4人での初めての休日

朝、目が覚めて階下に降りる。既にいい匂いがしていた。

「あら、おはよう。」

「おはよう。颯汰。」

二人が俺を見て笑顔を向けてくれる。

「おはよう、二人とも。朱莉ちゃんは?」

「まだ寝てる。でもちょっと見てくるね。」

そう言って環奈は上に行ってしまった。

俺は目線を桜にうつして違和感を感じて近づく。そして顔を近づけた。桜が目を閉じる。俺はその頬に手を添えた。

「桜…。お前、寝不足なんじゃないか?」

薄っすらとだが目の下が黒い。

「キスしてくれるのかと思ったのに。」

目を開けて拗ねた顔になる。

「すまん。君にキスをするのは付き合ってからだ。それよりも目の下…。」

「ちょっと夜更かししただけよ。問題ない。」

はぁとため息を吐く。桜は健康管理に気を使う人間だ。その彼女が寝不足となれば理由は一つしかない。俺の為に何かをしていたんだろう。

「ちょっと我慢してくれ。」

「えっ!?ちょ…!」

桜を下から抱き上げる。所謂お姫様抱っこだ。

そのままソファーに向かった。桜は顔を真っ赤にしながらされるがままにされている。

俺はそのままソファーに座る。クッションをとり、俺の膝と桜の頭の間に置いた。

「意外とよく見てるのね。」

「目を閉じろ。少し寝てくれ。」

「朝ごはんの準備が…。」

「それは私がやるわ。」

声がした方に顔を向ける。そこにはいつの間にか環奈がいた。朱莉ちゃんは寝ていたようで、まだいない。

「か、環奈!?えっと、これは…!」

桜が珍しくあたふたしている。

「ふふ。何慌ててるのよ。可愛いわね。颯汰。絶対に降ろしちゃダメよ?」

「か、環奈!?」

「勿論だ。」

俺がぐっと親指を立てると環奈がくすくすと笑ってキッチンに消えていった。

「うう…。恥ずかしいわ。」

「いいから目を閉じろって。」

優しく頭を撫でる。

「恥ずかしいけど…悪くないわ。」

「そうか。いいから寝てくれ。君に倒れられると困るんだ。」

「うん。わかった。」

しばらく黙っているとすぅすぅと寝息が聞こえた。俺は安心して胸を撫で下ろす。

暫くすると環奈が俺の方をチラリと見て微笑むと指を上に向ける。俺はそれに頷いて応えた。

どうやら下準備が終わったようで二人っきりにしてくれるらしい。

俺は桜を見下ろす。朝日に照らされた彼女はとても綺麗で美しい。

とっとっと小さな足音が聞こえて見るとヨミとスノウがいた。スノウはソファーに乗ると桜の足元で丸くなった。そしてヨミは俺に寄り添い丸くなる。俺はヨミを優しく撫でる。

それはささやかな幸せの時間だった。


肩をゆすられて目を開ける。どうやら俺も寝ていたらしい。膝の上に暖かい感覚があって、まだ桜がそこにいるのはわかる。

目線を向けると環奈と朱莉ちゃんがいた。

彼女がしっと指を立ててサンドイッチを差し出してきたので受け取った。

朱莉ちゃんもニコニコしながら桜を見ている。

そのまま音を出さないように俺達は過ごした。

「んっ…。」

桜がゆっくりと目を開ける。時刻は12時をすぎたところだ。

「わた…し。」

寝ぼけ眼で俺の顔を見る。そして耳まで真っ赤になった。急に動こうとしたので俺はそっと力を込めて押し留める。それ以上の抵抗はなかった。

「おはよう。桜。」

「う、うん。おはよう。」

「おはよう。よく眠れたみたいね。」

「はよ!ねーね!」

「あ、うん。おはよう。」

そっと桜の上半身を起こしてあげる。

「私…どれくらい寝てた?」

「7時からだから5時間くらいだ。」

それを聞いて彼女は頭を抱える。

「勿体無いことしちゃった!」

その言葉を聞いて苦笑する。

「休みなんだからいいだろ。」

「よくないわ!やらなきゃいけないこともあるのに!」

そう桜が叫ぶと環奈がノートを差し出した。

テーブルで何かをずっと書き写していたのは見えていた。

「完成したわ。チェックお願い。」

