第15話 香りに包まれる。 みみっく
ホッとした俺とルナは、その場に座り込みお互いに目が合うと微笑みあった。
「はぁ…… 終わったな」
「終わったねっ。どうなるか心配だったけど、ようくん強いんだね」
動きっぱなしで、お腹が空いてしまってバッグに仕舞っておいた肉を取り出してルナに見せると目を輝かせた。
「わぁ…… お肉? それ食べれるやつ?」
「昨日、獲った肉だよ」
「へぇ〜ようくん、狩りもやっぱり出来るんだ?」
ルナが意外そうな顔で俺を見つめて、視線が移動して肉を見て食べたそうにしていた。
「えっと、火っておこせるの? 火を起こすのって時間が掛るし…… 疲れるんだよな。魔力切れで無理かな?」
「うん。それくらいだったら、魔法で出来るよ」
森の中だったので枯れ枝や落ち葉があり、簡単に集められ火を起こせた。木の枝をナイフで削り肉に刺していると、ルナが切った肉に森で香草を肉に塗り込み匂いを付けている感じにしていた。
「これね、肉の臭みが消えて美味しくなるんだよ」
俺が不思議そうに見つめていると、ルナが笑顔で答えてくれた。肉に塗り込んでいる香草の匂いが辺りに漂ってくる。
(香草の良い香りだけど……肉に合うのかな?想像ができないなぁ)
ルナちゃんが肉に香草を塗り込んでいる間に、ブロック肉に余っていた香草を塗り込み大きめの串に刺した。
香草を塗り終わった肉を石と石の間に置き遠火で焼き、火で熱された肉が徐々に焼け油が滴り落ち香草の香りと肉の焼ける良い香りが漂い始めて来る。
(あれ? さっきまで香草の独特の良い香りで美味しそうな匂いではなかったけど、肉の焼ける匂いと混ざって美味しそうな匂いになってる!)
二人で肉を焼けるのを黙って見つめ、美味しそうに焦げ目が付いてきたのを見て生唾を飲んだ。
「もう良いかなぁ〜? ねぇー? もう良いよね?」
ルナが我慢できない感じで、俺を見つめて許可待ちの可愛い子犬のような表情をして聞いてきた。
(俺に聞かれても料理は、詳しくないし…… 前回が初めての料理だぞ? 女の子のルナちゃんの方が詳しいんじゃないのか? 魔法を使って走ってお腹も空いて、この匂いと焼けてる肉を目の前にしたら我慢は出来ないよな)
「焦げ目も出来てるし、そろそろ良いんじゃないかな? 食べてみて生だったら焼き直せば良いんだし」
「そ、そうだよね食べちゃおっ?ね?」
串に刺したブロック肉の方をナイフで焦げ目が付いた所を削ぎ切りにして、キレイにした大きな葉の上に置いて渡した。
「わぁっ。なにこれ美味しそう!」
「これなら焼けた所から直ぐに食べられるかと思って」
(これ動画で見てやってみたかったんだよね……塩とかタレがあればもっと良かったのに)
焼けるまでの時間稼ぎには、ちょうど良かった。
「これなら直ぐに焼けて食べられるね!」
「火から近くにすれば、もっと早く焼けるし」
「ダメダメ〜焦げちゃうってー」
そんな会話も楽しみ、どんどんと仲良くなれた。そろそろ肉が良い感じに焼けた感じになった。
自分たちの目の前に石に置かれてた串を掴み齧り付いた。余計な油が落ち焦げ目で肉汁は落ちずにジューシーで肉汁が噛むと口の中に溢れ出し香草で臭みも消えていて、前回食べた同じ肉とは思えない美味しさに仕上がっていた。
「これ……美味しい! すごい!」
「これルナちゃんの香草が合ってるんだよ! 前回と味と風味が全然違って臭みも消えてて美味しい!」
ルナも褒められて照れている感じで視線を逸らして完食をした。満足そうな表情をしていたが驚いた表情に変わった。
「わぁっ。魔力が戻ってきてる感じがするよ」
「え? ホントに?」
「うん。力がみなぎる感じがしてる!」
ルナが自分の手を見つめていると手に薄っすらと光るモヤが見え始めた。
「この肉って魔力の回復の効果があるのかもね」
「そうなんだな…… 俺には何も無かった…… って、魔法が使えないから効果も分からないんだな。でも魔力が回復して良かったよ」
「うん。ありがとうね!」
(これで安心してダンジョンを進められるな。俺一人じゃムリだし……)
お腹が膨れて少し休憩をしていると、ルナが先程の戦いの話をして来た。
「さっきの戦いは、スゴかったねっ! それに狩りもできてスゴイんだねっ!」
ルナに改めて褒められて、少し恥ずかしく嬉しくなった。慌てて恥ずかしさがバレないように誤魔化した。
「夢中で、剣を使ってたら倒せてた感じだな。それに狩りは幸運なだけな感じだったし」
「狩りは幸運なだけじゃ獲れないよ。それにさっきの相手は、夢中だけで倒せる相手じゃなかったよっ」
銀色の目を輝かせて見つめられて、恥ずかしくて目を逸らした。
「カッコ良かったよッ」
「え?あ、ありがとな……」
徐々に近づいて来られて困り、平常心を装い動揺をしているのがバレないように顔を背けた。
「え?もしかして……照れてるとか?」
「照れてなんか、ないってっ」
「ふぅ〜ん……顔が赤いけど?」
ルナが近寄ってきて顔を覗き込んでくる。それを避けるために立ち上がった。
