旧友と初戦

活気のある体育館に入る。

既に多くの出場校が集まっていた。

ウチの地域は37校が出場しており、ウチの高校はシード校に選ばれているので午後から一回戦だ。5回勝てば1位通過。3位まで出れるとはいえ、勝った方が話が早い。

組み合わせを見る限りでは本番は4回戦。

4回戦はシード校が上がってくる。向こうの学校とは去年熾烈な点取り合戦をしている。

ひとまずは見れる試合は全部見たい。

「お、颯汰じゃん。」

チームに帯同して行動していた俺は他校の生徒に声をかけられる。

おーいと手を振りながら近づいてきたのは中学時代の俺のチームメイトでエースだった佐藤亮介だった。

「亮介か。久しぶりだな。」

亮介は身体能力抜群の長身選手。俺とマッチアップすることは無いだろうが強敵になるだろう。逆ブロックのシードなので戦うとすれば決勝だ。

チームメイトは察してくれたのか先に行ってるぞと言って離れて行った。桜だけが俺の横に残る。気を遣ってくれたようだ。

「あぁ。久しぶり!あれ?桜ちゃんもいるじゃん。もしかしてついに付き合ったか?」

「お久しぶりです。佐藤くん。付き合ってはいませんが惚れ込んでいます。」

桜の言葉にやっぱりと亮介が笑う。

「桜ちゃんは最終的に颯汰を好きになるって皆が言ってたからな!ってなると慎吾は遂に桜ちゃん離れが出来たんだな!」

「そうですね。遠回りしましたが、その決着はつけました。」

「そっかそっか。良かったな颯汰。でもそうなると東堂さんは?」

そう言われて俺は二階席を見上げる。そこには環奈と朱莉ちゃんがいた。

俺の目線を追って亮介が目を見開く。

「子持ち…だと…!?お前、中学の時点で…?」

「妹だ。お前バカだろ。」

意味の分からい事を言う亮介にジト目を向ける。

「ボケだよ!マジで返すなよ。」

「なんだ。元々成績も良くなかったからホントにバカなんだと思った。」

「失礼が過ぎる!?」

昔話をしつつ一通り笑った後に亮介は俺に手を差し出す。。

「お前とは戦いたくなかったけどしゃあない。決勝で合おうぜ!」

「おう。ボコボコにしてやるよ。ウチの先輩たちが。」

「他力本願かよ!」

手を握り返すと亮介は笑う。中学時代のチームメイトで一番話したのはこいつだ。だから良く知っているし、こいつは俺にとっての危険人物だ。

亮介と離れて桜と歩く。

「彼も上手くなってるわ。データは集めきってないけど、相手が別ブロックで良かったわね。情報を集められる。」

「そうだな…。引き続きサポート頼む。」

「別ブロックの映像は環奈に任せてる。私はチームに帯同だし…。適材適所かな。」

成程。俺の試合が午後からなのに午前中から来ている理由に合点がいった。

「全員で勝ちに行くのが一番勝率が高いか…。なら環奈の見てない試合では負けられないな。」

「そうね。予選くらいは軽く超えてもらわないと。」

桜の言葉に苦笑する。強気な言葉を言っているが彼女の手は微かに震えているからだ。だから俺はその手を握る。

「フラグも全てぶっ壊して勝ってくるよ。とりあえず今日の1勝をな。」

「うん。頑張れ。颯汰。」

「任せろ!」

ここから始まる一歩は先ずは環奈を救い出すための一歩だ。


目をつむり、好きな曲を流す。これは俺の試合前のルーティーンだ。

緊張も無い、驕りも無い。ただ先輩たちを信じてメイキングする。最大級まで集中力が高まったところで肩を叩かれて目を開けると桜が俺に頷いた。

先輩たちが不敵に笑ってこちらを見ている。イヤホンを外して桜に預けた。

立ち上がって先輩たちの元に歩み寄る。

「試合前のウオーミングアップですか。度肝抜いときます?」

「いいねぇ。」

こういう時はやはりエースだ。ハーフライン付近から俺がバスケットにボールを放ると、純也先輩が空中で受け取ってダンクを決めた。

相手は東海林高校。初めての初戦突破でチームの雰囲気は良い。よく声も出ていたが純也先輩の一撃に静まり返る。ウチのチームには幸いにもダンクを出来る選手がスタメンで二人いるが、全ての高校にいるわけではない。向こうは守りながら点を奪うスタイルで、現在のこっちのチームに似ているが、生憎とウチの高校の強みは攻撃力だ。俺がいない去年まではディフェンスを投げ捨てて攻め落とすスタイルだったのだ。

