部活と新しい日常

『紅白戦!?』

全員から声が上がる。

「はい。ポイントガードは俺と要先輩で別れます。それ以外はくじ引きで。」

「えぇー。俺出ずっぱりになるじゃん!」

要先輩から声が上がる。

「体力ないんだから鍛えてください。他に質問は?」

「くぅ。ぐうの音も出ない!」

要先輩が悔しがってるのを横目に他の人たちはポジション毎に次々とくじを引いていった。

「まさか向こうにスタメンが集まるとは…。これじゃあ要先輩楽しちゃうじゃん。」

なんの因果かそんなチーム分けになってしまった。だがこれも運だ。仕方ない。

「どうする?颯汰。」

話しかけてきたのはポジションはCで同じ一年の林海斗(はやしかいと)だった。彼とは別の中学だったが試合で戦ったことはある。

因みに大吾先輩の弟らしい。体格は劣るがまだ一年。将来のスタメン候補だ。

「どうもこうもない。やるからには叩き潰すだけだ。先輩とか後輩とか関係ないから。」

「よく言った後輩!お前のそういう交戦的なところ好きだぜぇ。心置きなく潰せるってもんだからなぁ!」

博先輩が肩を組んでくる。めんどくさいなぁこの人。とりあえず手を払っておく。

「じゃあやりましょうか。時間が勿体無い。」

「ほんと可愛げがねぇなぁ。」

「ジャンプボールは…勝ち目ないなぁ。」

面子を見渡す。博先輩、純也先輩が向こうの時点で勝ち目なし。わかった。そこは潔く諦めよう。そう思っていたら林が手を挙げた。

「俺にやらせてくれ。」

まぁ正直誰でもいい。やりたいというなら経験にもなるだろう。

クジで勝ったチームになり、今回選出したのは全員一年。最終的には全員出てもらうが一試合目の敵チームは俺以外スタメンのチームだ。

一応この面子は俺が3年になった時を想定している。向こうに一人有望なPFを取られているのは残念だが暫定だ。

SFは次期エース候補の須藤智也(すどうともや)。彼も中学の時は敵同士だったが、ウチのエースとバチバチにやりあっていた。190cmでジャンプ力もある。全体的に高水準。普段は寡黙。まったく口を開かない。だけどマネージャーの斎藤亜美(さいとうあみ)とはよく話している。二人が付き合ってるかは知らない。

SGは陣内圭介(じんないけいすけ)。ドリブルなら良い線行ってるがシュートが課題。

PFは叶智久(かのうともひさ)。体はでかい。持って生まれた才能だ。技術はないがパワープレイなら目を見張るものがある。今後に期待。

Cは林海斗。体もデカく、力もある。大吾先輩に鍛えられてるだけあって、技術もそこそこ。伸び代もまだある。完成度はこの中でピカイチだ。

ジャンプボールはあっさり負けたがどうせ要先輩にわたると予測して踏み込んでカットした。

どうしたものかと考えつつドリブルで切り込む。直ぐに純也先輩が回り込んできた。

身長差というのは厄介だ。腕の長さにも関わってくるし、何よりやりずらい。

だがこんな場面で戦えないと優勝は夢のまた夢だ。そう考えて切り込もうとしてやめた。

そもそも今回の紅白戦は俺のレベルアップではなく、スタメン意外と試合を作ることだ。それは桜の指示だった。

『優勝を目指すなら1、2年との連携が大事になるわ。今年優勝できなかった時のことを考えて今から動いておかないと。クジは運だけど、なるべくなら3年とは敵になっておきたいわ。颯汰はスリー禁止。アシスト優先だから。』

そう言われて確かにと思ったから採用した。

圭介にパスを回すと純也先輩が首を傾げる。

「熱でもあんのか?」

「無いっすよ。こっちにも考えがあるんで。」

「考え?」

純也先輩の問いかけには答えずに走り出す。

作戦はマンツーマンなのか純也先輩は俺についてくる。やり辛い。

「お前をフリーにするわけないだろ?」

「まぁそうですよね。でもボールを持ってない時は俺のほうが早い。」

更にスピードを上げる。ウチのチームは完全に攻めあぐねているが、なんとかボールを死守していた智久が俺にボールを戻す。

俺は受け取った瞬間、チラリと智也と目を合わせる。智也が頷いて走り出した。バスケットにボールを投げる。だがシュートではない。

「飛べ!智也!」

同時に飛んだ智也がダンクで決めた。アリウープ。これはさっき智也に伝えた作戦だ。俺がバスケットに高くボールを放った時はシュートではなくアリウープだからお前が決めろと。普段はやらないので先輩達もびっくりしている。

