大会二日目二試合目
一試合目を終えてミーティングの前に昼休憩となった。
俺、桜、環奈、朱莉、慎吾は集まって昼飯を食べることにした。今日は環奈が弁当を作ってくれて全員でそれを食べている。
「美味いなぁ!おい!」
「貴方の為に作ってないんだけど。」
環奈が慎吾にジト目を向ける。この二人は基本的に相性が悪い。
「すまん、環奈。俺には仲のいい人が少ない。環奈と朱莉ちゃんを任せられる人となると更に少ない。慎吾には本当に感謝しかないんだ。」
「分かってるわ。仕方ないから紹介できそうな子を探している所よ。」
はぁと環奈が溜息を吐いた。
「慎吾は告白もされてんだから適当に付き合いなさいよ。」
桜の言葉に慎吾は首を振る。
「失敗はしたくないからな。俺は人を見る目に自信ないし。気持ちは後からついてくるけど、性格的に安パイと付き合いたい。見た目は求めない。」
「うわぁ…。恋愛で他力本願とか…。」
桜が少し引いた眼で慎吾を見て、俺は苦笑する。
「いいだろ!?そもやっぱ好きとかよくわかんねぇし!ただ俺だって颯汰みたいに楽しい日々を送りたいんだよ!」
確かに楽しいがそれ以外にもやらなきゃいけないことがあるから大変なんだが…。慎吾の言葉を聞き流しながら朱莉ちゃんの口に小さくした唐揚げを運ぶ。うまうまと言いながら食べる朱莉ちゃんに癒される。
「そう言えば桐生先輩が環奈によろしく伝えてくれって言ってたぞ。」
俺の言葉に環奈が少し驚いた顔をする。
「そう。志保お姉ちゃん…。まだ私の事気にかけてたんだ…。私は今好きな人と一緒に入れて幸せですと伝えておいて。」
「仲が良かったのか?」
「分からないわ。一方的に慕っていただけ…と思っていたのだけれど、私の事を気にかけてくれていたならそうでは無かったのかもしれないわ。」
「へぇ。あの桐生先輩がなぁ。」
慎吾が口を開く。
「慎吾も何か知っているのか?」
「寧ろどうして同じ部活のお前が知らないんだよ。」
どうしてと言われても困る。話さないから仕方ないだろう。
「颯汰は私が専属でついているからよ。私、颯汰以外に興味が無いもの。一応マネージャーとしての最低限の仕事はするけれどね。」
桜がやっていることは最低限どころではない。対戦するであろうデータの収集、チームメイトの練習メニューの作成、ビデオ撮影、スポーツドリンクなどの準備。確かに俺に入れ込んでいるのは誰が見ても明らかだが、彼女がこの部を支えてくれていることは全員が理解している。だから専属マネージャーだと彼女が公言しても誰も文句を言わない。
「専属とか怖。」
慎吾がポロリとこぼして桜が睨む。ひゅっという音が聞こえた。桜は怒らせないようにしようと思った。
試合前のミーティングに向かう為、俺たちは3人と別れてチームと合流した。
「次の対戦相手は桐蔭高校です。優勝経験もあり、非常にバランスの取れたチームですね。フルスタメンを覚悟しなければならないでしょう。注目すべきは県内No.1シューターと言われている獅童選手。195cmから放たれるスリーポイントを止めるのは難しい。こちらはプレスをかけて対応します。向こうは神原くんを警戒して高いパスになるでしょう。こちらは体力が尽きる前に点差を引き離す。鍵は神原君のスリーです。ガンガン打ってください。」
「了解っす。」
俺が頷くと全員が頷いた。立ち上がると桜が近づいてくる。
「最悪フェイダウェイを使いなさい。3位以内に入れば問題ないんだから。ここと明日の1試合目は勝ち厳守よ。」
「あぁ。わかっている。」
「無理も許すわ。どんなことが合っても私が明日までに万全にしてあげる。だから勝ってきて。」
頷く。明日の心配はしなくていいらしい。なら倒れるまで動くとしよう。
ジャンプボールと共に笛が鳴る。今大会初めて博先輩はギリギリでボールを死守する。
少しずれたがギリギリキャッチして前を向くと既にデイフェンスが立ちはだかっている。色々やるが抜けずにしつこくついてくる。
(上手い…。これが獅童仁。基本のスキルのレベルが高すぎる。だがこの1本は必ず決める!)
瞬間周りが白くなる。コート内の全てが頭に流れ込んでくる。目の前の選手がゆっくりに見えて、重心の変化と逆に切り返すと置き去りにした。
「は!?」
耳元で聞こえた声を置き去りにする。既にスリーは打っている。ゆっくりと振り向き自陣に戻るとバスンと音がした。
「おいおいビッグマウス!何したんだよ今!」
ふぅと一息吐くと視界が戻る。
「別に何もしてないです。ほら、集中してください。」
(リラックス、適切な目標、そして桜と環奈の笑顔…。)
目を閉じて開けると視界が白に染まる。
(パスカット…。ここ!)
