勉強会と期末試験
インターハイ予選が終わってまずあるのは期末試験だ。
部活は休みだが自主練は欠かす気が無く、今回の試験はスルーするつもりだった。
少しくらい成績が下がっても仕方なし。授業は真面目に聞いているので20位には入れるだろう。10位以内は厳しくとも十分だ。
そんなつもりで日々練習に勤しんでいたがそうも言ってられなくなった。
そこそこ長い付き合いの奴からヘルプが来たからだ。見捨てるのも申し訳ない。
そう、それは昨日の夜の事だ。
ポンと通知音が鳴る。
部屋で一人で猫と戯れていた俺はスマホを手に取る。
通知の名前を見ると慎吾の名前が表示される。
特に用事が無くてもメッセージを送ってくる慎吾のメッセージを何気なく開く。
『至急。救援を頼む。』
意味の分からないメッセージだった。スルーしようかと思ったが返してやる。
『どうした。犯罪には手を貸せないぞ。』
直ぐに返信が来る。
『お前がバスケで忙しいのは重々理解している。だけど助けてくれ。今回のテストが不味いんだよ。』
慎吾の成績は桜に依存している。桜が俺にべったりとなっている以上、その成績が下がる理由の一端は俺にある。
流石に申し訳ない。まぁ桜と環奈の手を借りることは無理でも俺だって最低限の予習、復習はやっている。問題ないだろう。
『桜と環奈に声をかけるのは無理だぞ?俺だけなら良いけどさ。』
『それは別にいいよ。颯汰は20位以内には入れる目算だろ?その知識を俺に叩き込んでくれればいい。俺だって何も10位以内を目指してるわけじゃないし。』
ならいいかと承諾のメッセージを送ることにする。
『場所は?』
『今回はマジでやばいからな。そこそこの時間が欲しい。ファーストフード店、ファミレス、カラオケとか飲み物を飲めるところでどうだ?』
金はかかるがまぁ軽食も食えることを考えれば悪くない。ファミレスなら出費も高くないし。
『OK。テスト期間中の放課後は学校の図書館を1時間使うか。で土日は朝から夕方までファミレスでって事で。』
『おし、それでいこうぜ。頼むぞ相棒!俺を救ってくれ!』
いや救うことは出来ない。桜と環奈みたいにテスト問題を予想とかもできないし。
『俺にそんなこと言われても無理だぞ。基礎はともかく応用は網羅してないから。』
『まぁなんとかなるだろ。』
軽い。まぁいいか。教えることによって理解度は高まる。それによって俺の順位も安定するだろう。
そんなこんなで男だけの勉強会が決定した。
「ってわけで勉強会をしてくることになった。」
俺の言葉に二人は呆れたような顔を向ける。
「慎吾に勉強を教えるのは簡単じゃないわよ?」
どういうことだ桜の言葉に首を傾げる。
「どこで詰まってるか本人もわかってないのよ。地頭は悪くないのよ?適切に教えてあげれば点数もとれる。その為には軽く小テストをしてわからないところを洗い出してあげないといけないのよ。はぁ仕方ないわね。颯汰は身内には甘いもの。私も手伝ってあげるわ。」
「私はパス。朱莉を連れてファミレスとかは大変だもん。」
環奈はそう言って苦笑した。それは当たり前だ。元々無理強いをする気は無い。
「テスト期間中の料理は私がして環奈を休ませたかったんだけど…。ごめんね?環奈。」
環奈は首を振る。
「大丈夫だよ。桜は二人分の勉強を見るんだから私より大変だと思うし。でも今回も負ける気は無いわ。桜だってちゃんと私に勝つ気なんでしょう?」
「えぇ。前回の1点差の屈辱は返させてもらうわ。覚悟して。」
二人はしばし見つめ合った後に微笑み、握手をした。どこかのスポコンアニメかと錯覚するようなワンシーンだ。
「で?テスト期間中の自主練はどうするのよ。」
桜が俺の方を見て聞いてくる。
「ランニングのみだね。体力向上だけは辞められない。まぁでもたまにはボールに触らない日があってもいいかと思う。体育館を個人的に借りようかと思っていたけど、そのお金はファミレスに回すよ。」
「わかったわ。私は今日中に小テストを作っておくわ。今日が日曜だから、月火は放課後の時間を使って慎吾の現在の学力テストに充てましょう。颯汰もやってみる?」
今回は俺も自信は無い。序に俺の分も作ってくれるというなら有難い。
「あぁ、頼む。今回は20位以内なら良いかなって思って予習復習くらいしかしてない。だから助かるよ。」
「わかったわ。」
桜が頷いてリビングから出ていく。
「私も勉強をするわ。桜には負けられないかね。」
環奈が立ち上がる。一瞬仁さんと会ったことを話すか迷ったがやめた。
