初めてのデート?
「それじゃあ私はカフェにいるから終わったら声かけてね。」
そう言って千花さんが居なくなってしまったので俺たちは二人で並んで歩いていた。
なんだかんだ休みの日に二人というのは初だ。
長い付き合いとは言っても、俺達はなるべく二人っきりにならないように気をつけていた。
念の為、千花さんには少し遠いホームセンターに連れてきてもらったのも変な噂が経てば桜がかわいそうだからだ。そう思っての選択だったのだが、俺の手はなぜかガッチリと桜にホールドされている。
「お、おい。これは流石に不味くないか?」
手を繋ぐというのは俺らくらいの歳になれば違う意味になる。
そして問題はそこだけではない。
何が問題って多分今手汗がやばい!
だがそんな理由でこの手は離すのはこいつを傷つけるかもしれない。結局抵抗することはできず、俺は手を引かれている。
「か、勘違いしないで!これはアレよ…。は、逸れたら大変…だからよ!?」
そんなことを言う桜は耳まで真っ赤だ。確かに人が多いけど恥ずかしいならやめてほしい。
そして気づけばペットコーナーに辿り着いていた。ぐいっと腕が引かれて柔らかい感覚が腕にあたる。
「どうしたんだよ桜。いつもと違うぞ?」
「そうかも…。だって今日は初めてのデートなのに、颯汰は全然私に集中してくれないんだもん。なんかやだ。周りの目なんか気にしないで私を見てよ…。」
言われて理解する。あぁ…。これは俺のミスだ。桜の為に距離を空けないとと思ってた。
でもこれをデートだと認識してくれてたなら、俺はとんでもないミスをしていることになる。
「そっか。ごめん。そうだな!らしくねぇのは俺だった!」
俺は自分から距離を縮めて桜の目を見る。
桜は泣きそうな顔から一転して目が輝く。
同時に耳まで真っ赤になって笑った。
「行こうぜ。見るものがたくさんある。」
「ふふっ。そうね!」
桜が笑ってくれる。それだけで俺も嬉しくなった。だから仮に誰かに見られて噂なってもどうでもいいかと思った。
「予算は?」
「7万。今までのお年玉全ツッパ。」
「ふふっ。颯汰らしいけどやりすぎよ?」
桜が楽しそうに笑う。
「わかってるんだけどさ、学校と部活を考えたら全自動一択なんだよな。土日と夜は見てられるんだけどさ。それに物欲もないから使っても問題なし。」
ゲームや漫画は好きだが、それに使う時間はあまりない。さらに親は過保護で必要以上に生活費を用意してくれる。だからお金には実際困ってなかった。
「なるほどね。なら確かにお金はかかるわね。値段も大事だけれど、ネットの評価も確認しながら購入しましょう。アンタが大事に貯めたお年玉が消滅したら大変だもの。」
そう言って桜は真面目な顔で携帯と商品名を見比べている。一人でやると大変だが、桜がいてくれるおかげでだいぶ楽に選定することができた。
3時間ほどかかってしまったが、値段と評価を見比べて最適なものは購入できたと思う。
所持金は6万ほど減ってしまったが予算内だ。
千花さんに頼んで車に荷物を乗せる。
「もう14時ね。帰る?」
「どうする?家に帰って色々設置するものはあるから終了でもいいと思うけど。」
「そうね。歯ブラシとコップも買えたし、とりあえず必要なものは揃ったわ。他はおいおい考えるとして、とりあえずは大丈夫ね。そうだ。今日の晩御飯は何が食べたい?大体なんでも作れるけど。」
そう言われると少し困る。でもどうせなら自分で作れないものがいい。
「中華で。」
「わかったわ。お母さん。最後にスーパに寄ってもらえる?」
桜の言葉に千花さんが頷く。
「はいはい。じゃあこの近くの大型ショッピングモールに行きましょう。」
「じゃあこれ。食費ね。」
そう言って千花さんが桜に三万円を渡す。
「こんなに要らないけど。」
「食費と交遊費よ。アンタが管理しなさい。足りなかったら更に出すけど、貰えないと思って管理するのよ?今回の事は主婦としてのお金の使い方を実際に学ぶ良い機会よ。」
「主婦…。」
呟いて顔を赤くする桜。そういう目で見たことがなかった俺は、こんなに可愛かったのかと思いながらも口には出せない。
その桜の顔を見て千花さんは微笑む。
「私はここで待ってるから。颯汰君。桜の事よろしくね?」
