テスト順位と球技大会①

テストが全て返却されて、廊下に順位が掲載されていた。俺は桜と共にそれを眺める。5位。上々の結果だ。

1位が環奈、2位が桜、9位が慎吾だ。

彼もなんとか10位以内は死守したようだ。

「また2位…。しかも2点差…!?」

隣から悲鳴のような声が上がる。

環奈は1教科以外満点だ。流石に強すぎた。これは何も言えない。

「正妻の座は取られたけど、そう簡単には負けられないわよ。」

後ろから環奈が声をかけてくる。いつの間にいたのか、全然気付かなかった。

「ぐぅ…。」

桜はガクッと俯き、俺にもたれかかって来たので思わず支える。

「お、おい。ここでは不味いだろ。」

現に何事かと周りの生徒が俺たちを見ている。

「慰めて…。」

「家に帰ったらな。」

「嫌!今慰めて!」

俺が苦笑しながら頭を撫でると周りの生徒たちが一斉にコチラを見た。

当然だ。皆桜は慎吾を好きだと思っていたのに、ここに来てまさかの俺なんだから。

「ふふ。学内人気No2の男に頭を撫でられる優越感。そして好きな男に撫でられるという幸福感。荒んだ心が癒されるわ。」

環奈にだけ聞こえる声量で桜が言う。

「あっ!狡いわ!こんな所で!ちょっと颯汰!勝者への報酬はないの!?」

環奈が思わず大きな声を出して更に騒つく。これじゃあ俺が二股してるみたいじゃないか。

「お前ら、マジで落ち着けって。今日一日学内での接触禁止を言い渡すぞ?」

その言葉に二人が唖然とした顔をして俯く。

『ごめんなさい。』

声が合わさって二人ともシュンとしてしまった。言いすぎたかもしれない。謝ろうと思ったら肩に重みが加わった。

「よう、親友。今日も派手にやってるなぁ。」

「慎吾か…。俺は何もやってないんだけど。」

目線を向けると慎吾がくくっと笑う。

そして周りの生徒に向かって振り向いたり

「と、言うわけでこの二人は颯汰にゾッコンだから手を出すなよー?ちなみに俺はフリーだから彼女募集中だ!あと颯汰は俺の親友なんで桜の事は任せてるからよろしく。」

女の子から黄色い声が上がって、男子からは嫉妬の目線を向けられる。

「お、おい。慎吾!」

「いいだろ?これくらいしとかないとあの二人に群がる男たちは止めらんないって。それに俺は一応スクールカーストのトップだから、お前達に表立って手を出す奴への牽制にもなる。こういう時のために行動しといてよかったぜ。」

そう言って笑う慎吾はまた俺の肩に手を回す。

「陰で大人気だった颯汰に、特定の相手がしかも二人いるとなれば、俺のチャンスも増えるしな。頼むぜ?相棒。」

慎吾は俺にだけ聞こえる声でそういう。

俺は一つため息をついた。

「強かなやつ。というか2位2位言われても一回も告白なんてされたことがない。」

そうだ。だからそんなに言われても信じられない。悲しい事に告白されたことなど皆無だ。

「そりゃあお前、お前の側に環奈がいるからだろ。中学の時だって学内にいる時には大抵環奈がお前のそばにいた。クラスが変わっても昼だけは必ず横にいたしな。誰も環奈と勝負しようとは思わねぇ。朝は俺達と登校していたし、部活では桜が傍にいたんだろ?お前たちの仲の良さは有名だった。友達としてな。」

あぁ、成程と納得した俺は環奈の方に歩み寄って頭を撫でた。環奈の顔がぱぁっと明るくなる。さっきは桜の頭を撫でたから、これで平等だ。桜に微笑みかけると桜も微笑む。この二人は仲がいい。俺が特別扱いをしなければ仲良くやれるのは確実だ。

