少女の悩み

「じゃあおやすみ。」

「あぁ。おやすみ。」

彼の微笑みに心が暖かくなる。

扉を閉めようとする白い猫が飛び出してきた。

私がスノウと名付けた猫だ。

抱き上げてからどうしたものかと迷う。猫トイレはここにしかない。

「扉は開けておく。連れてってあげてくれ。」

「そう。わかったわ。」

颯汰がいいなら懐かれているみたいだし私も仲良くしたい。

昨日は事故で一緒に寝てしまったが2日連続で一緒に寝るわけにはいかない。昨日の事は彼が寝ぼけていたから起きた奇跡みたいなものだ。

私は猫を連れて貸してもらった部屋へと戻る。

私も扉を開けておいたほうがいいだろうと扉は開けたままにする。

猫をベッドにおろして撫でるとゴロゴロと聞こえる。

「可愛いね。」

にゃあと鳴くスノウは本当に可愛い。

「君は運がいいね。優しい人が主人になって。捨てられたのは不幸だったけれど、不幸中の幸いだね。」

今日一日一緒にいて颯汰の優しさはよく分かった。歩幅を意識して合わせてくれるし、人にぶつかりそうになった時はさり気なく間に入ってくれる。

テーブルに置いた髪留めを見てふふっと笑ってしまう。意味を知って送ったわけじゃないだろう。それがわからないほど乙女でもない。

「うん。でも一緒にいてあげる。」

呟いて顔が赤くなるのを感じた。扉を開けてるんだったと思ったけれど、そんなに大きな声は出していない。部屋は離れてるから大丈夫だろう。でも念の為ドアを閉める。寝る前に開ければ問題はないはずだ。

「それにしても、君の主人は鈍すぎない?」

苦笑しながらスノウを撫でる。

私なりにアピールはしてるつもりだが手応えはあまりない。まぁいいんだけど。

「親友…か。」

その関係は心地いい。恋愛は辛いこともたくさんある。だからこの状況を維持する事には文句はない。颯汰といるのは楽しい。素で居られる人だから。口汚くしても幻滅しない人だから。

慎吾だったら…。うんやっぱり幻滅すると思う。慎吾も優しい。でもそれは私に対してだけではない。八方美人というやつだ。颯汰は興味のない人には基本的に無関心だけど、慎吾は違う。自分の好感度を着実に稼いでいる。だから人気は高い。だけど彼は私を優先してはくれない。付かず離れず私をキープしておいて、結局他の女性と付き合ったのはらしいと言えばらしい。

颯汰だって見た目は頗るいいのだけれど、話し辛さで損している。身内には甘いのに。

だからそんな彼に特別扱いされている状況に私が酔ってしまってるのかもしれない。

「ダメね…私は。」

代わりじゃないと思っていても精神的に依存してしまう。

「だからちゃんと役に立たないと…。」

勝手に依存している以上は彼を支える行動を最優先にしなければならない。

「ねぇ…スノウ。好きって何だと思う?」

返答はゴロゴロという音で帰ってくる。

颯汰と一日いて私は好きという気持ちがわからなくなってしまった。

慎吾に抱いていた気持ちと颯汰に抱いている気持ちはやっぱり違う。

慎吾対しては確かに独占欲のようなものがあったと思う。私だけを見てほしかったし、もっと優先してほしかった。いつもふらふらと他の女性のところに行くところにもイライラしてた。

でも颯汰に関しては違う。純粋に幸せになってほしいと思ってる。最終的に隣に私がいなくても仕方ないとすら思ってる。隣にいるときは私を見てほしいけど、彼にとって自分が繋ぎでもいいから今は彼を支えたいと思ってる。

私は重いという自覚がある。そんな私がこんなに軽い気持ちで一緒にいるということはやっぱり颯汰に向ける気持ちは好きとは違うのかもしれない。

自分の事なのによくわからない。感情がぐちゃぐちゃだ。

「失恋した直後に親友にアピールしてるなんて気持ち悪いかな…。」

メンタルが弱っているせいかすぐに気分が落ちてしまう。

慎吾がいたときは意図的に颯汰に近づかないようにしていた。でも慎吾がいなくなってからは枷が外れてしまっている。3年間、彼の頑張りを横で見てきた。痛々しいほどの練習も本当は止めたかったけど傍観してきた。

そんな私が今更すり寄って彼の気持ちを独占するのは正しいとは思えない。

「病んでるな…私…。」

扉を開けてベッドに横になる。考えても仕方ないし、今は私に出来ることをするしかないと考えながら目を閉じた。

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