2 もしも願いが叶うなら
「ミャウミャウ! 来るぞっ」
「わかってるわよっ! くらえっ! ニャット・マジック・ファイア!」
わたしのダサい掛け声に合わせて、わたしの構えたこれまたダサくてリリカルにキラキラなステッキの先から、炎が飛んでいく。
その先には
「よしっ! 行けるぞっ! 今日こそニャオウを倒すんだ! 魔法少女マジカル・ミャウミャウ!」
「そのクソダサい名前で呼ぶなっつーのっ!」
わたしのクレームに、ふんと言わんばかりに耳を立ててフワフワ浮いているのは、わたしの相棒だとか言って、わたしをこのクソダサい魔法少女に仕立てた三毛猫だ。
ちなみにオスらしい。
「今の君は魔法少女マジカル・ミャウミャウにゃんだろう?
どうしても叶えたい願いがあるから、我輩と共にニャオウを倒すと誓ったではないか」
「それとこれとは別だっつーの! あんまりふざけたコト言ってると売り飛ばすわよっ!」
三毛猫のオスは珍しいって幼馴染から聞いたことがあるから、きっと売れるに違いない。
「おい! よそ見をするにゃっ! バカおんにゃ!!」
「え? っ! キャアァァ!!」
ニャオウからの攻撃が飛んでくる。なんとか横跳びをして直撃は避けたけど、着地した何もない地面に躓いて、バランスを崩してそのまま瓦礫に顔を打ちつけてしまう。強かに打った頬が燃えるように痛む……。
だけど……
「泣いている暇はにゃいぞっ! こんのドジっ子めっ! ミャウミャウ立てっ! 立つんだっ!!
次のヤツの攻撃が来る前に、最終奥義でヤツにトドメを刺せっ!」
「泣いてねーわっ! ドジっ子でもねーわっ!! ホントアンタ口煩いっ! 幼馴染にそっくりっ!
もう! やりゃあいいんでしょ!! やりゃあっ!!
だから……! 絶対絶対! 願いを叶えなさいよっ!!」
真っ白で無機質な病室で……
「あぁ! 絶対だっ! 行けっ! ミャウミャウ!!」
色々なチューブやらなんやらに繋がれて……
「その名前で呼ぶなっつーの!
行くわよっ! 最終奥義っ!!」
息をするだけの彼が……
「「ファイニャルッ!! サイクロンッ!!」」
どうか目を覚ましますように……
三毛猫とわたしの叫び声が重なって、リリカルなステッキの先から、何もかもを切り裂きそうな風と、何もかもを燃やし尽くしそうな炎が、渾然一体となってニャオウの体を取り込んでいく。
轟々と激しい風と炎が空を焦がし、空気を浚い、そして……。
「あぁ……これで……我輩の願いも……かにゃう……」
静けさが戻った後にはニャオウの姿は……ついでに口煩い三毛猫の姿も消えていた。
かちんと音を立てながら、見舞人用のパイプイスを開いて、幼馴染の顔が見える位置に腰を下ろす。
ピッピッピッと規則正しい電子音が、目の前のコイツが生きている証。
だけど……
「……起きないじゃない……」
ぽすりと前に倒れて、真っ白いシーツに顔を埋める。
目の前には、点滴やらの管が刺さったな真っ白い腕。
『おい! よそ見をするなっ! バカ女!!』
『っ!? こんのドジっ子めっ!!』
そう言って、迫り来る暴走車から逃げてる途中、何もないところで躓いて、逃げ遅れそうになったわたしを突き飛ばしたあの腕が。
今、力無くシーツにのびていて、あの時の力はもう出せないだろうって、容易く想像がつく程痩せてしまったこの腕が。
「……ニャオウを倒したら、願いを叶えてくれるんじゃなかったの? 三毛猫……」
悲しくて、目の奥が燃えるように熱くなって……。
でも眼球はカラカラに乾いたまま。
「……これは契約違反、いや契約不履行だわ。クソが。もう二度と、魔法少女なんかやらねーわ」
今度見つけたら問答無用で売り飛ばしてやるっ!
「……なんだ? もうやらないのか? 可愛かったぞ? ミニスカフリフリの魔法少女マジカル・ミャウミャウ?」
聞こえてきたのは、酸素マスクに阻まれて僅かにくぐもった、でも馴染みある声。
長く喉を使っていなかったせいで、少しだけ掠れているけど……あの事故の日から、もう一度聞きたいと願ってた声。
「……グスッ……うるさいなぁ、このネボスケヤロウ……」
「……泣いている暇はないぞ? とりあえず看護師さん呼んでくれ。……あぁ、何もないところで転ぶなよ?」
こんのドジっ子めってアンタが言うから……。
「泣いてねーわ……アンタホント……口煩い」
つるりと頬を滑る水滴の感触をそのままに、わたしはナースコースに手を伸ばす。
こうして魔法少女と三毛猫の
「……ところで猫になってる間ってどんな感じだったの?」
「……どうだったかなぁ? とりあえずお前がガサツで、
「なっなっなぁぁ!! わ、忘れなさいよー!!」
「あと立ち位置によってはミニスカの中がなぁ……」
「に゙ゃ゙ー!!!」
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