こうして俺達の噂はあっという間に学校内を駆け巡った。


「環奈、さっきはごめんなさい。上手くまとまったのはあの二人のお陰だし、私が全面的に悪かったわ。」

さっきのは自分の心の弱さから出た八つ当たりだ。謝らなければいけないと思って私は環奈に頭を下げる。環奈は首を振った。

「私の方もごめんなさい。でも結果として良かったと思わない?」

環奈の言っている意味は直ぐにわかった。颯汰はかなり人気が高いけど、これで私たち二人で独占できる。

「はぁ…。あそこで声を大きくしたのはそういうこと…。」

「ふふ。颯汰は優しいのよ。だから上手くまとまるとは思ってた。それだけじゃないわ。慎吾が面白そうに野次馬の中にいたから、利用してやろうと思ったのよね。」

うん。この子はやっぱり頭が回る。この判断を一瞬一瞬でしてるんだから恐ろしい。

「流石というか何というか…。でも環奈のお陰でこれからはもっと隣にいれそう。」

「そうね。颯汰にちょっかいを出す子もいないでしょう。これでバスケにも集中してもらえると思う。颯汰は優しいから、告白でもされれば少しはメンタルがブレる。私達にとってそれは困ることでしょ?」

助かる。私がどう対策しようかと悩んでいた事を、この子はあの力技で解決してくれたのだ。それは私にできないことだ。

「やっぱり一人じゃできないことはあるわよね。これからも助けてね。」

「勿論よ。今の立場をフルに利用して情報収集に務めるわ。」

そう言って環奈は微笑んだ。


「今日のHRの議題は球技大会の選手決めだ。じゃあ学級委員。適当に頼むわ。」

「はい。」

一人の女生徒が立ち上がる。チラリと一人の男子の席を見てため息を吐くとその机を蹴る。

「うお!」

恐らく寝ていたのだろう。声を上げて男子が椅子から落ち、みんなが笑った。女生徒は一瞥して歩いて行くと黒板の前に立った。

竜胆美華(りんどうみか)。キリッとした目つきがキツそうな印象を与える。とういか結構キツイらしい。

そして椅子から落ちたのは藤原総司(ふじわらそうじ)。明るく、元気。このクラスのムードメイカーといえる。

愛称は良くなさそうだが付き合いが長いらしい。たぶん総司は竜胆に興味があるが、竜胆からはそのような空気はない。二人のことをよく知らないが。

「この球技大会には勝利の意味があります。具体的には内申点の向上と焼肉屋での打ち上げを学校が手配してくれます。ですからどうせやるなら勝てる人選をするべきでしょう。」

知らなかった。先輩には軽く話を聞いたが、そこまでリサーチしていない。

「一応メンバー表は俺らが作ってきました!勿論、球技大会は好きな競技に参加する行事なのでこれ通りにする必要はないです!だけどこれを見た上で考えて欲しいと思います!」

そう総司が言って配られたプリントを見る。

俺はサッカーになっていた。慎吾との約束もあるし、異論はないので黙っておこう。

桜と環奈はソフトボールに選出されていた。

どうやら男子の方は野球だが、女子はソフトボールにらしい。時間はズレているようなので応援にもいけそうだ。

その後はちょこちょこと入れ替わりがありながら球技大会の面子は決まったのだった。


一週間が経ち、体育の時間にちょこちょこ調整を行いながら球技大会の日が来た。

クラスメイト達はやる気もあるらしく、この後の焼き肉のために盛り上がっていた。

「そう言えば三競技もあるのにどうやって順位を決めるんだ?」

俺はそれが気になって総司に聞いてみる。

「男女合わせてだから正確には六競技な。」

そう言って総司はパラパラと紙を捲る。

「つまりは平均だ。男女の順位の平均を取って一位だったクラスが優勝だ。」

「だいぶ厳しいなぁ。」

「だがボーナス点もある。」

「ボーナス点?」

「ちゃんとプリント見ろよ颯汰。」

「すまん。」

正直興味がなく隅々までは見ていない。いつも一緒にいる3人とバスケ部の人間は置いておいて、俺の交友関係は広くはない。だから焼肉とか面倒。自分からクラスの人間に絡みに行く気もならない。

