大会3日目

「勝てば次負けてもとりあえず本戦だ!いくぞ!」

『おお!』

大吾先輩がミーティングで声を出す。

俺達も声を出してコートに向かう。

今日は重要な1日だ。翔陵(しょうりょう)高校。無名だが一人注目選手がいる。 

留学生のゴア選手。200cmの長身から繰り出されるダンク。技術は拙いがパワーがある。

マッチアップは純也先輩だ。それ以外は並。スリーもないし、最悪止められなくても何とかなる。だが純也先輩には一応押さえ込みを頑張ってもらう。

ジャンプボールは流石に敗北。高すぎる。

だが読んでいた俺は即座にカットする。

ゴア選手があっという間に回り込んできた。

ちょっとやばい。手も足も長すぎる。

(けどまぁ…。技術はない!)

フェイントをかけて抜く…直前で手が伸びてきた。笛が鳴る。俺はコートを滑った。

「マジ…か…。」

ずきりと背中が痛む。

純也先輩がマジギレして向かっていく。その背中を止めた。

「まぁまぁ。大丈夫ですよ。」

「だがよぉ!アレはわざとだぞ!」

「いいからいいから。」

プッシングを取られたゴア選手が頭を下げる。

本心かは知らんがあの威力は中々にえぐい。

「作戦変更します。ポイントガードは要先輩。俺はシューターをします。純也先輩は引き続いてゴア選手を。大吾先輩。少し背中をやってしまいました。リバン頼みます。博先輩はガンガン攻めてください。」

全員が頷く。フリースローからゲームが再開する。背中はいたい。だが今は手が抜けない。

1Qはスリー中心に攻めて30対2で折り返した。

「神原くんは下げます。次の決勝は絶対に彼が要るからです。」

監督の声が聞こえるが、痛みでそれどころではない。ゾーンも切った。切らなければまともに動けそうにもなかった。

「桜。何とかなるか?」

「なんとかするわ。私に任せて目を閉じてなさい。」

「頼む。」

目を閉じて意識を手放した。


振り向く。ウチの要は完全に伸びている。

「やってくれたなぁ!ぶっ潰す!」

エースである俺がプレーで潰す。

ゾーンは使わねぇ。卑怯者に対して使うものでもない。たった1Qで颯汰が10本もスリーを決めた。パスカットもだ。

相当疲弊してる。決勝まで出てこれないだろう。本戦に出るなら3位通過でいい。確実に2位を取るために全力を尽くしてくれたに違いない。

「ドンドン回せ!全部決める!」

コツンと頭を叩かれる。大吾先輩だ。

「落ち着け。冷静にな。」

「いいや純也に同感だな。ウチのビッグマウスは第二のエースだ。そいつを力技で潰されて黙ってらんねぇなぁ!」

「確かに。潰す。」

「俺だってやりますよ!」

博先輩、要先輩、海斗が目をぎらつかせる。

「はぁ。わかった。バンバン打て。俺が全部取る。ディフェンスはゾーン。俺と博のダブルチームだ。あのデカブツを封殺するぞ。」

『応!!』

気合を入れて俺達はコートに出た。


目を開ける。背中の痛みはない。体のだるさもだいぶ取れている。

背中には患部を避けたマッサージ。患部はアイシングされているらしい。どうやら桜がずっとマッサージをしているようだ。

「試合…は?」

「今3Qよ。70対36。勝てるわ。」

ちらりと見る鬼気迫る表情で大吾先輩、博先輩がダブルチームでゴア選手からボールを奪う。

直ぐに純也先輩にパスが渡ってダンクを決める。要先輩がパスをカットして海斗が決める。

「はは。流石。俺の取ったリード守り切ってるじゃん。」

「いいから寝てなさい。決勝が待ってるんだから。でも2Qまでよ。疲労回復、アイシングでの痛み軽減。両方共に限界があるわ。負けても本戦には出れる。約束して。お願い。」

