大会二日目一試合
二日目となり会場に着くと昨日よりは出場校が減ったものの、熱気は昨日以上だった。応援のために来た人が増えたからだろう。
今日勝てば明日の決勝への希望が繋がる。出場選手の全員がそれを目指して今日もこの体育館に来ている。
そんな中、俺と大吾先輩、そしてマネージャーである3年の桐生志保(きりゅうしほ)先輩は会場の入り口で突っ立っていた。
「要先輩遅いっすね。」
「あの馬鹿垂れめ。」
「要君は常習犯だから。」
大吾先輩はイライラしながらトントンと足を鳴らしていた。
朝の集合時間に現れなかった。連絡すると、その電話で起きたであろう要先輩が電話先で滅茶苦茶謝っていた。
「あと15分もすれば俺たちも会場入りしなくちゃいけないっすね。」
「最悪私がここで待つわ。」
桜が俺にべったりなので他のマネージャーとはあまり話したことは無いが、彼女は3年間バスケ部を支えてくれている人だ。恐らく要先輩の遅刻にも慣れているのだろう。
「常習犯なんすね。」
「腐れ縁なの。中学からのね。勿論恋仲とかそう言うのではないわ。あの人はそう言うの興味ないから。」
確かに要先輩はバスケ以外は大体寝ているイメージだ。浮ついた話も聞いたことが無い。見た目は良いし、モテるという話は聞いているけれど、がっつくところも見たことが無い。
「桐生はいいところの娘さんだ。要のような不真面目な奴では親にも認められないだろう。」
「大吾君。それは言わない約束ですよ。生まれなど私には関係ありません。私自身が勝ち取ったものではないので。」
「す、すまん…。」
桐生先輩がじろりと大吾先輩を睨んで、大吾先輩がたじろぐ。中々珍しいものが見れた。
いいところの娘…。ふと環奈の顔が浮かぶ。
「貴方の幼馴染と私は違います。親には愛されてますし、やりたいことも自由にさせてもらっています。」
考えが読まれたらしい。苦笑して顔を向ける。
「詳しいのですね。」
「当然です。大企業の娘同士となればそういう席で顔を合わせることもありました。挨拶程度ですけどね。中学になってからは会うこともありませんがお元気ですか?」
「そう…ですね。今は…といったところですね。」
「そうですか。彼女が私を覚えているかはわかりませんがよろしく言っておいてください。これでも心配はしているのです。あの子の両親の事を知っていますから。何もできませんけどね。」
この学校は県内随一の進学校でもある。彼女のような生徒も探せば何人もいるのは知っていた。わざわざ調べることも無いので彼女がそうとは知らなかったが。
「気にかけていただき有難うございます。伝えておきます。」
そんな事を考えていると大吾先輩の携帯が鳴って、何事かを話した後に電話を切った。
「要先輩っすか?」
「いや、監督だ。桐生に任せて俺たちは戻れとな。任せていいか?」
「ええ。来たら一回引っぱたいておきます。大吾君の代わりに。」
「お、おう。」
大吾先輩が苦笑しながら反応して俺に行くぞと声をかけた。
「要は2Qから出す事になった。」
バッシュを履いて準備していると大吾先輩が話しかけてくる。
「了解っす。代わりは?」
「お前との相性と今後の成長を鑑みて弟を使う。これは監督の判断だ。技術は未熟だが、身体能力は俺より上だ。ポジションは違うが、これもいい経験になるだろう。」
「まぁ別にいいですけど主導権は握られないようにしないといけません。リバン頼みますよ。」
「わかっている。」
大吾先輩が離れてウォーミングアップに入るとぎこちなさが目立つ。ベンチ入りはしたものの、トップから出るとは思っていなかったのだろう。1年からベンチに入っているのは彼だけだ。ポジションも勝手も違う。
「どうするよビッグマウス。」
博先輩が俺の肩に手を回してくる。
「あえて彼中心でいきます。フォローしてあげてください。未来の後輩の為に。」
「いいぜ。そもそも1Qだけだ。そんなにやばいことにはならないだろうしな。」
「油断大敵です。せめて今日を生き残らないと3位決定戦にすらいけないんですから。」
俺の言葉に博先輩は頷いた。
「そうだな。すまん。お前もスリー頼むぜ。」
「はい。なぜか今日は外す気がしません。」
練習終了のブザーに合わせてスリーを打つとバスんと音を立ててシュートは決まった。
博先輩が口笛を吹く。
「本番は要が来てから。だがお前のスリーにも期待してっぞ。」
「分かってますよ。」
練習が終わって振り向くと丁度要先輩と桐生先輩が入ってくる。要先輩の頬には真っ赤な紅葉がついていた。
それを見て俺と大吾先輩は苦笑して、他の人たちは驚いていた。
ジャンプボールを博先輩が勝ち取って俺にパスを回す。いつも通りにスリーを決めて先ずは1本先取する。
この展開は当然予想されていたことだ。向こうは冷静にパスを回してくる。