「ほんと颯汰は集団に向かないよなぁ。」

「まぁ否定はできない。挨拶くらいは普通にするけど、根が根暗なんだ。明るい事に積極的に参加するタイプじゃない。そういうわけで焼肉を勝ち取ったとしても不参加だ。」

正直朱莉ちゃんと環奈が心配だ。二人を家に残すぐらいなら不参加でいい。

「それなら私も不参加を表明します。」

そう言って後ろから声をかけてきたのは桜だ。クラスメイトの前では、未だに清楚キャラを作っている。

「えぇ!?藤崎さんもですか!?藤堂さんも不参加だったのに!?」

「えぇ。私は颯汰君にしか興味がありませんから。彼が参加しないなら不参加です。彼は環奈さんを優先するでしょうから、不参加なのでしょう。というわけでよろしくお願いしますね。」

桜はそれだけ言って頭を下げて去っていった。

総司が俺と桜の後姿を交互に見る。

その言い方をされると俺が環奈を好きみたいな言い方に聞こえないだろうか。

実際のところは俺が好きなのは桜なんだけど…。いや、違うか。恐らく参加したくないから上手い事俺を使ったのだろう。

「おい颯汰。俺は良いが、他の男子はお前を恨むぞ?」

「まぁそうかもな。でもしゃあない。」

「まぁ俺としては自分の好きな奴がお前に惚れないか心配しなくて良くなったから素直に応援したいけどな。」

そう言って総司は俺に笑いかける。つまりはそう言う事だ。こいつは竜胆の事が好きで、俺がライバルになる可能性を危惧している。高校生の恋愛なんてすれ違ってなんぼだ。そう言う事もあるだろう。

「心配しなくても問題は無い。誰にも言うなよ?俺は桜一筋だ。」

「え!?そっち!?」

その反応に思わず笑ってしまう。

「お前は竜胆狙いだろ?わざわざ学級委員を選択するタイプには見えない。」

「ま、まぁ…そうだな。」

「じゃあ問題ない。俺は桜一筋。そして環奈とその妹も大事にしている。大事な幼馴染だからだ。これは秘密だぞ?」

「わかった。男と男の約束だな。俺は口が堅い方なんだ。」

総司は手を差し出してくる。秘密の共有は友情の第一歩とも言う。だから俺もその手を握り返した。


「さぁて颯汰。お前は俺だけを見ていればいいからな?」

グラウンドに立って周りを見る。どうやら皆の士気は高そうだが、ウチのクラスにサッカー部はいない。というか俺だって素人だ。たいして向こうには3人のサッカー部がいる。

「勝ち目あるのかこれ?」

「ある。俺とお前ならな。」

そんなことを言われても俺は素人だ。よくてパスを回すくらいしかできない。

「とりあえず走り回ってくれ。お前の目でスペースを見つけて飛び込め。裏をかいてかき回して最後は俺にパスを回すんだ。それだけで点を取れる。」

「慎吾がそういうならそうするしかないな。最近足腰は鍛えている。これも訓練として利用するわ。バスケ以外の勝ち負けは拘りがないし。」

俺がそういうと慎吾が指を指す。指の先には桜と環奈がいた。

「前言撤回。ボコボコにする。」

「いいねぇ。そうじゃないと。」

あの二人の前で格好悪いところは見せられない。

「基本は他のメンバーを使う。お前はパスをカットしたら走れ。お前を上手く使えるのは即席チームでは俺だけだ。因みにこの広いコートの全てを掌握ですることは可能なのか?」

「中学の時は出来なかった。でも今は出来る。バスケと比べるとコートの広さも人数の多さもこちらの方が上で、中学の時は全ては無理だった。でもこの目を更に使い込んでいるからな。今なら可能だ。」

集中すればするほど世界が白くなる感覚がある。そしてコートに居る全員を把握できる。その状態に入ると全てに先回りが出来る。全能感に包まれるような感覚。だがきっとここからも先がある。あの状態を自由に使えるのなら俺はプロにもなれると思う。だが自由に使えたことは無い。

「この広い空間なら更に感覚が研ぎ澄ませられるかもしれない。ちょっと利用させてもらうわ。練習のな。」

思わぬ練習材料を得たと思う。アレは真剣試合じゃないと発現しない。この試合だって真剣勝負には違いない。向こうのクラスだって本気だろう。

「なんだか楽しくなってきた。」

「へへ。いいね。俺もお前とサッカーするのは2年ぶりだから楽しみだ。」





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