パスを奪ってすぐさま要先輩にパスして駆け出す。
最適解のルートが光ってるように見えて、その道を走り抜けるとパスが飛んできて打つ。振り返って要先輩とハイタッチをするとバスンと音がした。
「大吾先輩。圧をもっとかけてください。大吾先輩のマッチング相手が一番の穴です。」
少し頭痛がする。だが掴んだ。ゾーンの感覚。無理な目標だと多分入れない。大事なのは適度な目標と、自然体だ。問題はこの頭痛と体力。
(いや…問題ない。桜が何とかしてくれる。)
刹那の時間目を閉じる。開くと全ての選手の動きが見える。大吾先輩のマッチアップ相手にボールが渡ると直感する。その時には既に走り出していた。獅童選手を置き去りにする。
「早っ!」
「足だけは誰にも負けないんで。」
呟いて手を伸ばす。バチンという音。無意識に開始するドリブル。打つ直前に滑り込んできた獅童選手と接触しながらシュートを打つ。
「リバン!」
獅童選手が叫ぶが、入ると確信する。尻もちをつくとバスンと音が聞こえた。
「4点プレイ…。」
歓声が上がる。立ち上がってフリースローを決める。
「前半完封の27点差…。」
息が切れる。1Qで既に体力を使い果たしている。
「2Qは神原君を下げます。藤咲さん。神原君の回復を。全員、この点差を守り切りますよ。取られたら取り返してください。純也君。エースとしての働きを期待ますよ。」
「はい。わかっています。」
「すまん。限界を知りたかった。」
「バカね。上手くやりなさいよ。口開けて。」
言われた通りに口を開けると丸く薄い物が放り込まれる。
「蜂蜜レモンか…。」
「えぇ。私特性よ。効くでしょ?」
「あぁ。」
「目を閉じて寝てなさい。体の堅さは取っておくから。」
「わかった。頼む。」
俺は目を閉じて意識を手放した。
「下がったか。なら楽勝だな。」
獅童の言葉にカチンとくる。
「おい。このチームのエースは俺だ。その俺を前にして楽勝だと?」
「君にスリーは無い。彼が戻ってこれるなら話は変わるが、徐々に詰めていつかは逆転する。」
舐められたものだ。確かに颯汰は凄い。あいつは去り際に意味の分からないことを言っていた。
(リラックス、適度な目標。意味は分からんがやってみるだけの価値はあるか。)
だらりと腕を落とす。気負わずに、ただできる事をやるだけだ。
(適度な目標?は!俺が誰よりも目立つってだけだろうが!)
俺は頭が良くない。スポーツ推薦の為、勉強はグダグダだ。難しく考えるのは生意気な後輩だけで良いんだよ!
瞬間世界が白く見えた。獅童に飛んでくるボールがゆっくり見えて、俺は思わず走り出していた。
パスを奪ってディフェンスを抜いてダンクを決める。
「なんだこれ!気持ちいい!」
コート内の全員が唖然と俺を見ている。目立ってる目立ってる。いいぜ!もっと湧かせてやるよ!
俺は更に目立つために駆け出した。
揺り起こされて目を開ける。
「5分前よ。いける?」
桜に声をかけられて伸びると倦怠感は無くなっていた。
差し出された蜂蜜レモンを口に入れる。
「うし。いける。」
「そう。」
顔を上げるとチームメイトがジト目で俺を見ていた。ベンチでいちゃついてしまった。申し訳ない。
チラリと視線を向けると純也先輩が伸びていた。
「どうしたんすか?」
「いやわからん。だが意味の分からなさが上がっていた。動きが速すぎて俺達でも着いていけなかった。結果として一人で抑え込んで20点も取って倒れた。」
なるほど。あのアドバイスは純也先輩には合っていたらしい。おそらく純也先輩なら入れるとは思ったけど、調子に乗って使いすぎたのかもしれない。そんな彼がガバッと立ち上がる。
「藤咲さん。俺にも蜂蜜レモンくれ!」
「どうぞ。」
俺とは違い、あーんではなくタッパを差し出されたことに不満げにしながらも彼は口に放り込む。
「よし、後輩!止めを刺しに行くぞ!」
点差を確認すると40点差以上ついている。
「クールダウンですよ先輩。明日もあるんですから。」
「まぁそうか。仕方ねぇ。もっと目立ちたかったのによ。」
「アリウープさせてあげますから。」
「なら許す!」
立ち上がった純也先輩に苦笑する。あまりにチョロい。
その後は取って取られてのシーソーゲームとなったが点差を守り切って勝利した。
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