三連休とデート1日目

「デートに行くわよ!」

テスト最終日の金曜日の夜。突然家にやってきて桜はバン!と扉を開けた。

「あれ?お帰り。どうした?今日金曜だけど。」

いつもなら金曜日の夜は来ない。

俺は油断していて猫と戯れていた。

「私は今回のテストはそこそこに自信があるの。だから気分がいいわ!」

「お、おう。それで?」

「察しが悪いわね。来週からはまた部活が始まるでしょう?だから今週の3連休は毎日泊まろうと思って。それに一つ迷いが晴れた。私はやっぱり貴方と一緒にいたいってね。返事は前言ったようにウインターカップまで待つわ。でもそれはそれとして、デートくらい許される善行をしてきたのよ。だからデートに行くわよ!」

それはもう告白なんよと思いながら立ち上がる。スノウが桜の足元に走っていく。

桜は笑顔で抱っこした。

「わかった。で?どこ行く?喜んで付き合うけど。」

「明日は映画、明後日は水族館に行きましょう。勿論全力でオシャレをするわ!」

そう言うことなら俺もするしかない。

「月曜は?」

「バカね。休むに決まってるじゃ無い。ベッドでゴロゴロしましょう。私には時間がないわ。来週の日曜のダブルデートまでに点数を稼いでおかないと…。」

ちょっとよくわからない。でも何かあったのかもしれない。

「何かあったのか?」

「言いたいけど言えないのよねぇ。来週の日曜まで待ってね。でも時間がないの。後悔はしたくないから。」

なんだかよくわからないが、それとデートが繋がるなら俺は喜んでデートをする。

「わかった。とりあえず晩飯にするか。」

「そうね!何食べたい?」

「いや、今日の分は作ってくれただろ?」

「そうだった。でもそれは私の分にする。だから何食べたい?」

今日の桜はちょっと変だ。だけどわざわざ言うことでもないか。

「オムライスで。」

「了解。」

そう言って桜は満開の笑顔を見せてくれる。

その笑顔が俺の心を躍らせるのだった。


明日着ていく服に悩みながら私は個人チャットを開く。正々堂々。隠し事はなしだ。

『明日と明後日は颯汰とデートするから。』

『桜…。アンタ律儀すぎよ。』

『それが私だからね。報告を震えて待ってなさい!』

『ええ。わかったわ。』

すかした返しである。まぁいいかと携帯をベッドにポイした。

このままだと私は相手にもならない。何もせずに負けるのは主義じゃない。本当はゆっくり自分の気持ちを整理するつもりだったのになんでこんな事になってしまったのか…。

(あそこで焚きつけちゃった私が悪いんだよなぁ。)

焚きつけた私はバカだけど、でもまぁ仕方ない。性格上仕方ないのだ。

来週になって彼が環奈を選べばそれで終わり。こうやって出かけることもなくなる。

あっ、やばい…。泣きそう。

何にせよ、少しでも悩ませれば私の勝ちだ。時間を得れれば勝算は0ではない…はず!たぶん…。

一つ悩みが消えれば一つ悩みが増えるのが人生である。本当にままならない。

何にせよ私は今できる最善をやるために服を選ぶのだった。


朝起きて階下に降りていくとメイク以外は完璧に準備が終わった桜がいた。

時刻は7時。あまりに早すぎる。

「早いな。」

「ええ。朝ご飯も作りたかったし。」

そう言ってすっとホットサンドが差し出される。俺はお礼を言って座る。

「桜は食べないのか?」

「食べたわ。私は今から化粧してくるから。ゆっくり食べてて。」

「おう。わかった。」

食べながら考える。俺は一体どうしたいのか。きっと桜と一緒にいれば全てうまくいく。だったら答えは一つじゃないか?