桜は目をぱちくりとして俺から離れて読み始める。暫くするとパタンとノートを閉じた。

「完璧。ありがとう環奈。本当に助かる。」

そして桜は俺にノートを差し出した。

「あと4冊あるんだけど後で確認して。次のミーティングで使ってちょうだい。」

差し出されたノートを見ると、多くの高校のデータが纏められていた。

「これは…。」

「私と環奈の合作よ。作戦の立案に使えるはず。チームのブレーンに託すわ。」

「ありがとう。二人とも。助かる。」

これがあれば的確に作戦を立てられる。

勝ちへと繋がる貴重な情報だ。ノートから目線を上げると、二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑っていた。


「にーにと散歩!にーにと散歩!」

朱莉ちゃんは嬉しそうに俺と歩いている。ぶんぶんと腕を振られるが、こんな経験が今までなかったんだろうと思うと付き合うしかない。

俺の後ろでは環奈と桜が楽しそうに何かを話している。何を話しているのか気になるが、残念ながら聞こえない。

「にーに!公園いこ!」

「いいぞ。思いっきり遊ぼうか。」

「やったー!」

こんなに喜ばれたらもう頑張るしかない。

公園には沢山の小さい子がいた。

朱莉ちゃんはその子達を見ながらもじもじとし始める。

「どうしたの?」

「一緒遊びたいけど混ざるのにがて…。」

「そっか。よし。にーにに任せとけ。」

「えっ?うん…。」

俺は朱莉ちゃんの手を引いて子供達の元へと歩いて行く。

「おーい!君達!俺らと一緒に遊んでくれないかー?」

「いいよー!」

「何するー?」

「鬼ごっこしよー!」

数人の子供達はノリよく声をあげてくれる。

「よし!じゃあ鬼ごっこするかぁー!」

『おおー!』

朱莉ちゃんも可愛くおおー!と声をあげてくれた。そのあとは上手いこと加減しつつ走り回った。朱莉ちゃんもきゃっきゃっと走り回っていて、来てよかったと思った。

「またねー!」

「また遊ぼうぜー!」

そう言って去っていく子供達に朱莉ちゃんと手を振る。結構遊んだからか朱莉ちゃんは眠そうに目を擦っている。

「おんぶしてあげよっか?」

「うん…。」

了承を得たので俺は朱莉ちゃんをおんぶしてあげる。するとすぐに耳元で寝始めた音がした。

「凄いわね、アンタ。」

「正直驚いちゃった。」

桜と環奈が話しかけてきて苦笑する。

「昔は人に混ざるの苦手じゃなかったっけ?」

流石幼馴染。よくわかってらっしゃる。

「今も苦手だよ。だけど朱莉ちゃんの為なら頑張れる。こう見えて外面を良くしようと努力はしてるんだ。根が隠キャだからさ、油断するとマジで話せなくなるよ。」

俺も小さい時は本当に苦労した。でも隠キャのままではポイントガードは務まらない。指示を飛ばせる程度には人付き合いをしないと。

「確かにアンタは教室だと無口だもんねー?」

「うっせ。部活でたくさん口開いてるからいいんだよ。挨拶だけでお腹いっぱいだ。」

俺の言葉に二人がくすくすと笑う。

「帰ろうぜ。朱莉ちゃんも寝ちゃったしさ。」

俺は照れ隠しにそっぽを向いて歩き出す。

そんな俺を挟んで3人で歩き出す。

「やっぱいいな。こういうのさ。家族で楽しく過ごして笑い合う。俺の理想の生活がここにある。今俺は幸せだ。」

思わず口にだして、しまったと思う。環奈には俺の言葉の意味がわからないだろう。

チラリと横目で環奈を見ると目の端に涙を溜めながら頷いた。

「大丈夫よ。この生活は終わらないわ。これから先、楽しいことがいっぱいあるんだから。」

そうだ。楽しいことはたくさんある。朱莉ちゃんにも毎日笑っていてほしい。

だから俺はこの日々を守るために努力しよう。

どんな理不尽からも大切な人を守れるように。

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