(もぅ、なんなんだよ……褒めたり、見つめられたら困るって。そろそろ移動でもするか)
「そろそろ探索を再開しよっか?」
「ねぇ。もっとお話をしよっ?」
ルナが珍しく俺の袖を掴み引っ張って、甘えた表情をして見つめてくる。
「話って何を話すんだよ?」
「それは……だってお互いの事を何も知らないし」
(お互いの事……俺は何となく分かったけどな)
「それは帰ってからで良いんじゃないのか?」
「もぉ。面白い反応だったのにっ」
ルナが頬を膨らませ、可愛いく怒った表情をしてプイッとそっぽを向いた。
(あ、やっぱり……俺をからかうつもりだったのか)
「ほら。行くぞー」
「はーい」
怒ってそっぽを向いたのも演技だったらしく、素直に返事をして立ち上がった。
「次は、何処に向かう?」
二人が立ち上がり行き先の相談をし始めると、カタッと小さな音がした方向をゆっくりと振り向いた。ここに住み着いている犬なのか魔獣なのか不明だがヤバイ雰囲気だ。3頭も相手にできない。
「ルナちゃん……ここで戦うのはマズイと思うよ?」
「ちょっと……不利かもね。どっちかが2頭相手にしないと」
辺りを見回すと、木々が生い茂っていて完全に不利だ。どこから攻撃を受けるか分からない。さっそく犬が散開し始めた。
「囲まれる前に逃げるぞ」
「わ、分かったっ」
二人で獣道を走り新たなるダンジョンの入口が見えてきた。ルナが途中で木の根に躓き大きく前のめりになり転びそうな所を、慌ててベルトを掴み引き寄せると同時に振り返り辺りの気配を探った。
「まだ囲まれては、いなさそうだな」
「……うん。ごめんッ。あ、ありがとね」
申し訳無さそうに素直に謝ってこられて、こんな時なのに素直なルナにドキッとしてしまう。
「ダンジョンの入口まで走れそうか?」
「大丈夫!」
とっさにバッグから肉片をナイフで削りとり、2箇所に投げた。その投げられた餌の取り合いが始まったらしく、争う犬の唸り声と争う音が辺りに響いた。
「ようくん、すごいッ! 良く思いついたね」
「え?あぁ……。とっさに時間稼ぎと思ってさ」
(えっと……さっきから褒められてばっかりで困る。それにそのキラキラさせた目で見ないで……調子が狂うって)
無事にツタが絡む、いかにもダンジョンという入口まで入ってこれた。ここならば襲われても複数ではなく、1頭づつと戦えそうだ。辺りを気にしながらしばらく待つが追ってくる様子は無い。
「追ってくる気配はなさそうだな」
「あのさぁ……肉あげすぎてお腹いっぱいになっちゃったんじゃない?ようくん、気前が良すぎだよ」
(必死で肉を切り分けたので大きさなんて気にしてられないだろ?)
「それは仕方ないだろ。必死だったんだからさ」
「そうだよね」
ダンジョンの中は明かりが同じ様に灯っていて薄明るいが見えないほどではなく不気味な感じがする。同じ様な景色が続き、いくつか扉があったが鍵が閉まっているのか開かなかった。
ダメ元で扉に手を掛けると錆びついた扉を開ける独特の音がダンジョン内に鳴り響いた。部屋の中は明かりは無く暗闇が広がっている。
「開いちゃったけど?」
「うん。開いちゃったね」
二人で顔を見合わせて、もう一度部屋の中を確認した。バッグからライトを取り出し部屋の中を照らした。そこには木製で出来たテーブルと椅子のみで休憩室の様な感じだ。
「休んでいくか?」
「ダメでしょ……扉の前に敵が現れたら逃げられないよ?」
(そろそろ疲れただろうと思って聞いたのになぁ……でも、ルナちゃんの言う通り逃げ道が塞がれたらお終いだよな)
ルナも残念そうな顔をして次に進む事にした。錆びついた音を立てて扉を閉め終わると、後方から獣の足音が複数が近づいてくる。犬が駆け寄ってくる足音だと、目視で確認をしなくてもわかる。
「はぁ……来ちゃったね」
「だな。犬っぽいな」
「犬だね」
二人でため息をつき戦闘の準備を整えた。
(ここなら不意を突かれて攻撃を受ける事は無いだろ。)
通路に横並びに広がり、犬が襲い掛かってくるのを待った。思った通り先ほど森で見かけた色の犬がみてくると躊躇無く襲い掛かってきた。
ガルゥゥと低い唸り声をあげながら噛みついてくるのを剣で防ぐと、剣に噛みつかれ離れなくなった。剣にぶら下がっている犬に、ナイフを取り出し前足の間に突き刺した。
途中でルナの放つ魔法が閃光を放ち、周りが明るく照らされ気になるがルナを見ている暇はないがドサッと犬が倒された音が聞こえた。突き刺したナイフの跡から血が滴り落ち、犬は力なくダンジョンの床にドサッと落ちた。
ルナの方は、相変わらず凄まじい破壊力の魔法を繰り出していた。丁度、2頭目を倒す所だった。飛びかかる犬に向かい手を翳し閃光を放つと、手のひらから魔法を放ち飛びかかる途中の犬に直撃をした。直撃をすると、透明の壁にでもぶつかったように弾かれダンジョンの床に重みのあるドサッという音がして動かなくなった。
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