「ウインターカップが終わったら…か。」

最後の一口を口に入れて立ち上がり、皿を洗う。洗いながらもぐるぐると考える。だがわからない。わからないけど…。

「よし。決めた。後悔は先に立たないから決めねぇと!」

月曜の夜にハッキリと伝えよう。

決意を固めた俺は完璧な準備をするのだった。


腕を組みながら街を歩く。

道行く人が振り返って俺らを見る。

俺は気になるが、隣にいる桜は上機嫌だ。

「目立ちすぎじゃないか?」

「いいじゃない。既成事実よ。」

「既成事実って…。まぁいいか。」

だが俺だとは誰も思ってないだろう。それって意味あるのか?

20分ほど歩くと映画館につく。

「サスペンスだと二択だな。」

上映してる物を確認するとラブコメが三、サスペンスが二、ホラーが三、アニメがニだ。

「うーん。適当に決めて、行き当たりばったりで来てるからね。時間的にはこれでしょ。」

指を差した先にあったのはホラーだった。

「サスペンスですらなくなってるじゃん。」

「バカね。何を見るじゃなくて、誰と見るが大事なの。さっ買いましょ?」

「因みにホラーは好きなのか?」

「うーん。一番苦手!」

「おいおい。」

桜は俺の手を引いて券売機に向かっていき、あっさり購入ボタンを押してしまった。

「さっ!ポップコーンと飲み物を買うわよ!」

「テンション高いなぁ…。」

「だって楽しいから!颯汰は楽しくないの?」

そう言われて苦笑する。

「いや、楽しいよ。」

「そうよね!楽しまないと!…かもしれないし。」

「なんか言ったか?」

「ううん!何でもないよ!」

桜が振り向いて笑顔を俺に向ける。

でもそれはここ最近見た笑顔とは少し違っていて、俺は少し不安になった。


「や、やばい…。絶対夢に見る…。今日一緒に寝て…。トイレとお風呂にもついてきて…。」

映画を見終わった俺達は休憩がてら喫茶店に入ったのだが、桜は俺の腕に抱きつきながら終始こんな感じになってしまった。

「トイレと風呂は無理だ。よくて扉の前まで。だけど一緒に寝てやるよ。」

「ほ、ほんと?言質取ったわよ!?」

言質取ったってなかなか使う場面ないなぁと思いながらコーヒーを啜る。

「ホラーダメならなんで選んだんだよ。」

「だって時間が勿体無いじゃん!待ちたくないじゃん!この後も行きたいところがあるの!」

そうは言ってもこんな状態では歩けないだろう。キャラも崩壊しかけてるし。

「行きたいところって?」

「プラネタリウム。この近くにあるんだって。デートぽくてよくない?」

あぁ確かに定番かも。

「でも真っ暗になるのよね…。抱きしめててもいい?」

「別にいいぞ。」

まぁプラネタリウムに行くカップルなんてそういう感じだろう。偏見だけど。

「ありがと…。」

なんだ?しおらしいコイツが珍しいからか、異様に可愛く見えちまう。

そんなことを考えつつ俺達は喫茶店を出た。


プラネタリウムには実は初めて来た。

今回見るのはヒーリングプラネタリウムと言うらしい。真っ暗になりアロマのいい匂いがする。最初は桜の力が強かったが徐々に弱まる。

チラリと桜を見れば目を輝かせて星空を見ていた。そのまま俺たちはゆっくりと星空を堪能したのだった。

「すごく良かったわ!」

「あぁ。そうだな。」

怖いのものも忘れたみたいだし、とは言葉に出さないでおく。思い出させたら悪いし。

そんなことを考えながら雑貨屋に入る。

やはりお揃いのものを一つでも欲しいなと考えたら、マグカップが妥当だろう。

「何か買うの?」

「マグカップでも買おうかなって。いつもお世話になってるしさ。ペアで。どうかな。」

「そっか。うん。そうね。思い出にもなるしね。」

ペアのマグカップといっても色々ある。

今までこういうのを買うこともなかったし、真剣に悩んでしまう。

「色々あるけど名前からイメージしてこの青とピンクでどう?」

指をさされたものを見ると、とても綺麗な色合いだった。俺も気に入った。

「あぁ。これいいな。これにしよう。」

「ふふっ。ありがとうね。」

