球技大会②
試合が開始する。球技大会は15分しか試合時間がない。
少ない時間で俺はまず全員の位置や動きを把握する。
バスケとは違うからやり辛い。いくら特殊な目を持っていても使い方がわからなければ意味がない。宝の持ち腐れだ。
だからこそ、この目の使い方を理解しなければならない。
(なるべく陰に隠れるように…。周りを見つつ…。)
先ずはディフェンスに徹する。今攻めても意味がない。俺だってサッカーの初心者だ。先ずは向こうのサッカー部を参考にさせてもらおう。
とはいえ、防いでいるだけでは勝てないのも事実だ。軽くパスを奪って前線へとパスを送り出す。慎吾が受け取って前線に走りだすが直ぐに囲まれる。それでもギリギリまではキープできている。そして華麗な足技で抜け出して1点を決めた。
「慎吾。あまり無理をするな。スタミナ切れをされたら困る。」
「すまん、すまん。でもこれで勝ちはキープだろ。」
成程。確かに後は守ればいいか。
「安心しろ。ハットトリックをさせてやる。」
1プレーではあるが、大体わかった。サッカー部の動きも、それをサポートする動きも。全体のスピードも。
(だとすれば次の狙いは…。)
速いパス回しはブラフだ…。結局の狙いは一人だ。サッカー部の中にも優劣はある。
常に中心にいるのは白鳥翔(しらとりしょう)。向こうのフォワードだ。
(なら…ここだろ!)
切り込んでくる敵チームが広がるスキを狙ってボールを奪って駆け出す。
「早い!?」
当然だ。俺は小さい。だが小さい奴にとってはスピードこそが生きる道だ。
「いくぞ慎吾!」
「待ってました!」
慎吾が逆サイドを駆け上がる。ディフェンスが立ちはだかる。
サッカーは上手くない。だからこそ俺に出来るのは一つだけだ。
「チェンジオブペース!?」
急ブレーキで止まった直後のトップスピードで抜き去る。応用できる技術はどんなスポーツにでもある。子供だましだ。足技など皆無。でも俺が派手に抜けば、多くの人間の目が俺に集まる。
(だから、そこにいるだろ?慎吾!)
まだ相手はこっちの陣地に残ってる。速攻だからこそ意味がある。相手のディフェンスが高いうちに蹴り上げる。アーリークロス。慎吾が俺に中学の時叩き込んだ戦法だ。俺の目を利用したカウンター戦法。ギリギリオフサイドにならない場所。見えなくても見えている。俺にはこの目があるから。蹴り上げた後に顔を上げる。そこにいなかったら格好悪い。だが果たしてそこには慎吾がいた。
「最高だぜ!颯汰!」
シュートが決まる。クラスの歓声が聞こえる。
駆け寄ってくる慎吾に手を上げるとパチンと音が鳴った。
「あぁ…気持ちいいわ!やっぱサッカー部に来ないか!?」
「断る。俺はバスケが好きなんだ。」
「残念だ…。んじゃまぁ…。何点取る?」
「5点は取ろう。」
試合時間は短い。向こうにとっても逆境の中で作戦を変える時間はないだろう。
「ほら、行くぞ。」
「おう。」
走りだす。パス回しが少し変わったが結局中心は変わらない。
俺がボールを奪うと白鳥の舌打ちが聞こえた。だが容赦はしない。トップスピードで切り込む。相手はさっきのを警戒してか突っ込んでこない。
「引いてくれるのは助かるな!」
抜く必要がないなら楽だ。そのまま頭の上を早いパスを通す。それを慎吾が長距離から回転をかけたシュートをボレーで打つ。それがゴールに突き刺さった。
(おいおい、ボレーであんなシュート打てる奴いんのかよ…。)
俺は苦笑しながら慎吾を眺める。
「足りないピースか。確かに慎吾が欲しがるわけだ。」
後ろから声をかけられる。
「時間が伸びれば伸びるだけお前は俺らに対応する。時間も短い中でお前のパスカットに対応するのは無理。詰みだな。」
振り向くと白鳥が苦笑している。話したことは無い。だが知られていたらしい。
「あの化け物が敵チームに居たのを恨むしかないな。」
慎吾を眺める。どの位置でもシュートを決める。ドリブルも素人目から見ても化け物だ。なら一人でも早々止められない。
「はぁ。お前は自分を過小評価してるみたいだな。でも悔しいから言わない。」
良くわからないことを言って白鳥は自陣に戻っていた。俺がその後ろ姿を見ていると慎吾が戻ってきた。片手を挙げていたのでその手を叩いた。
試合が終わって草むらに座る。
「4対0かぁ。もう1点取りたかったなぁ。」
「まぁ十分だろ。俺も広い視点で目を使うことができた。望む感覚は得られなかったけどな…。」
(集中はしていたはず。真剣勝負だという意識もあった…。他に条件があるのか…?)