向こうには悪いがトラウマを植え付けて帰ってもらうとする。俺はその後も一番普通を装いつつ全員の動きを確認した。どうやら調子はいいらしい。

ウオーミングアップが終わってベンチに座る。

「速水君。」

監督が話しかけてきて俺はそちらを見る。

「どうしました?」

「先取点は任せます。相手を浮足立たせてください。」

つまりはスリーで決めろという事か。

「わかりました。同じ考えで良かったです。」

「選手を気持ちよくプレーさせるのは監督の役目ですから。」

ふぉふぉっと監督が笑う。俺は先輩たちにも伝えてコートに入った。

「外すなよ?」

ジャンプボールの直前、すれ違いざまに博先輩が俺にいう。

「勿論です。先制すればだいぶ楽になりますからね。博先輩こそ、気合入れすぎてタイミングミスらないでくださいね。」

俺の言葉に博先輩がニッと笑う。

「誰だと思ってんだよ。」

そう言って片手を上げてゆっくりと歩いていく。俺はその背中を見送った。

ドクンドクンと心臓が跳ねる。どうやら少しは緊張しているらしい。だから俺は桜を見る。目が合って桜が拳を俺に突き出した。

(あぁ。信じて待ってろ。) 

心の中で呟く。俺は集中力を高めてその時を待つりそして長い戦いの始まりを告げるホイッスルが鳴った。

博先輩は見事にジャンプボールを制して俺の手の中にボールが収まる。

直ぐに前を向いてドリブルをして走る。一人交わせば射程圏内。

隣を走る純也先輩に視線を送ると相手もそちらに気を取られる。その隙を突いて抜く。

あっと声が聞こえたがもう遅い。既に俺はシュートフォームに入っている。

打った瞬間入ると確信する。

相手チームがリバンと叫ぶが、パスンと音を立てて吸い込まれた。

歓声が起こる中、直ぐに自陣に戻って振り向いて観察する。向こうに対して動揺は無く落ち着いている。

「バレてますね。」

「そりゃそうだろ。お前のあれは練習試合で見せてる。情報を収集しているのはお互い様だ。」

大吾先輩に言われて頷く。

「であれば計画通りにパス中心で行きます。プレスかけて積極的に。俺が上手いことやります。」

大吾先輩は頷いて走り出す。

向こうだって先ずは確実に1本狙いだ。ここで無理なシュートは打ってこないはず。

向こうのポイントガードに張り付く。目線がキョロキョロと仲間を探している。俺がその視線に釣られることは無い。先輩たちなら自由にはさせない。時間が近づき、中々俺を抜けずに苦し紛れのパスを出そうとしたところをカットする。

「要先輩!」

「ほいキタ。」

不要なドリブルはせずに、走り出した要先輩の足元にパスをする。

要先輩は受け取って、低い姿勢のまま駆け出した。

俺も同時に走り出す、そして純也先輩を補足する。目が合って俺は視線を上に向けた。そのタイミングでディフェンスに捕まる前に要先輩が戻したボールが俺に渡り、即座に打つ。それを純也先輩がダンクで決めた。