「いいよ。お礼だから。」

「それでもありがとう。大事にするわ。」

そう言って桜は大事そうに袋を抱きしめて、俺はその仕草にドキっとするのだった。


家に帰り、俺達はリビングでのんびりとする。

今日は帰ってくるのも遅かったのでピザを頼んで、適当に探偵ものの映画を流していた。

「それにしてもたくさんDVDがあるわよね。」

テーブルの上には何枚かDVDが置かれている。

全部父の私物だ。

「父さんが映画好きなんだ。その影響で俺も映画はたくさん見てる。」

「これ見てたらホラーを忘れられるかしら。」

「どうだろうなぁ。」

どうやら完全にトラウマになったのか、本当にトイレの時でも付き合わされている。扉の前でずっと話しかけないと不安らしい。

ピザを食べながら映画を見て、コーラを飲み、とてもジャンクな時間を過ごして気づけば21時を回っていた。

「お風呂に入るわ。」

そう言って立ち上がると桜は俺の手を引く。

「本気か?」

「本気よ。私がお風呂で幽霊に襲われたらどうするの?」

ちょっと何を言ってるかわからないが仕方ない。俺は言われるがまま連行されるのだった。

「服脱いで浴室に入ったら呼ぶから。」

「はいはい。」

「いいわよー!」

しばらくゴソゴソと音がした後に声がして扉を開ける。

「いる?」

「いる。」

声をかけられてかけ返すとシャワーの音が聞こえてきた。なるべくそっちを見ないようにすると扇情的な赤い下着が見えて生唾を飲む。

どっちを見ても地獄だと目を瞑った。

「ねぇ…。」

「何だ?」

「私と環奈。もし、絶望的な状況で1人しか選べないとしたらどうする?」

難しい問いだ。だけどそんなのは決まってる。

「選ばない。二人とも選ぶよ。それで俺が死んだとしてもな。」

「そう。そうよね。アンタはそういう奴だった。」

そう言って暫く水が流れる音がする。

「ねぇ。最初で最後のチャンスをあげる。一緒に入らない?」

ドキンと心臓が跳ねる。

「今は入らない。最初で最後じゃないから。」

向こうから反応はない。

「俺はお前を誰かに渡す気はないぞ。」

だから言ってやった。何か様子が変だから安心させてやりたかった。

「バカね…。出るから、出て行って。」

「わかった。」

俺が出るとまたゴソゴソと聞こえて扉が開く。

「交代。」

「あぁ。」

入れ替わろうとすると袖を引かれる。

振り返ると桜が微笑む。

「さっきの言葉、嬉しかった。」

「そうか。」

頭をかいて風呂に入る。

風呂から上がるまで桜はずっと扉の前でくだない話を俺に振っていた。


23時半を回って、俺はベッドで腕を広げる。すると桜がすっぽりとおさまった。

「暖かい…。」

「そうか。」

今回は事故ではない。自分の意思で彼女を抱きしめている。

「一生の思い出になるわ。」

そんなことを言いながら俺に密着してくる。

「なぁ。やっぱりお前、なんか変だぞ?」

「ふふ。そうかも。でも来週わかることだから。この三日間だけは甘やかして。」

ダブルデート。こんなに言われればわかる。きっと桜は真実を知ったのだろう。

でもそれは環奈から俺に話すことだと思って黙ってると推測できる。どうやら信用がないらしい。だから俺は桜を強く抱きしめた。

環奈が助けを求めてくるなら勿論助けるさ。ずっと手を差し伸べたかったんだ。もう後悔はしたくない。渡された名刺は今だって残してる。乗り込む準備だって長い時間をかけてしてるし、親にも許可は取った。だけど桜にも負担をかけてしまうかもしれない。

「なぁ、桜。」

「何?」

「もし仮に、俺がお前に迷惑をかけたくないから離れるって言ったらどうする?」

「ばかね。その時は地獄の底までついていってあげるわ。私は重くて、しつこい女なんだからね?」

そうか。安心した。

「そうか。じゃあその時は頼むわ。」

「うん。」

目を閉じる。今の言葉で不安は消えた。

後は環奈から言葉を聞くだけだ。

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