし、その痛みは頭上から刺される金の視線によって消える。鳥独特の首の動きをして、首を右に左に動かす。ゆっくりと瞬きをして、翼を広げた。


 俺は、腹部に乗っかったルナを引き剥がした。ルナは顔を白くさせて、冷たい汗を流している。残念ながら、ハンカチなんて洒落たものを持ち合わせていない。手の甲でルナの額を撫でて、そばに座らせた。



「ちょっと魔力を使いすぎちゃったみたい……」



 苦しそうな表情をして、胸を押さえている。ブレザーを脱いで、ルナの肩にかけた。そして、頭上の白の魔獣に視線をやる。


 互いに睨み合うように対峙して、ジリジリと歩いて距離をさらに詰める。鋭い眼光に太く伸びた足に、少し足が震える。大きく広げた翼は、再度飛ばされそうになる風を送る。


 足にグッと力をいれて、右足を前に出して後ろに残した足で地面を蹴り上げた。その反動で鞘から剣を抜いて魔獣の足に斬りつける。


 魔獣の足から鮮烈な血を噴き出し、痛みで鳴き声をあげた。血を流しながら足を大きくあげて、ギラリと鋭い爪を伸ばす。踏まれないように、前転をしてその攻撃を回避する。



(あれ? 俺ちょっと今のかっこよくない?)



 自分でも、戦えると思えて少し余裕が生まれる。俺は、軽快なステップを踏んで太い足の動きから逃げる。逃げてるだけでは今の状況は変わらない。


 右手に握りしめた剣を上に向けて、隙だらけの鳥の腹に突き刺す。腹に突き刺さった剣を刃を飲み込んだまま、鳥は横に倒れてのたうち回る。抜けた白い羽が空中を漂う。



 巻き込まれないように、後方にジャンプして離れた。荒くした呼吸を整えるように、深く呼吸を取った。心臓は大きく脈を打ち、先ほどの闘いを物語っている。


 魔獣の動きがゆっくりになり、刺した剣を抜く。血が滴る剣で、さらに鳥の喉をついた。金の目から獰猛な視線を失い、完全に倒すことに成功した。頬についた血は、濃くてどす黒い色をしている。軽く拭って、後ろに座らせたルナの顔を見る。先ほどより顔色が戻りつつあるようで、少しホッとした。



「二体目、倒せたよ」



 テレビで出てくるシーンを思い出し、剣を振って滴る血を落とす。そして、鞘に収めた。ルナは肩からかけたブレザーを両手で握りしめ、銀の瞳の中に水分がぐるりと動いた。大きな瞳を閉じて、こくりと頷き無垢な笑みを浮かべる。


 先ほど深紅の魔石を取り込んだナイフを取り出した。そのナイフを魔獣の腹に突き刺し、軽い力で刃をスッと入れる。奥に突き刺すと、硬いものにあたる感覚がした。

 そのまま横に切り開いていく。ダクダクと血が流れ出て、硬い白い魔石がどろりと出てくる。


 血に塗れた魔石は、濁った白い光を放つ。どろりとした血が滴り、両手を汚していく。ナイフと魔石が引き寄せ合い、濁った白の魔石は取り込まれていく。

 溶けるように吸収された魔石は、真紅の小さな石の隣に白い小さな石となり現れる。


 装飾が付け加えられるだけで、特にナイフの変化は感じられない。月光の光にナイフをかざして、小さくなった魔石の輝きを確かめる。


 空には、まだ先ほどの白い大小異なる魔獣の群れが飛んでいる。地面の魔石を取られた魔獣は白い羽と血の池を残して消えてゆく。司令官を失った魔獣の群れは、散り散りになって消えていく。


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