皆で遊び②

漫画喫茶を出た俺たちはファミレスに向かう。

どうせなら皆で晩御飯を終えて解散しようと慎吾が提案し、全員が承諾したからだ。

「朱莉ちゃんは何が食べたい?」

「カレー食べる!」

「そうかそうか。カレー好きか?」

「うん!ねーねのカレーが一番好き!でもハンバーグも食べたいなぁ…。」

「任せろ。にーにがハンバーグを頼むから分けてあげる。」

「やったー!」

そう言って朱莉ちゃんは笑顔になる。これだけで環奈がどれだけ朱莉ちゃんを大事にしているかがわかる。

チラリと環奈を見ると耳まで真っ赤になっている。褒められて恥ずかしいのだろう。


「アレ、夫婦にしか見えないぞ?良いのかよ桜。」

慎吾の言葉に私はふっと笑う。

「家は一夫多妻制だからいいのよ。私が正妻だけど。」

「ちょっと何言ってるかわかんねぇ。」

「頭が弱いわね。病院行く?」

「おま、ドンドン遠慮が無くなってるぞ!?でもなんか懐かしいな。いつからだったけ?お前が言葉遣いを変えたのわ。」

そう言われて思い出す。確か小学校の高学年の時だ。

慎吾が清楚系キャラにはまり込んでいった。元々私は素直になれず口も悪かった。だからあの話し方にするのも苦労したものだ。

「もう覚えてないわ。」

「そっか。俺は一応お前の事好きだったんだけどな。でも今はこれでよかったと思ってる。颯汰は良い奴だ。それに桜だって自然体でいられるみたいだし。俺はお前に負担をかけてたんだな。」

「私が勝手にやったことよ。でもごめんなさい。私が貴方に向けていたのは友愛と独占欲だった。迷惑をかけたというなら私の方よ。」

恋愛は難しい。特に幼馴染は。ずっと近くにいるんだもん。一緒にいるのが当たり前だと思ってしまう。距離が近すぎるから、勘違いだってするだろう。

「あぁ…なんだ?俺もお前に向ける気持ちは名前がつけらんねぇ。お前が颯汰を好きだと言ったときもショックを受けることもなかった。そうなんだって腑に落ちただけだ。だから多分俺もお前と同じ勘違いをしてたのかもしれない。だからさ、女の子紹介してくれない?」

その言葉に私は思いっきり慎吾の背中を叩く。

「いた!」

「アンタは顔がいいんだから自分で探しなさいよ。私は同性の友達が環奈しかいないわ。異性もアンタと颯汰の二人だけ。だから紹介は出来ないわ。表面上の友達はいるけど、中身なんて知らないし。だから幼馴染に紹介できる子はいないわ。」

「お前…そんなに友達いなかったのか?」

慎吾のわざとらしい驚き顔にイラっとする。

「蹴り飛ばすわよ?」

「だから怖えって。」

私は思わず笑ってしまう。慎吾も笑った。やっぱり慎吾に抱いていた感情は恋じゃない。颯汰に抱いている感情が恋なのだ。恋じゃないと気づいてからやっと普通に話せるようになった。だからこうして二人で並んで歩いていても、前の様に気まずくないし疲れない。ただの友達の距離感がちょうどいい。


朱莉の事を優しく見つめる颯汰の顔を見ているとドクンドクンと心臓が騒ぎ出す。

街中でこうして歩く家族を沢山見かけるけれど、私の人生にはなかった事だ。朱莉にこういう体験をさせてあげられてよかった。

私と二人で歩いているとき、朱莉は家族連れをみて寂しそうに見ていた。参観日だって、私も学校だからいつも寂しかっただろう。

だからせめてこういう経験をさせられたことは、今後の朱莉の人生にいい影響を与えてくれると思う。

私が嬉しそうな朱莉を見てると、颯汰と目が合った。その目はとても優しい。

(やっぱり好きだな…。)

そう思ったとき、後ろで話している桜の言葉が聞こえた。

『家は一夫多妻制だから』

その言葉を聞いて心臓が跳ねる。

(だから優しすぎなのよ…。桜。)

私は思わず苦笑する。チラリと颯汰を見ると、もう私の事は見てなかった。

でも何かを考えているような顔をしている。その表情も格好いい。

「環奈。」

突然声をかけられてビクッと肩が跳ねる。

「ひゃ、ひゃい!?」

か、嚙んじゃった…。は、恥ずかしい…。真剣な目がこちらに向けられる。

「高校を卒業した後にやりたいことはあるのか?」

何も考えていない。でも出来るなら3人と一緒に居たい。

「可能ならこの生活を続けたい。」

ポロっと言ってしまう。言ってはいけなかった。だってこの言葉は彼に更に負担をかけることになるのだから。

「そうか。わかった。」

それだけを言って颯汰は前を向く。恐る恐る横顔を盗み見ると、彼はどこか嬉しそうなそんな顔をしている。怒ってはいないらしい。私は安堵から一息つく。

「ねーね?」

「なぁに?朱莉。」

朱莉に微笑むと朱莉は笑顔になる。

「楽しいね!」

その言葉に涙が出そうになる。だけど我慢した。ここで泣くわけにはいかない。

「うん。楽しいね。」

だから私は笑った。朱莉の前ではいつだって笑顔でいると、そう決めたから。


『可能ならこの生活を続けたい。』

俺はその言葉を聞いて救われた気がした。

今の生活をという事は桜とも一緒に居たいという意味で捉えていいのだろうか。

それなら嬉しい。都合のいい様に受け取りすぎだろうか…。

でも朱莉ちゃんだって桜には懐いている。たぶん大丈夫だ。

俺が契約を達成すれば二人揃って救える。

その後にゆっくりやりたいことを探してもらえればいい。

そんな事を考えながら歩いているとファミレスが見えてきて、俺達は中に入った。


席順は俺の向かいが環奈、環奈の横が朱莉ちゃん、朱莉ちゃんの横が桜、桜の向かいが慎吾だ。

「よしよし。これでいいな。うん。」

席順を決めた慎吾とジト目を向ける女性陣。

これはカラオケの時のデジャブかな?

