幼馴染との時間

体を揺さぶられて目を覚ます。環奈が覗き込むように俺を見ている。

「颯汰。おはよう。朝ごはん出来たよ。」

「ふあ。おはよう、環奈。悪いな。」

「ううん。立てる?」

体を起こすと昨日よりは痛みも治まっている。

「大丈夫だ。朱莉ちゃんは?」

「リビングでお絵描きしてる。」

今日は環奈が休みということで朱莉ちゃんもお休みしている。

「よし、久々に朱莉ちゃんと遊ぶぞー!」

「ダメよ。子供と遊ぶのは体力使うんだから。ゆっくり休まないと。」

「せっかく時間があるのに!?」

環奈が苦笑する。

「朱莉を大事にしてくれるのは嬉しいけどね。でも朱莉を休ませたのは家から出ないで済むようにするためだから、貴方に無理をさせる為じゃない。」

「もう痛みは治まってきてるんだ。だからゲーム…ゲームくらいなら!もしくわトランプを…!」

時間があって朱莉ちゃんもいるのに遊ばないという選択肢はあるか?いやない!

「はぁ。わかったわ。トランプとゲームだけね。体を動かすのは禁止。」

「やったぜ!」

あんまりゲームはやらないけれど、実は一通り揃っている。やりたいゲームは沢山あるが時間が無いのだ。

「やはり幼児とやるなら人生ゲームのようなボードゲームか?格闘ゲームは厳しいか。レースゲームならいけるか?」

「先にご飯よ?」

「あっそうだったな。すまん。」

ついついこの後の時間を考えると色々考えてしまった。

環奈について部屋を出てリビングへ向かう。

「にーに!」

駆け寄ってくる朱莉ちゃんを抱き上げようとしてこつんと頭を叩かれた。

「抱っこ禁止だから。」

「うぐっ。世知辛い…。わかったよ。おはよう朱莉ちゃん。」

「おはよう!」

元気に返事が返ってくる。やはりこの年の子供は素直でいい。

「お怪我いたいいたい?」

「少しだけね。日曜には完治すると思うから。」

「うん。朱莉もにーにと遊ぶの我慢する!」

「大丈夫だよ。ゲームとトランプくらいならできるから。」

「ホント!?」

顔が明るくなったと思ったらその目線が環奈に向く。きっと俺に負担をかけないように注意してくれたんだろう。

「体を動かすことはダメよ?」

「わかった!」

うん。良い子だ。頭を撫でてやると笑顔を返してくれる。

「やっぱり朱莉ちゃんは可愛いなぁ。」

「颯汰って子供好きよね。まぁ良い父親にはなりそうだけど。」

「親が過保護だからかなぁ。子供には優しくするのが当たり前だと刷り込まれているのはある。でもそれ以上にきっと君の妹だから大事なんだ。今はあまり時間が無いけれど、時間が出来たら色々してあげたいとも思ってる。毎日楽しく、夢を持って大きくなってもらいたいからね。」

「ふふ。私、貴方のそういうところ大好きよ。」

微笑む環奈に目を奪われる。とても綺麗な聖母のような微笑だった。


朝ごはんを食べ終わり、俺と朱莉ちゃんはテレビゲームで人生ゲームをしていた。

環奈は洗濯と掃除をすると言って席を外している。

朱莉ちゃんは好調だが、俺はバッドマスばかりを踏んでいる。これはお先真っ暗という暗示なのか?ってぐらい調子が悪い。

でも朱莉ちゃんは楽しそうなので良しとする。

「喉が渇いてきたな。朱莉ちゃんは何か飲む?」

「甘いやつならなんでもいいよ!」

何でもいいとは難しい。

立ち上がって冷蔵庫に向かうとリンゴジュースがあった。

これでいいかとコップに入れて戻ると環奈が戻ってきていた。

「お疲れ。任せちゃって悪いな。」

自分の分として持ってきていたリンゴジュースを渡すと環奈が受け取る。

「自分の為だと作業だけど、皆の為だと苦じゃないわ。だから好きでやってる。謝られることは何もないわ。」

「そっか。」

環奈が半分飲んだリンゴジュースを返してくる。どうやらバレていたらしい。

「颯汰もあんまり気を使わないで。私達幼稚園からの仲なんだしさ。」

チラリと朱莉ちゃんを見ると環奈の膝の上で寝ている。疲れちゃったのかもしれない。環奈の横に座って朱莉ちゃんを撫でる。

「思えば長い付き合いだよな。3歳の頃からだから10年以上か。」

「うん。ねぇ、なんでそこまで私を守ってくれるの?あの親に喧嘩を売れる人間なんて颯汰しか見たことが無い。大体の人は下から持ち上げる人ばかりよ。いくら付き合いが長いからって、達成して得られる報酬は私だけよ。ハイリスクローリターンじゃない。」