この話は俺の中だけで留めておけばいい。
こうして明日からの勉強会が決定した。
「うーん。まぁ現状でも30位くらいはいけるんじゃない?」
火曜日の放課後、慎吾の小テストの採点を終えた桜は慎吾に言う。
「でも下振れをする可能性もあるだろ?だからある程度はしておきたいんだよ。」
「まぁそうよね。いいわ。サポートはしてあげる。颯汰のついでにね。」
「ついでかよ。」
慎吾が苦笑する。
「当然じゃない。私は颯汰優先なんだから。」
「俺も不味い?」
桜は首を振る。
「20位は狙える。でもどうせやるんでしょ?10位以内は確保させてあげる。颯汰の場合は基礎は完璧だもの。応用は怪しいけれど何とか間に合うでしょう。対して慎吾の場合は基礎も怪しいから20位が限界かもね。」
「まぁ20位でも十分だよ。」
「10位以内か。やる以上は頑張るさ。」
俺達の言葉に桜は頷く。
「でも覚悟しなさい?本気で叩き込むからね。」
いや不安しかない顔してるんですが…。ポンと肩を叩かれる。
「安心しろ。順位は上がる。ちょっと地獄を見るだけだ。」
肩に置かれた手が震えている。いや一体どんな勉強なんだよ…。
不安になりながらも俺は苦笑するしかなかった。
土曜日、俺たちは予定通りにファミレスにて勉強会を実施していた。
「颯汰。そこは違うわ。」
桜が俺の前に公式を書いて詳しく教えてくれる。いや凄い分かりやすいわ。
「慎吾。アンタなんでそんなところで躓いてんのよ。やる気あんの?」
「ひぇ。すいません。」
いやあたり強くね?
「前から勉強の時はこうだったよ。普段はおしとやかを演じてくれてたけどさ。勉強の時はいつもこうだ…。」
「マジか…。」
「だって慎吾は厳しくしないとさぼるのよ?そして成績がどんどん下がるの。だから決めたわ。こいつを甘やかすことはしないと。」
その目はマジな時の目をしていた。
どうやら色々あったらしい。慎吾は怖いだろ?っと俺に耳打ちして苦笑している。
「ほら、何してるの?話している暇があったら早く手を動かしなさいよ。」
『はい…。』
声が被る。その目を向けられるのは怖い。
「あっ!?颯汰は大丈夫よ!?よくできてるもの。」
「お、おう。でも真面目にやるよ。」
ここでしっかりやっておかないと慎吾と同列に見られてしまう。
そうなれば俺もあの冷たい目で射抜かれてしまうだろう。それは嫌なので気合を入れて勉強に励むのだった。
カリカリとシャーペンが動く音がする。
チラリと桜を見ると目が合った。
「どうしたの?わからないところがあった?」
「いや視線を感じたからさ。」
どうにもじっと見られてる気がする。
「あっ、ごめんなさい。だめね。このままでは環奈に負けてしまうわ。颯汰の真面目な顔が格好良すぎてつい見惚れちゃった。」
そんなことを言われると流石に恥ずい。
「そ、そうか。まぁ格好いいと言われて嫌な気持ちにはならないよ。」
頬をかく。顔が熱い。多分赤くなってる。
「ふふ。さっきまで格好良かったのに、赤くなっちゃって…可愛い。」
「か、かわ!?」
思わず少しだけ声量が上がる。視線が集まる。
「いちゃつくのやめてくんねぇかな!?」
隣から声がかかる。ありがとう慎吾。助かる。
「なによ。羨ましいの?」
「いや全然?だけど俺の存在を忘れらるのだけは我慢できねぇなぁ。」
「あっごめん。存在忘れてたわ?」
「おい、幼馴染。」
慎吾がジト目で桜を見る。
「仕方ないでしょ?好きな男の真面目な顔よ?我慢できる?」
「それは…出来ないな。」
おい、慎吾!頑張れ。
「そこからの可愛い顔よ?耐えた私を褒めて欲しいくらいよ。」
「よし。許す。」
そのやりとりに苦笑する。
「まぁでもそうね。私も真剣にやるとするわ。二人もわからないところあったらドンドン聞きなさい。」
そう言って桜は資産を手元に落とす。俺達は顔を見合わせて苦笑した。
試験の結果が出る日、俺達は廊下にいた。
「ふっ、遂にやったわ。」
桜がぼそりと呟く。そこには桜と環奈の同率一位の名前が並んでいた。
「はぁ。一問のケアレスミスが首を絞めたわね。でも負けたわけじゃないし。」
確かに。お互い三角が一個の1教科以外満点。
とんでもない成績だった。
俺は9位。落ちはしたがしがみついた。
そして慎吾は19位だった。厳しい試験期間だった。俺達は健闘を讃えて拳を合わせた。
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