チラリと見ると決めた智也が自分の手を見ながら立ち尽くしていた。初めてのダンク。気持ちよかっただろう。

「智也!今の感覚を忘れるなよ!」

「お、おう!」

初めて聞く大きな声に苦笑する。

「なるほどな。自信をつけるのが目的か。アレ俺もやりたいなぁ。」

「純也先輩はボールを持ちながら飛べるんだから要らないでしょ。」

「でも格好いいじゃん?」

はぁとため息を吐く。直ぐに試合は再開される。全員それなりに頑張っているが、実力差は埋まらないので徐々に押し込まれる。

俺のスリーがあれば負けはないが仕方ない。

結局18対12でこちらの負けだった。

「ちっ!颯汰はディフェンスが硬すぎる。」

「読みが深すぎてパスカットがなぁ。」

先輩達にも反省点はあるだろう。だがこちらに比べれば少ない。

チラリと桜を見ればノートに何かを書き殴っている。サポートはそちらに任せるとして、俺は前を向いた。その後は全勝で一日を終えたが課題の残る1日だった。


自主練を終えて帰路につく。

「今日から私も泊まるから。」

「いいのか?」

正直嬉しい。一緒に入れる時間が長くなるし。

「恋敵がいるからって言ったら二つ返事だったわよ?」

そんなことを言いながらにっと笑う。

「信用無いなぁ。」

「家事分担。三人で分ければさらに負担も減るでしょ?細かいところは環奈と相談しなきゃだけど。あっ環奈にはさっきメッセージしたわ。助かるって返事きてた。」

携帯の画面を見せられる。そこにはやりとりが確かにあった。さすが桜。言わなくても伝わるのは楽だし、助かる。

そんなことを考えていると家に着いて、桜が鍵を開ける。靴を脱いでいるとパタパタと足音がした。

「おかえりなさい。颯汰、桜。」

「あぁ。ただいま。」

「ただいま、環奈。朱莉ちゃんは?」

「さっきまで起きてたんだけど寝ちゃって…。ご飯作っておいたけど食べる?」

俺と桜は顔を見合わせる。

「逆に負担を増やしてないか?すまん。」

俺が謝ると環奈は首を振る。

「気にしなくていいわ。私だって何かしたいし…。」

「じゃあ遠慮なく!分担の話は食べたらしましょう。」

桜が努めて明るく言ってくれる。

夕飯はカレーだった。味付けが甘めなのは朱莉ちゃんの為だろう。

なんだか童心に帰ったようで懐かしい気持ちになった。

食べ終わって洗い物を俺と桜でする。環奈がやると言ったが断わった。この共同生活は分担して負担を軽くするためのものだからだ。

片づけが終わったらテーブルに3人で座る。

「じゃあ分担ね。私が朝食、環奈が夕食。お弁当は私が朝食のついでに作るわ。環奈は朱莉ちゃんの送迎もあるから、朝は朱莉ちゃんに集中するように。」

桜の提案に環奈は素直に頷く。

「後で朱莉ちゃんが朝にどんなものを食べていて、何が好きなのかを教えてね?それで颯汰は風呂掃除、私と環奈が二人で洗濯。前までは平日に私がいなかったから出来なかったけど今日からは出来るから溜めないようにしましょう。」

桜は次々と案を出してくれて助かる。二人ではこうもいかなかっただろう。

「光熱費、食費とかは気にしなくていいと親から了解を取った。」

環奈の事は前から伝えていたので二つ返事でメッセージが返ってきた。家にいればもっとサポートできたのにと言っていたが、俺たちはもう高校生だ。母さんには父さんをサポートしてあげてほしいと伝えたら謝られてしまった。本当に親には俺の我儘と行動で心配をかけて申し訳ないと思う。今でさえ十分にサポートしてもらってる。週に1度は困ってることが無いかメールしてくるし。