「別に環奈が欲しかったんじゃない。環奈と朱莉ちゃんの自由が欲しかったんだ。好きに生きてほしいと思った。その為にはあの男から君たちを奪わなきゃならなかった。理由は指輪だよ。」

お祭りでお小遣いを出して買った指輪。年齢なんて関係ない。一度守ると決めたなら立ち向かうべきだ。

「覚えてたんだ…。あの指輪…。」

「まぁな。でも一度は心が折れたよ。諦めた。でもそんな時に桜が俺に手を差し伸べたんだ。運命だと思った。だから今度こそ一度あのムカつく顔に一発入れてやろうと思ったんだ。ウチの家のルール覚えてるか?」

「家族が困ってたらどんな困難な状況でも助けなさい…でしょ?」

そう。だから父さんと母さんは陰で環奈の両親と何度も交渉をしている。上手く入ってないけれど。俺には隠しているけれど実は俺はそれを知っている。あの二人の息子なんだから向う見ずに喧嘩を売ってしまうのは当然まである。二人が海外に行っている今、それができるのは俺だけだ。

「環奈。血は繋がってなくても、君は俺の家族だ。君から離れない限りはうちの家族は君に手を差し伸べ続ける。何も返ってこなくていいんだ。自己満だからね。だからもしこの契約に俺が勝ったら自由に生きてほしい。別に恩を感じることも無い。楽しく、明るく、健やかに。笑っていてほしい。家族を助けるのは当たり前の事なんだから。朱莉ちゃんだってそうだ。環奈の妹は俺の妹でもある。だから守りたい。」

「それで傷ついても?」

環奈は涙を流す。

「あぁそうだね。俺には桜がいるから。何度転んでも立ち上がるよ。そして君たちに手を伸ばす。一度折れて立ち上がったんだから、今度こそ折れないよ。」

環奈が抱き着いて声を押し殺して泣く。俺はそれを抱きしめる。朱莉ちゃんを起こさないように配慮しているのだろう。うん。立派なお姉ちゃんだ。

「頑張ったな。もう大丈夫だ。手を伸ばすのが遅くなって悪かった。今度こそ君たちを自由にするから。前回は一人でダメだった。今回は桜もいる。それに環奈も俺の生活をサポートしてくれてる。1本が3本に増えたんだから、これはもう無敵だろ?」

こくこくと環奈が頷く。

「父さんと母さんはタイミング悪く海外にいるけれど、金銭面でがっつりサポートしてくれてる。中学の時とは何もかも環境が違う。だから何とかなるさ。」

「うん。」

「あと3年ある。気楽にいこう。君のお父さんは少なくとも約束は守る人だからね。」

「中学の時は私の自由を手に入れてくれたの?」

もう察しのいい環奈には大体バレているんだろう。俺は素直に頷く。

「高校3年間の自由だ。今君に婚約者がいない理由はそういう事。まぁ君のお父さんからすれば暇つぶしのようなものだったんだろうけどね。」

「あの人、性格悪いからね…。」

「あぁ。俺もそう思う。だけど約束は守る人だ。今回の契約だって、どうせ暇つぶしだろうけど今度こそ後悔させてみせるよ。まぁ失敗したら君のお父さんの犬になって社畜になっちゃうんだけどな。そうなったら桜にも申し訳ないし、今は全力で頑張るだけ。」

「そっか…。じゃあ私ももっと頑張る。止めても颯汰は止まってくれないのは長い付き合いで分かってるもん。桜だってバスケの面で颯汰を支えてる。私は家とか生活のことで支えるよ。だけど自由になっても離れる気ないから。愛人として大事にしてね。」

「その関係は良くないんだけどな…。そうなったら纏めて幸せにするよ。」

苦笑すると唇に柔らかい感覚があたる。じゅるっと音を立てながら貪られる。そして糸を引いて唇が離れた。口の端についた涎を環奈が妖美にぺろりと舐める。

「約束よ。絶対に守ってね?」

「はは。敵わないな。わかったよ。約束は必ず守る。」

そうだ。目的はハッキリしてる。尚更やる気も出てきた。この約束を必ず守る。

二人を見ながらそう誓った。


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