「はい。わかってます。」
どちらかといえば桜の方が俺よりもしっかりしている。だからこれはナンパから守ってやれとかそういう意味だろう。
ホームセンターにいた時から気づいていたが、桜は可愛い。男性が思わず振り向く程度には。
デートという意味で彼女を見てから更に可愛く見える。だから横にいる男である俺は彼女を守ってあげなければいけない。
俺は小学校の時から環奈を守ってやりたくて合気道を習っていた。だから荒事にも多少は対応可能だ。
「行くか。」
車から降りて桜に手を差し出す。環奈に対しては気恥ずかしくて出来なかったのに、自然と手が出てしまった。横にいなきゃ守れるものも守れない。だからこの手にはちゃんと話さないという意味を込めていた。握ってくれないとちょっとショックだ。
桜はその手をじっと見た後に両手で包み込むように握って、うん!と満開の笑顔を見せてくれた。
大型ショッピングモールは休日ということもあり、なかなかに盛況だった。
隣町とはいえ、知り合いと会ってもおかしくはない。だがびくつくのはもう辞めだ。
何より純粋に楽しむことを桜は望んでいる。
「人が多いわね。私は嬉しいけど、手を握ってていいの?」
「いいよ。勘違いされるならさせとけばいいだろ。桜が嫌なら離すけど。」
「バカね。嬉しいって言ったでしょ?でもなんかエスコートされてるのお姫様みたい。ちょっとくすぐったいし緊張するわ。」
そう言って桜はクスクスと笑う。
「俺だって初めてだからな?」
俺の言葉に桜がキョトンとした顔を向ける。
「環奈といる時はしなかったの?」
「しなかった。恥ずかしいし、釣り合わないだろ。俺なんてさ。」
俺の言葉にちょっと桜がむっとする。
「なんだよ?」
「その言い方だと私が環奈より下に見られてるみたいでむかつく。」
どうやら言葉のチョイスをミスったらしい。
「違うよ。後悔はしたくないから。お前の手を取りたかった。それだけ。」
「そっか…。うん。その気持ち分かるよ。」
手の力が強まる。俺も軽く握り返した。やってる事は傷の舐め合いだ。でもそれは仕方ない。
長い長い片思いだった。だからぽっかりと空いた心の穴は同じ傷を持ってないと補えない。だから今は同じ歩幅で歩く相手がいることが有り難かった。
歩いていてふと一つの髪留めが目に入った。
桜をモチーフにした髪留めだ。
「どうしたの?」
急に立ち止まった俺に桜が声をかけてくる。
「一つ俺にプレゼントさせてくれないか?」
「えっ…?いいけど…。高いのはダメよ?私達はまだ高校生なんだから。」
「わかってるよ。」
手を引いて目的の品の前に立つ。値段は千円。これくらいなら問題はない。それを手に取って桜に見せる。
「昨日のハーフアップ可愛かったからさ。ダメか?」
桜は少しびっくりした顔をして微笑む。
「時間かかるのよ?アレ。」
「そ、そうか。」
引っ込めようとした手が掴まれる。
「だけどアンタのためにセットしてあげる。感謝しなさい?」
その微笑みがあまりに美しくて一瞬息を忘れそうになる。
「あ、あぁ。」
頷いてレジに持って行く。そう言えば小学生の時に祭りの屋台で環奈に指輪を買ったことを思い出す。きっともう持ってはいないだろう。
だけどアレが初めて異性に送ったプレゼントだった。きっと俺たちにだって別れは来る。
こんなにいい女だ。慎吾が離れたとなれば引く手は数多だろう。
(だけど思い出にはなるよな。)
俺は会計の済んだ商品を渡す。
「ありがとう。一生大事にするね。」
「いや、重いわ。壊れたらまた買ってやるから。だから普通に使ってくれ。」
「また買ってくれるんだ…。ふふっ。アンタ私の事大好きじゃない。」
「大事な親友だと思ってる。」
「ふう〜ん?」
上目遣いで小悪魔のように微笑む桜から目を逸らす。その顔はずるい。
「照れすぎでしょ。かっわいいー!」
顔が近くなり流石に焦る。
「揶揄うな。バカ。」
手を引いて歩き出す。流石に恥ずかしい。
「ふふっ。そっか…なんだ。」
聞き取れない声で桜がつぶやく。
「なんだ?」
聞き返しすと桜は笑って首を振る。
「なんでもないわ。さぁ行きましょう。」
そう言って俺に腕を巻き付けて歩く桜の横で俺はクエスチョンマークを浮かべるのだった。