こちらとしてはこの1Qはゆっくりと展開したい。チラリと見れば要先輩はウォーミングアップをしている。
主軸は向こうのエースである安藤優斗(あんどうゆうと)。ダンクにスリー。どこでもエースを張れる。
だからこそ狙うならここしかないわけだが目の前のディフェンスはこのチームトップの長身だ。このマッチアップは予想していたが予想以上にやりずらい。
「お前を逃がさなければ勝てる。」
溜息を一つ吐く。俺を逃がさなければ…か。なら付き合って貰うとしよう。全力で走り出した俺に向こうも追走するが徐々に引き離す。瞬時にコートの全てを把握してパスをカットして駆け上がる。
「なっ!?」
後ろから驚きの声が聞こえるが気にす時間はない。その先には海斗が待っていた。
『1Qはお前主体だ。海斗。』
『俺!?何で!?』
『難しいことは考えるな。シュートレンジまで走ったら右手を小さく上げろ。ドンピシャにパスしてやる。』
『わ、わかった。』
その会話の通り俺たちは駆け上がる。その間にディフェンスが立ちふさがる。チェンジオブペースからの低いドリブル。抜け出すとチラリと右手が上がるのが見えてパスをする。その手にボールが吸い込まれて海斗はシュートを決めた。
「いいぞ。今大会初得点おめでとう。ドンドン行くぞ。」
「お、おう!」
ポジションは違えど彼の身体能力の高さは折り紙付きだ。当然、決めやすい場所まで行ければこうなるのは自明の理だ。
その後も取られ、取りながらのシーソーゲームを続けて4点差を守り切った。
海斗が俯きながら息を切らしている。俺の動きにずっと追従していたのだから当然だ。向こうのディフェンスも相当息が上がっていた。
体力だけなら自身のある俺も多少は疲れている。要先輩は全員に謝罪をして背中を思いっきり叩かれていたが、1、2Qの間にはあまり時間も無いので、端的に作戦を決めて俺たちはコートに出た。
俺はポジションを変えてコートに出る。相手チームはそれを見てざわつく。
PGは要先輩だ。俺は全体を荒らしまわりながら積極的にスルーを打つ。じわじわと差が広がる中でやはり使えると判断した。
2Qが終わって20点差。向こうの攻撃力を鑑みれば安全圏では無いためこの次も出ることになる。
「しんどい…。俺が悪かった。変わって。」
座っていると要先輩が俺の横に座る。
「元よりそのつもりでしたよ。でも遅れてきたんだからしんどいのは我慢してください。次のQは大吾先輩と博先輩を下げます。午後にもう一試合あることを加味すれば体力バカの純也先輩と俺しかここでは使えません。確実に勝つために次のQは要先輩中心。4Qは純也先輩中心で行きます。」
「わかったよ。何とかする。」
3Qシーソーゲームで構わない。無理に攻めないがパスカットからの高速パス回しを主体に組み立てる。全てのQで違う戦法を使って混乱させたい。
4Qは2年のディフェンスが固い選手で固めつつ、大人しくしといてもらった純也先輩に暴れまわってもらう。
大体の流れを決めた俺たちは再度コートに出るのだった。
3Qは点の取り合いになった。確実に決め、スリー以外は防ぐ。
2試合あることを加味して、俺も派手には動かずに温存する。
(とはいえスリーだけは防ぐ必要があるな。こっちは出来れば温存したいし、俺だってガス欠になって迷惑をかけるわけにはいかない。)
体力に自信があるとはいえ無限ではないことは重々承知している。純也先輩には次のQで暴れまわってもらう予定だ。
エースだけにはボールが渡らないように立ち回りつつパスを回す。可能な限り時間を使って、丁寧に試合を進めていった。
4Qになって選手を大幅に変更する。点差は18点。1本多く決められてしまったが、まだ大丈夫だ。
PGは要先輩に一任。ディフェンスを強化してアリウープを連発する。
それを純也先輩が確実に決めていく。
向こうは焦り、俺は偶にパスカットにのみ注力して慎重に動き続けた。
ブザーの2秒前にハーフラインからスリーを放つ。大きく弧を描いたボールが吸い込まれてブザーが鳴った。
俺たちは整列をして挨拶をする。向こうの3年が涙を流していたが、これも勝負の世界。明日は我が身かもしれない。しっかりと目に焼き付けた。
「お疲れ様。」
次のミーティング前に桜と一緒に環奈、朱莉ちゃん、慎吾が俺のところに来る。
環奈は俺にビデオを渡してきた。
「ありがとう。助かるよ。」
次の高校はダークホースと呼ばれているらしい。そういうチームには勢いがある。この映像が必ず必要になるだろう。
「これくらいしかできないけど…。」
環奈が俯くが俺は優しく頭を撫でた。
「いや、これは値千金の情報になる。必ず勝つよ。」
俺が微笑むと環奈が嬉しそうに微笑んだ。
その後は朱莉ちゃんを抱っこしたりと楽しい時間を過ごしてミーティングに向かった。
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