全快とデート
「痛みはありませんか?」
日曜の午前。先週お世話になった先生に聞かれて大丈夫ですと応える。
「うんうん。よく練習をせずに我慢しました。君みたいに若い子は無理をしがちだからね。休む事も大事なのですよ。いいパートナーを持ちましたね。」
そう言って先生が桜に微笑むと、桜は耳まで真っ赤になっていた。
「ええ。俺には勿体無い、最高の女性です。」
「そ、颯汰!?」
「事実だからな。」
俺がそう言うと更に真っ赤になる。それを見て先生が笑った。
「何かあればまた来なさい。君たちの事を気に入りました。」
「あんまり怪我はしたくないですけどね。でもその時はお願いします。」
先生に頭を下げて診察室を出た。
「デートにでも行くか?」
病院を出て桜を誘う。
繋いだ手はじんわりと暖かい。
「環奈と朱莉ちゃんに悪いわ。」
「来週は二人を誘うよ。今日はもう少し二人でいたい。ダメか?」
そう言うと顔を赤らめてこくりと頷いた。
可愛い。今ここでキスをしたい。でも流石にこんな場所ではそんなこともできない。
「どこに行きたい?」
「じゃあ大型のショッピングモールに行かない?猫のおもちゃがボロボロになってきたから新調したいし、ウインドウショッピングも出来るしね。」
「いいね。行こうか。」
あそこならやれることがたくさんある。
デートにはピッタリだ。歩き出すと桜が手を離して腕に抱きついてくる。
「デートなら今日はか、彼女としてエスコートしてね。」
ボソッとそんな事を言われる。桜は最近ドンドン距離感が近くなっている。それが可愛くてドキドキとする。
「元々可愛いのは知ってたけど、最近ドンドン可愛くなってるよな。押し倒していいか?」
「バカ。まだ出来ないのに期待させないで。」
確かに今の発言は最低な失言だった。
「すまん。」
「でも嬉しいわ。私だって早くそういうことしたい。女にも性欲はあるし。」
そう言って妖美に微笑む。失言に冗談で返してくれたのは分かっていても息を呑む。
「敵わないな。」
「ふふ。私の事好きにしていいのは颯汰だけだから。考えておいて。このままストレスを抱えるだけじゃいつか潰れちゃうでしょ?お互いに。」
なんて返すかなんて考えるまでもなく決まっている。
「わかった。君の人生の責任を取ることはもう決まってるからな。それに初めては君と決まっている。」
最低な下ネタ発言から始まった会話だが、一つでも多く将来の約束はしておきたい。
「うん。じゃあ予約したからね?」
桜が笑顔になる。なんと返しいいものかと苦笑した。
ショッピングモールにつくと先ずはペットショップに入る。目的の物は直ぐに見つかる。
猫にもおもちゃの好みがある。ヨミは細長いもの、スノウはネズミ、ミィはボール。それぞれのおもちゃを買い、オヤツのチュールも買う。そしてペットショップを出た。
腕を組みながらという羞恥心を浴びながら服屋に入る。
「颯汰はどんな服が好き?」
「どんな…?難しいな。しいて言うならミニスカートよりも長いスカートが好きだ。可能な限り清楚な服装がいい。」
そう考えると環奈が浮かぶ。環奈もそういう服装だ。直接伝えたことはないが。
そういえば今日の桜はロングスカートだ。
「やっぱり環奈はあんたの事をよく理解してるわね。」
「どういう事?」
「この服は環奈の服なの。あの子ったら今日の服を真剣に選んでくれたわ。今日はデートの予定も無かったのに。でも毎回聞くのも申し訳ないじゃない?だから服を買おうと思ってね。まぁこういう大人っぽい服装はすらっと背が高くてスタイルがいい方が似合うんだけどね。私は可愛い系の方が合ってるんだけど…今日は私の事をちゃんと貴方色に染めてね?」
そう言って微笑む。顔が熱い。
「オシャレとか流行とか分からんぞ?」