考えていると頬に冷たい感覚きてびっくりする。
「冷た!」
「何ぼおっとしてんのよ。」
耳元で話しかけられる。
「桜か…。びっくりしたよ。」
「私もいるんだけど?」
隣に座っていたはずの慎吾を探すと、草むらに転がされていた。恐らく桜の仕業だろう。
「扱い…酷くねぇ…か?」
俺は苦笑する。
「まぁ慎吾は置いといて、何を悩んでいたのよ?」
「悩んでたんじゃない。ちょっと考え事をしていただけだ。どうだった?そこそこの引き立て役にはなったんじゃないか?」
「引き立て役じゃなくって最高のパサーになってたじゃない。」
「そうね。女子の何人が颯汰に熱視線を送っていたか…。たしかにメインは慎吾だったけど、そのチャンスを作り上げたのは颯汰。貴方よ。」
それがあの試合での俺の役目だ。何せそれしかできない。切り込んでもシュートを決められないんだから当然だ。
「まぁ君たち二人に格好いいと思ってもらえたならそれでいいかな。」
ポロっとそんなことを言ってしまう。すると両肩に重みがかかった。状況に少し混乱して直ぐに気づいた。顔が真っ赤になる。
「照れてるの?」
「可愛い。」
「勘弁してくれ…。」
からかわれてるのはわかるが、両肩に頭が乗ってる状態で照れない男がいるわけがない。だがそれを振り払うことは出来ない。好きな女の子と、大事な幼馴染だ。
(目線を感じるけど…周りの目より、大事なものがあるか。)
俺はその視線を受けながらも黙って次の試合を眺めていた。
「おい、役得男。親友が地面に転がされてたのにいい思いしやがって。」
「否定はしない。だがアレを拒否れる男が世界に居るのかと問いたい。」
「あぁ…確かに無理だな。」
慎吾が苦笑する。
「勝てば問題ないんだろ?アシストしてやるよ。いや違った。アシストしかできないわ。」
「格好悪く言い換えるなよ。」
「事実だから仕方ない。俺は身体能力は高い自覚がある。そしてスポーツに使える目があることもわかっている。だけどサッカーは初心者だ。お前という最強のカードを持っていないと活躍もできない。逆に言えば俺じゃなくても、同様の身体能力と同じ目があって、お前がいればサッカーで活躍できる。」
「確かに。だけど同じ目と同じ身体能力を持ってる奴なんていないから、お前は特別なんだろう?」
慎吾の言葉に少し考えて頷く。
「まぁ確かに。探せば見つかるかもしれないけど直ぐには見つからないよな。じゃあ勝ちを決めるか。クラスの数は3つ。つまりこれが決勝戦だからな。」
この試合が終われば俺たちの試合は終わる。それが終われば後は応援をするだけだ。
試合が始まって違和感。俺と慎吾に二人分のマークがついている。
という事はフリーになるチームメイトが多い。慎吾はともかくとして、俺に個人技は無い。こうなれば目も何もないがこうなるのは当然。俺でもそうする。だって技術がないんだから囲めば止まる。
(悪あがきでもしてみるか…。)
とりあえず全力疾走で走り回ってみた。
一切止まらずに動き続けると5分もすれば俺をマークしていた二人はバテた。
とりあえず置き去りにして慎吾にパスをするとあっさりと決まる。
(策は悪くないけど、スタミナ自慢を置かないと意味ないなぁ。)
俺はあと1時間でも走り続けられるので走り回る。その間に2点、3点と慎吾が決めていった。本当に俺の必要性のない試合だった。
「まぁ…こうなるよね。」
「えぇ。颯汰はスタミナ馬鹿だから…。」
隣にいる環奈が溜息を吐く。
颯汰を抑えると口で言ってもそれは簡単ではない。颯汰は体力も無尽蔵なうえにスピードは陸上部にも引けを取らない。
例え囲んでも意味はない。ただ走るだけなら颯汰は止まらない。たいして鍛えていない人間が颯汰と同じ急ブレーキをすれば足がつる。15分しかなくても抑えきれなくなるだろう。
「結果としては人数不足の6対0か…。」
「2人も足りなくなれば当然かもね。」
ふふっと環奈が笑う。
「やっぱり私たちが好きになった男は格好いいわね。」
「当然ね。良い女は良い男に惚れるもんだし。」
頬杖をしながら颯汰を眺める。慎吾とハイタッチをした後にこっちに手を振ってくる。私は目を合わせて笑った後に颯汰に手を振り返した。
女子のソフトボールの試合は桜が打ちまくり、環奈が丁寧に抑える展開だった。
2人とも身体能力は高い。環奈は特別凄い投手ではないものの、丁寧な投球で凡打を誘っていた。試合は5回まで。今は3回で5対0。桜の2本のホームランで点差はついている。
カキーンといい音がした。桜が打ったボールがネットを超える。これで恐らく決まっただろう。桜がこっちに拳を突き出してきたので俺も微笑んで拳を突き出した。
「皆さんお疲れさまでした!」
教室に戻って竜胆が皆を労う。
「平均順位は2位でしたが、男子サッカーの勝ち点のボーナス点により、俺たちは1位です!というわけで、焼肉に参加できる人は今日の17時に焼肉スタミナ園に集合でお願いします!」
わぁと声が上がる。俺、桜、環奈以外は参加を決めているようだ。
だがこっちには朱莉ちゃんがいる。家族の時間の方が楽しいし、大事だ。
クラスメイトには参加を求められたが、今日は部活が休みという珍しい日なので3人で朱莉ちゃんを迎えに行こうと教室を出た。
慎吾には是非頑張って彼女を作ってもらいたいものだ。
教室を出て3人でゆっくりと歩く。
「いいのよ?二人は焼肉行ってきても。」
環奈の言葉に首を振る。
「興味ないな。焼き肉なら家でしないか?」
「そうね。今日は家で焼き肉にしましょう。良い肉を買いましょう。実は節約していて余裕があるわ。一日くらい豪勢にやるくらいが丁度いい。」
俺達がそう言うと環奈は泣きそうな顔で嬉しそうに笑った。
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