まぁ俺としてもこの席順が一番丸く収まるとは思うが、慎吾のメンタルが強すぎて引く。

「なぁ、颯汰。」

「何だよ。」

「お前、球技大会何に出るんだ?」

球技大会。5月末にあるイベントだ。今回の競技は野球、サッカー、バレー。バスケは無い。毎年競技は変わるが去年は卓球、バスケ、ハンドボールだったらしい。

「サッカーだな。野球はピッチャーならギリギリできるが、打たれるのは必至だ。バレーは上背が足りない。リベロなら何とかできそうだがもっとうまい奴がいる。サッカーならこの目も使えるからな。」

「よしよし。ゲットー!お前がいれば勝ちは貰ったもんだな!シュートの精度はともかくとしてパスは完璧だしな!」

いや完璧ではない。中学の時の球技大会でこいつに鍛えられたからそれなりに出来るって程度だ。普通に蹴り損じるときはあるし、パスを上手く受け取れない時もある。なのにこいつは俺を過大評価してくる。

「どうせならバスケをやってる颯汰を見たかったわ。」

「私も…。」

俺だってバスケがしたかったけど仕方ない。だって無いんだもん。

「まぁ今回は俺たち二人の黄金コンビを見られるんだから贅沢言うなよ?」

いつから黄金コンビになったのか…。サッカー部エースのこいつが暴れまわるだけで大体の試合は勝てる。つまり丸投げだ。

「いいか颯汰。俺がモテる為にしっかり活躍頼むぜ?」

「もうモテてるだろ…。」

溜息を吐きながら返す。

「動機が不純すぎ…。」

「気持ち悪い…。」

朱莉ちゃんだけは理解できずにキョトンと首を傾げている。

「まぁまぁ。朱莉ちゃんもいるんだから。その話は学校ですればいいだろう?話は後にして頼もうぜ?」

「カレー!」

朱莉ちゃんの言葉に頷いて、注文用のタブレッドで子供用のカレーを選択する。俺は約束通りハンバーグを選択して環奈に回す。

暫くすると料理が運ばれてきて、全員でいただきますを言い食事を開始した。

俺は朱莉ちゃんにハンバーグを取り分ける。

「ありがとにーに!」

「あぁ。たくさん食べな。」

朱莉ちゃんの笑顔を見れるだけで頑張る気になれる。

「ありがとう、颯汰。」

「気にするな。俺がしたかったんだ。」

そういうと環奈が微笑んでくれる。

「ちょっと慎吾。いい加減トマト食べなさいよ。」

「無理だ。誰が何と言おうとこれは食わん。」

そう言いながら慎吾はプチトマトを皿の端に寄せる。

「本当に小学生から変わらないわね。」

「仕方ねぇだろ!?割ったときの食感が最悪なんだ!」

慎吾はトマトが嫌いなのか。まぁ大人でも嫌いな人は嫌いだよな。

「しんごはトマト食べれないのー?じゃあ朱莉が食べてあげる!」

朱莉ちゃんがそう言って慎吾はぎょっとする。

4歳の子にそんなことを言われたら食べざるを得ないだろう。

「あ、ありがとう朱莉ちゃん。だけど大丈夫。ちゃんと食べるぞ。」

そう言って慎吾は目を閉じたまま口に入れて飲み込んだ。

「ぐ…辛い…!」

「頑張ったな慎吾。」

俺は肩を叩いて労ってやる。偉いぞ慎吾。それがプライドからくるものでも、嫌いなものを食べるのは勇気が必要な事だ。

慎吾は青い顔をしながら俺に親指を立てる。

そんな俺たちを見て桜は苦笑していた。


帰り道、俺たちは繁華街を離れてから家の近くまで戻っていた。

朱莉ちゃんの手を引いていた俺は桜に話しかけられる。

「なんか慎吾が話したいって。朱莉ちゃん。私でもいい?」

「うん!」

朱莉ちゃんが手を放して桜に手を伸ばす。俺は素直に少し離れた。

「で?話って?」

「桜の事だよ。ちゃんと話してなかったなぁってさ。」

「桜?そうだな…俺が知らないことは知りたい。」

「どうせ誰も話さないことだ。だから俺から教えておかないとな。あいつは昔男子から虐められる事があったんだ。強気な性格つーのもあってな。俺はそんなあいつを守ってやってた。だからずっと一緒にいたし、距離の近い女の子ってこともあって好きって勘違いしちゃったんだよ。お互いにな。」

「そうか。」

「だから今度はお前が守ってやってくれよ。言動と口の悪さから勘違いされることの多いやつだけど、いい女なのは間違いねぇ。幼馴染の俺が保証する。頼むぜ?親友。」

「あぁ。必ず守る。そして幸せにする。」

俺の言葉を聞いて慎吾がニッと笑い拳を突き出してきたので、俺も拳を合わせるのだった。


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