「いいのよ。颯汰の選んだ服を着て歩きたいんだから。難しいこと考えずに、私から目を離せなくなる服を選びなさい?」
素直にいいと思った服を選べばいいって事か?それなら出来そう。
「わかったよ。」
「ふふ。素直でよろしい。」
そう言って桜は俺の腕を引いて中に進む。女性ばかりで居心地が悪い中で俺は桜のファッションショーに付き合った。
「本当に長いスカートが好きなのね。」
1時間半くらい服を選んだ俺たちは店を出て喫茶店に入っていた。
苦笑しながらコーヒーをすする。
「短いスカートは目のやり場に困る。それに他の男に見られてるのも気に食わない。でもオシャレってのは自分の為にするものだろ?だからわざわざいう事はないよ。今日は俺の趣味にって桜が言うから言ったけどさ。」
「へぇ。私の足を他の男に見られたくないんだ。独占欲ってやつね。可愛いところもあるじゃない。」
「仕方ねぇだろ?桜は可愛いんだから…。」
現に並んで歩いていると視線を感じるし。照れる俺を見ながら桜はニコニコとしている。本当に敵わない。
「で?次はどこに行くんだ?」
「あんまり二人を待たせても可愛そうだし、帰ってもいいんだけどね。どこか行きたいところはある?」
行きたいところ…。あると言えばある。
「アクセサリー屋に行こう。」
「そういうの興味あるの?知らなかった。」
「興味があるわけじゃない。でも買いたいものがある。」
環奈にだけっていうのは不公平だしな…。桜は俺の発言に首を傾げる。まぁ桜は知らない話だし何の話かも分からないだろう。
「付き合ってくれるか?」
「えぇ。わかったわ。」
丁度コーヒーを飲み終わった俺たちは会計を済ませて店を出た。
手ごろな価格の雑貨屋を見つけて店に入ると目的の物を見つけた。
「これって…。」
高くは無いが指輪のコーナーにしゃがむ。
「昔さ、お祭りの出店で小遣いを使って環奈に指輪を買ったんだ。幼心に冗談とかじゃなく本気でさ。環奈はそれをちゃんと持ってるみたいで、それを聞いたときに桜の顔が浮かんだんだ。この歳とはいえ、まだ高いのは無理。でも高くないものなら買える。宝石とかはついてないけどさ。どうかな。」
桜が俺の横に座る。そして一つを手に取った。シンプルな銀色の物だ。
「これがいいわ。シンプルだし、嫌味もない。有難くもらうけど環奈の分も買いなさいよ。たぶん指の太さは私と大差ないでしょ。アンタの分もね。」
「いいのか?俺は桜の分を買う為に来たんだけど。」
俺の言葉に桜はバカねといつものように笑う。
「私は私がいい女だと思う振る舞いをするのよ。正妻は譲らないけど、親友として彼女を大事にするのは変わらないわ。朱莉ちゃんには…。」
すっと髪ゴムを手に取る。綺麗なピンクのリボンのついた髪ゴムだ。
「これを買っていきましょう。きっと似合うわ。」
「ほんと…いい女だよな。」
立ち上がって会計を済ませると手を引かれてベンチに座る。
「左手の薬指は結婚指輪まで取っておきたいから右手の薬指につけてよ。」
そう言われて右手が差し出される。
「なんか照れるな。」
「予約よ。私がアンタの物だって証明してくれればいいの。」
そう言われて生唾を飲む。一つ息を吐いて指輪をはめた。桜は指輪を見ながら嬉しそうに微笑むと俺の手を取って。俺の指にも指輪をはめる。
「ふふ。私みたいな愛の深い女の子に指輪なんて送っちゃって。これで私たちは婚約したようなものね。私は嫉妬深く、所有欲も強いわ。とんでもない女に捕まっちゃったわね。」
「お互い様だな。」
手を取って立ち上がる。
「俺だって君を逃がす気は無いんだから。」
「ほんと…似た者通しよね。」
俺の言葉に桜は苦笑して、強く手を握った。
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