純也先輩が俺に駆け寄って拳を合わせる。

「高速アリウープ。案外使えますね。スリーを打つよりも頭を使わないから楽でいいっすわ。」

「合わせてる俺が凄いんだよ。」

「確かに。タイミング合わなくても大吾先輩がなんとかするし、積極的に使いますか。」

「おうよ。決めたら格好いいし、俺にもついに彼女が…。」

そう言って気持ち悪い顔をする。

「気持ち悪いこと言ってないで集中してくださいね。」

「気持ち悪くねぇよ!?」

苦笑して相手を補足する。完封するつもりで相手のポイントガードを抑え込むとしよう。

そのまま相手には1本も打たせずに1、2Qを終えた。

「41点差ですか…。出来すぎですね。颯汰君はチェンジです。ここからは見て勉強してください。」

「はい。」

監督に言われて俺はベンチに座る。

スリーは結局最初の1本のみ。打つタイミングはあったけれど、その必要性は無かった。向こうは走り回りすぎてだいぶ消耗している。

「お疲れ様。」

ボトルが差し出されて受け取る。

「どうだった?」

「要先輩とは息が合ってる。博先輩にはもう5㎝くらい高くてもいいかも。少し低い気がしたわ。」

「そっか。難しいな。有難う。」

「えぇ。後でノートにまとめて渡すわ。」

今回は大吾先輩も温存だ。リバウンドとプレス要員。ただ一度も外していないのでプレス要員になっている。これは慎吾先輩も承諾していることだ。大変ではあるが可能な限り温存だ。

第3Qになりやっと向こうも点数を取り始める。こっちはプレスも辞めている。取られた取り返すのシーソーゲームに発展していた。

純也先輩が楽しそうに暴れている。要先輩はPGに入ってゆったりとしたゲームメイクをしている。傍から見れば価値が決まっているから手を抜いているように見えるかもしれないが、これは彼のスタイルだ。

いきなり早くなったと思ったらゆっくりにもなるので相手は混乱する。翻弄されたまま徐々に点を奪われる。

(アレは俺には出来ないなぁ…。)

あの独特な攻め方は真似しようとして出来るものではない。

(ダブルポイントガード…。試す価値はあるか…。)

技術は要先輩の方が上だが似たような動きは出来なくもない。それに俺にはスリーがある。

(ポイントガードに拘ってるわけじゃない。ただこの目を一番有効に使えるのがゲームメイクだっただけ。新しい可能性を見つけるのもありかもしれない。)

そう思いながら俺は試合を見続けるのだった。


85対45。点差はそのままに俺らのチームは勝利した。

色々と試すことのできた試合だと思う。純也先輩と要先輩は3Qから下がり、一年主体で最後の1Qを終えれたのもでかい。

その後は他の参加校の試合を観戦して、明日の対戦のミーティングをする為に学校へと戻ることになった。

戻る前に環奈を探すと慎吾と一緒にいるのが目に入った。ボディーガードを頼んだのだが来てくれて助かった。

3人が俺と桜に気づいて手を上げる。俺も手を上げる。

「颯汰!」

「にーに!」

二人が近づいてきたので俺は優しく頭を撫でた。

「俺をボディーガードの為だけに呼び出すなんてお前くらいだぞ?」

「悪い。他に適任がいなくてさ。友達の少なさがここにきて地味にダメージを与えてくるよ。」

「仕方ないやつめ。ラーメン1回で許してやる。3日分な!」

明日2試合の明後日2試合。その全てで慎吾にはボディーガードを任せている。

「本当は慎吾と二人でいると面倒な噂が立つから嫌なんだけど…もう勘違いされる心配も無いからまぁいいわ。素直に有難うと言っておきます。」

「へいへい。この礼は女の子を紹介してくれればそれでいいぜ。」

「自分で見つけなさいよ。顔だけはいいんだから。」

「おい、颯汰。幼馴染の教育をしておけ!失礼すぎるぞ!」

俺は二人のやりとりに苦笑する。環奈は慎吾の事が嫌いらしい。今日の朝、慎吾にボディーガードを頼んだと話したときに同族嫌悪だと言っていた。

だが環奈の父親…あの人は俺の試合を見に来ることがある。中学の時も実際に来ていたことがある。それを考えるとこの二人を二人っきりにさせるわけにはいかない。

「俺と桜は一度学校に戻るから環奈と朱莉ちゃんの送りを頼む。」

「へいへい。それより桜が静かだな。」

目線を向けられた桜が仕方なしといった感じで口を開く。

「外なので。クラスメイトも何人か会場に来ているのが見えました。」

つまり猫を被っている間は口を開きたくないのだろう。一緒に居たら気が抜けて失言をする可能性を危惧してるのかもしれない。

俺たちは3人に一旦別れを告げて学校が用意してくれたバスに乗り込んで学校に戻ったのだった。

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