買い物を終えた俺たちは家に帰ってくる。
荷物を降ろすとまたねとウインクして千花さんは帰って行った。
「なんだかどっと疲れたな。」
「ごめんね?私のお母さんが…。」
車の中では散々揶揄われた。そのせいで俺は疲弊していた。
「いや大丈夫だ。猫達の為にセッティングしないとな。」
俺はそう言って立ち上がると桜もそうねと立ち上がった。
「休んでていいぞ?」
「二人でやった方が早いわ。」
まぁ確かにそれはそうだ。手伝ってくれるというなら素直にお礼を言っておこう。
「助かる。ありがとう。」
「乗り掛かった船だからね。」
そう言って苦笑する桜はどこか楽しそうで、迷惑とは思ってないことがわかった。
猫の諸々の設置が終わって、晩飯を食べ、風呂に入った俺達は一緒に勉強をしていた。
晩飯はエビチリ、エビマヨ、チャーハン、中華スープだった。
どれも店で出てくるものと遜色なくとても美味かった。
「お前はいい嫁になるな。」
シャーペンを動かす桜の手が止まる。
「いきなり何よ。」
「気立ても良くて飯も美味い。美人で真面目で頭もいい。」
「だからいきなり何言って…!?」
その顔は耳まで真っ赤だ。
「いや、お前を射止める男性は幸福だと思っただけだよ。」
俺の言葉を聞いてパチクリと瞬きをする。
「バカね。そう思うなら、私が売れ残ったらアンタがプロポーズしてきなさい?」
いやお前は絶対売れ残らないだろうと言いそうになるが、俺に向かって微笑む桜の小悪魔のような顔を見て口から出せずに飲み込んだ。
「さて、また昨日みたいにならないように今日は早めにマッサージを終わらせちゃいましょうか。」
桜の言葉に頷いて俺はベッドに横になる。
「なんか悪いな。」
「いいのよ。その為に泊まってるんだから。」
申し訳なく思う一方、人が家にいるという安心感もある。両親が海外に行ってから正直寂しい気持ちはあったからだ。それが同い年の異性というのは少し問題だが…。
「なぁ…。」
「何?気持ち良くない?」
「いや。マッサージは最高だからその話じゃない。猫の名前を迷っててな。」
自分にネーミングセンスはない。可能ならいい案が欲しかった。
「そ、そう。名前…ね。私がつけるなら黒猫がヨミ、三毛猫がミィかな。アンタは?」
う。話の流れで聞かれてしまった。なら言うしかないよな…。
「クロとミケ。」
「ふぅん。別におかしくないんじゃない?」
「おかしくはないけど毛色のまんまっていうのはな…。だから桜の言った二つを採用させてくれないか?」
「別にいいけど。いいの?颯汰が拾ったのに私が3匹とも私が決めちゃって。」
まぁ確かに拾ったのは俺だが、桜は多くの事を手伝ってくれている。
「あぁ。マジで助かるよ。俺昔から動物の名前を付けるの苦手なんだよ。全部見た目でつけるから。」
「ふふっ。颯汰らしいと言えばらしいわね。わかった。じゃあこの子たちの名前は決定ね。」
「あぁ。名前が決まるといよいよ家族になった感が出るな。」
「家族…。」
桜が何かを考えるような顔をする。
「なんだよ。」
気になって聞いてみると桜が小悪魔のような顔をする。
「それって私がお母さんで、颯汰がお父さんかな?」
その言葉にドキッとする。こいつは隙があればからかってくる。だから俺もニヤッと笑ってからかい返すことにする。
「そうだな。スノウはお母さんに懐いてるみたいだしな。」
「なっ!?」
チラリと見ると桜の顔が真っ赤になっている。どうやらからかうのは得意でも、からかわれるのは苦手らしい。
「そ、そっか。ふーん。あの子たちにとって私がママで颯汰がパパなんだ。ふーん。」
顔を晒して真っ赤になった耳が見える。やめろ。その顔は俺の好みに刺さる。
「ま、まぁそうだな。二人で拾ったんだからそうなるだろうな。」
俺は恥ずかしくなり顔を逸らした。
「ふ、ふーん。そっかそっか。」
「なんだよ。」
「ううん。なんかいいなって、そう思っただけだよ?」
「そ、そうか。」
顔が熱い。今は桜の顔を見れそうにない。だから俺は無言でマッサージを受け続けるしかなかった。
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