桜と環奈

テスト最終日を終えて私は立ち上がる。

中々いい結果になる気がしてワクワクしてしまう。今回こそ環奈に勝てるかもしれないという自信があった。今日は気分がいいから、金曜日だけど颯汰の家に行こうかと考えつつ靴を履く。すると後ろから声をかけられた。

振り向くとそこには環奈がいた。

「環奈。どうしたの?今帰り?」

ぱっと見クラスメイトはいない。ならキャラを維持するのは面倒だ。

「ええ。慎吾がいると猫を被る癖が今だに抜けない貴女と、本音で話すならこのタイミングしかないでしょ?」

成程確かに。

「そうね。いいわ。どこにでもついてってあげる。私、今機嫌が良いの。」

「朱莉を迎えに行くわ。付き合って。」

「ええ。勿論。」

私は微笑んで了承する。一歩も引く気はなかった。


「で?なんの話?私は颯汰の家に行くつもりだったんだけど?」

とりあえずジャブを打つ。予想通りなら、何かしらの反応があるはずだ。

「なんで颯汰の家に?」

「私が颯汰の家に行くことが環奈に関係あるかしら?」

意地の悪い言い方をわざとする。

ちょっと喧嘩腰くらいじゃないと、この子は本音を言わない。

「好きだから…。私も颯汰のことが好きだから!」

大きな声に私が面食らう。でもやっぱりそうだったのだ。ならあの二人は両思い。私が入る隙間はない。それでも颯汰の隣にいると私は決めている。それにハッキリさせないといけないことはある。だから私は核心をつく。

「ならなんであの日、慎吾とキスをしていたの?」

答えによっては泣かす。颯汰を傷つけておいて、何をいけしゃあしゃあと言ってるんだと責め立てる気でいた私は、環奈の表情を見て言葉を飲み込んだ。

唖然とするような青い顔をした環奈を見てあぁこれはしてないなとわかってしまったからだ。

「してない!そんなことしてない!」

涙を流しながら叫ぶ彼女を通行人が見る。失敗したなぁと思いながら手を引いて歩き出す。

そして公園であの日の真実を知った。

「目撃者は私と颯汰。誰にも言ってないわ。でも颯汰と私はあの日失恋した。真実はともかくとして、そう見える行動を取ったのは貴女達よ?わかる?」

コクリと環奈が頷く。

「悪いけど、私も颯汰を支えるって決めてるわ。絶対に引かないし、正々堂々よ。だからちゃんと颯汰に話して土俵に上がってきて。」

はっきりと伝える。好きとかはやっぱりよくわからない。けどこの気持ちは隠せない。

「桜…。貴女やっぱりいい女ね…。私は貴女ならいいわ。私と付き合っても、颯汰は夢を叶えられないもの。」

その言葉を聞いてちょっとイラっとする。いいわ。喧嘩してあげる。

「環奈って頭は良いけどバカなのね。」

「えっ…?」

「それを決めるのは私でも貴女でもない。颯汰よ。だから勝手に負けた気になってんじゃないわよ。譲ってもらえて、やったーってなる人間に見える?侮辱しないで。欲しいならかかってきなさいよ!」

「私…は…っ!」

ギリっと音が聞こえる。そうよね。横から掻っ攫われて気分も悪いでしょう。じゃあかかってきなさい。私は絶対に引かないわ。

「私だって颯汰と付き合いたい!」

「じゃあなんとかするしかないわね。」

「どうやって…。」

「貴女の境遇なんて、私は知らないわ。だから貴女のナイト様に助けてもらうしかないじゃない。ちゃんと颯汰に相談したの?待ちの姿勢をとっても何も変わらないわ。動きなさいよ。きっと颯汰がなんとかしてくれる。アイツはやる時はやる男よ?」

私の言葉に環奈はパチクリと瞬きをする。

「何よ?」

「貴女、敵に塩を送ってるわよ…?」

確かに。本当に何をしているんだと思う。

「そうね。でもいいのよ。1から関係性を始めるってこういう事じゃない?だから私は良い女なのよ。」

環奈がふふっと笑う。

「何よ。」

「ううん。格好いいなって。」

私は苦笑する。別に格好良くしてるわけじゃない。私はただ、どんな時でも恥ずかしくない生き方をしたいだけだ。

自分で努力して勝ち取るからこそ意味があると私は思う。だから颯汰に関しても正々堂々だ。

環奈が私に手を差し出す。

「なんの握手?」

「友達になりましょう?私達。」

そっか。私たちが4人でいるようになったのは私と颯汰が仲良くなったからだ。それがなければ一緒になんていなかっただろう。

だから私はその手を握る。

「いいわよ?私は友人であろうと叩き潰すけどね。」

「へぇ。私に勝つ気なんだ。幼馴染に勝てるの?」

「生意気。さっきまで泣いてたくせに。」

「桜の真似しただけだからね。」

はぁと一つため息を吐く。フェアじゃないので私は今までの事と現状を全て話した。

勿論朱莉ちゃんの迎えに歩きながらだ。

「泊まってるなんてズルい!」

「土日だけよ。貴女も来たらいいじゃない。」

「無理よ…。朱莉もいるし…。」

「親は放任主義なんでしょ?小さい時は入り浸ってたのよね?じゃあ問題ないじゃない。」

「うん…。ちゃんと話すよ。負けたくないもん。」

少しは素直になったらしい。良いことだと私は思う。そんな事を話していると朱莉ちゃんの保育園が見えてきた。

「じゃあ私はここまでね。これ以上の手伝いはしないからね?」

「うん。ありがとう。」

微笑む彼女は女から見ても可愛い。完敗だ。そんなこと絶対に言ってあげないけど。

手を振って別れて歩き出す。

テスト明けは三連休だ。

私なりに頑張ったし、今日から泊まりに行こうと歩き出す。

これから先どうなるかはわからないけど、私のやる事は変わらない。私は私のやり方で彼の横にいるだけだ。

(それはそれとして颯汰はどうするのかしらね…。)

彼、鈍いからなぁと思いながら私はゆっくりと帰路を歩くのだった。

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