「そっちは私も少し負担するわ。」

「私も。親にはお金だけは沢山渡されているから。」

「そうか。じゃあ6割は負担するから、二人は2割ずつ頼む。」

二人は頷く。父さんには出世払いでと頭を下げる事にする。本当はバイトをするべきだが、今は理解のある優しい両親に助けてもらうほかない。

俺の言葉に二人も頷いてくれた。

「桜は引き続き今の客間を使ってくれ。環奈は気づいたと思うが、君の部屋はそのままにしている。掃除もしてあるから使ってくれ。」

「私の部屋…。そのまま残してくれてありがとう。」

「母さんがな…。いつか帰ってくるかも知れないからって。」

「お母さんが…。」

俺の言葉を聞いて環奈が涙を流す。

環奈がお母さんと呼ぶのは俺の母さんだけだ。俺の家にいたときは本当の親子と言えるくらい仲が良かったと思う。母さんは俺同様に環奈に接していた。悪いことをしたらしっかりと怒り、良いことをすれば褒めて、二人で出かけることもあった。一番環奈の事を心配していたのも俺では無く母さんだったかもしれない。

勘違いから母さんに伝えたときに、恐らく一番ショックだったのは母さんだったろう。それでも母さんは大人だ。そんな姿は微塵も見せなかったし、息子である俺を気遣ってくれた。

だからこそ、今回の件は二つ返事でOKが出たのだろう。父さんに関しても中学の頃から仁さんに切れていたので何も言わなくても自分の娘のように思っていたのかもしれない。

桜は泣き続ける環奈を優しく撫でる。

「ほら、もうすぐ9時だからお風呂に行きましょう。環奈、裸の付き合いをしましょう。颯汰の家の浴槽は広いから楽勝でしょ。」

「う、うん。」

ウチの家は普通の一軒家だが、父さんの趣味で風呂だけは気合が入っている。確かに3人までなら余裕で入れるだろう。桜が手を引いて環奈を立たせると俺にウインクをした。俺も任せたと頷きで返した。



俺が風呂から上がるとちょうど洗濯機が止まったところだった。

下着もあるだろうから触らずにリビングに行くと二人で何やら話しながらノートに書いていた。勉強でもしてるのかと覗く。

そこには何冊もノートがあって、中心には桜が練習中に書き留めたであろうノートが置かれている。

「あら、上がったの?」

桜が俺を見る。

「何をしてるんだ?」

「桜に教えてもらいながら、それぞれの選手の課題と練習法を纏めていたのよ。」

環奈がそういいノートを見せてくれる。そこには細かく現状の課題が記載されていた。

「凄いな…。これは…。」

「マネージャーの勤めってやつね。私は一人でやる気だったけど、環奈からやりたいって言われたの。二人でやった方が効率的だし、マネージャーが出来ない環奈もこれなら参加できる。疎外感も無くなるでしょ?言わば影のマネージャーね!」

そう言って桜は環奈に笑う。環奈も恥ずかしそうにはにかんだ。

「お前らって仲が良かったんだな。」

思わずそうこぼす。

「本音で語り合える女友達は得難いものよ?大事にしたいじゃない。」

「うん。私もそう思うわ。」

良かった。二人の相性はとても良さそうだ。これなら心配ない。

「それはそれとして颯汰は渡さないけどね。」

「だから2番目でいいって言ってるじゃない!」

二人はそうして睨み合う。さっきの雰囲気はどこえやら。俺は思わず苦笑する。とりあえず話題を変える事にした。

「洗濯機が止まってたぞ。」

「あら、行くわよ。環奈。」

「うん。下着を分けるから颯汰は待ってて。」

「あぁ。」

二人を見送って、俺は暫くノートを読んで過ごした。


寝る間際になっていつものマッサージをしてもらった俺は体を伸ばす。

「いつも助かる。」

「ええ。感謝の言葉だけで十分よ。」

桜は立ち上がるとスノウを抱き上げた。

「そう言えばミィは?」

帰ってきてからその姿を一回も見ていない。

「環奈の部屋よ。見事に好みが分かれたわね。ヨミはアンタから離れないし。」

確かにと思う。でもこれもバランスが取れてていい。部屋の扉さえ開けておけば餌とかも問題ないし。

「不安はあったが、桜がいてくれてよかった。これからも頼む。」

桜がいなければ今日帰ってからもこんなに心穏やかでは居られなかっただろう。

「ええ。アンタの万全を維持するのが私のやりたいことだから。遠慮せずに頼りなさい?じゃあ、おやすみ。」

「あぁ。おやすみ。」

手を振って別れる。こんな日々もいいなと俺は思った。

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