「わかってる。」

泣いてるような声で桜が言う。泣かせたくはない。だから無理をするタイミングではない。

目を閉じてもう一度意識を手放した。


ブザーの音で目を覚ます。拍手と歓声。

目を開けると90対50で勝利していた。

チームメイトが横になっている俺に駆け寄る。

「おい、颯汰!大丈夫か!?」

「勝ったぞ。安心しろ。本戦には出れる。」

「1Qの点差があったから楽勝だったし。」

「やりますね。いや、でも1Qの俺のおかげですけどね。」

俺の強気な発言に全員が安堵した顔を見せる。

「はぁ。ビッグマウスが健在で安心したぜ。」

桜に抱き起こされて起き上がる。

「先輩方。あくまで応急処置です。決勝は…2Qまでにさせてください。」

「いえ。このまま病院に行ってもらいます。」

監督が顔を出す。

「待ってください。せめてベンチに。」

俺の言葉に監督が首を振る。

「無理をする必要がなくなりました。決勝は今のメンツで戦います。」

ギリっと奥歯がなる。しかし言ってることは最もだ。俺は頷いてコートを後にした。


「颯汰!」

桜に肩を借りて歩いていると泣きそうな顔の環奈が駆け寄ってくる。奥には慎吾の手を握って泣きそうな顔をする朱莉ちゃんも見えた。

「大丈夫なの?」

「あぁ。軽傷だ。たぶん。すまないが動画撮影を頼むよ。3位決定戦、決勝の両方。本戦でも当たるかもしれないからさ。」

「わかったわ。」

環奈が桜を見る。桜も頷いて応えた。

タクシーに乗って病院へと向かう。

「参った…。結局一度もフェイダウェイを使わなかった。」

「良かったじゃない。必殺技を残せたし、本戦は8月だから2ヶ月もあるわ。」

頭を引き寄せられて肩に乗せられる。

「お疲れ様。最高に格好良かったわ。」

「はは。ならいいか。」

目を閉じる。桜の甘い香りに包まれながら意識を手放した。


「打撲ですね。直ぐに応急処置されたのが幸いしました。でも一週間は練習禁止ね。」

「練習禁止…。」

練習をしなかった事などここ数年無い。

「わかりました。縛りつけてでも休ませます。」

桜の言葉に先生が笑う。

「いい彼女を持ちましたね。」

「あ、はい。最高の女を捕まえました。」

禁止と言われてショックを受け、頭も回らない俺はボソリと言う。

先生の笑い声を聞いて診察室を出る。

痛み止めと湿布を貰って病院から出ると千花さんがこちらに手を振った。桜が呼んでくれたらしい。頭を下げて車に乗り込む。

「どうだったの?颯汰くんがこの世の終わりみたいな顔してるけど…。」

「問題ないわ。一週間の練習禁止を言い渡されただけ。」

「禁止…。一体何をすれば…。」

「はぁ。心配して損したわ。でも良かったわね。チームも2点差で勝ったらしいし。」

「そっか。勝ったんすね。監督に電話しないと。部活休まなきゃだし。」

俺がそう言うと桜がメッセージを見せてくる。

グループチャットには出てきたら追い返すと皆がメッセージを送ってきていた。

なら休むしかないかと苦笑して、俺は家へと向かった。


「お帰りなさい!大丈夫だった!?」

環奈と朱莉ちゃんがパタパタと駆け寄ってくる。いつもなら抱きついてくる朱莉ちゃんが突っ込んでこない。

「あぁ。打撲だって。一週間練習禁止になった。」

しゃがんで朱莉ちゃんの頭を撫でると泣き出してしまう。心配させて申し訳なくなり抱きしめて頭を撫でた。

「不幸中の幸いね。とりあえず良かったわ。夕飯出来てるわよ。」

「助かるわ環奈。」

桜が俺に肩を貸してくれる。大人しく従って朱莉ちゃんを環奈に任せた。

ご飯を食べながら映像を見る。1、2Qはだいぶ押されている。だが終盤になって純也先輩の動きが冴え渡る。

たぶんゾーンに入ってる。そのままの勢いで最後は博先輩がブザービートを決めた。

「はは。ギリギリ。格好良いなぁ。」

可能ならこのコート上にいたかった。

悔しくて少し涙が出た。この悔しさは本戦で晴らそう。そう思った。


「お風呂に行くわよ!」

ベッドで横になっていると桜が入ってくる。

「お、おう。肩を貸してくれるのか?」

「一緒に入るのよ。」

「は?え?何?」

混乱してると桜が俺に近づいて腕を回す。

「いや、痛いけどそんなじゃないからな!?」

「なによ。嫌なの?背中を流してあげるって言ってるの!」

「嫌じゃないけどね!?ちょっと困る!」

「黙って従いなさい!心配したのよ!?無理ばっかりするから!」

桜が涙を流す。俺は生唾を飲んだ。

「痛いのに1Qで無理して!私がどれだけ心配したと思ってるの!?バカ!」

「すまん…。」

肩を借りて立ち上がる。俺はそのまま風呂まで連行された。

背中を流してもらって後ろから抱きしめられるように風呂に入る。柔らかい感覚に頭がくらくらとする。

「普通逆では?」

「そしたら背中が浴槽に当たるじゃない。バカなの?」

もう何回バカと言われたかわからない。

「負けてもチャンスはあったわ…。無理だけはしないで。体を壊したら、残りのチャンスもないのよ?私のことが好きなら約束して。」

ぎゅっと抱きしめられる。鼻を啜る音も聞こえた。今日何回泣かせただろう。

顔だけを桜に向ける。

「こっち向かないで。今不細工だから。」

その唇に自分の唇を重ねる。あの日以来のキスだった。自分から何度もすると桜も受け入れてくれた。

そのまま俺達は二人の時間をゆっくりと過ごしたのだった。

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