トラック5:自称妻と、おやすみなさい

「……もー、そんなにへそ曲げなくていいじゃん」


「確かに記憶がないあなたをからかったのは悪かったけどさー、可愛い奥さんのちょっとした悪戯でしょー?」


「夫婦なんだから、もっとすごいこともやってたんだからね?」


「え!? 具体的にどんなことをしていたのか……って」


「私の口から言わせる気!?」


「……スケベ」


「自分で思い出すまで教えてあげませーん」


【SE:時計が鐘を鳴らす音】


「ん、もうこんな時間かぁ」


「……ふあ(あくび)」


「お風呂で温まったから、眠くなってきたな……」


「あなたも眠いの? お昼もあんなに寝てたのに」


「やっぱり、体が休息を求めてるのかもね?」


「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」



……

…………

………………


「それじゃ、電気消すね?」


「ん? 何、どうしたの?」


「自分の部屋に戻らないのか……って?」


「もー、言ったでしょ。寝るときはどっちかの部屋に集まることにしてるって」


「今日はあなたの部屋で寝るから」


「反論は受け付けませーん」


「……しばらく一人で寂しかったんだから」


「一緒に寝るくらい、いいでしょー?」


「私、お嫁さんだよ?」


「大丈夫、変なことはしないから」


「あなたも疲れてるだろうし、普通に一緒に寝るだけ。ね?」


「……いい? いいよね? じゃあ……お邪魔しまーす♪」


【SE:衣擦れ音】


(声が近づく)


「あったかーい」


「……布団、狭くないかって?」


「夫婦なんだから、これくらい密着するのは普通だよ、普通」


「……でも、改めて一緒の布団に入るとちょっとドキドキするかもね?」


「なんだかちょっと懐かしい、かも」


「……ほんの少しの間、離れてただけ、なんだけど、ね」


「あなたもドキドキしてる?」


「……本当かな?」


「じゃあちょっと確かめてみちゃお」


【SE:衣擦れ音】


「こうやって……胸に耳を当てれば……」


「あなたの鼓動も聞こえちゃうんだから……」


「ふふ……ドキドキしてる、ね」


「体温も上がってない? 眠いから?」


「それとも、お布団の中でくっついてるから、かな?」


「入眠には体温ちょっと高い方がいいらしいけどね」


「ふふ……」


「足、絡めちゃったりなんかして……」


「……変なことじゃないよ? これくらい、ちょっとしたスキンシップでしょ?」


「可愛い奥さんと密着出来て、嬉しい癖に……♡」


「距離が近いから、あなたの照れてる顔、よーく見えるね……」


「可愛い顔……♡」


「……大好き」


【SE:寝返りを打つ音】


「あ、ちょっと」


「なんで背中向けるかなー?」


「せっかく向かい合わせであなたの顔見て寝ようと思ったのに」


「そんなんじゃ愛想尽かされても知らないぞ~?」


「ま、私はこれくらいじゃ愛想尽かしたりしないけど」


「あなたが恥ずかしがり屋なのは、よーく知ってるからね」


「何年一緒に居ると思ってるの」


「というわけで、あなたが逃げた時の対処法も熟知済み」


「そういう時は……こう」


(声が耳のすぐそばまで近づく)


「私の方から……追いかけちゃう」


「逃げ場がないくらい、ぴったり追い詰めて……ね?」


「はい、ぎゅー♡」


「ふふふ、なーに?」


「抱き着いてるだけ、だよ?」


「スキンシップ、スキンシップ♪」


「どう? 伝わってる……?」


「私の……ドキドキ」


「背中越しに……鼓動が分かるでしょ……?」


「今日は、このまま寝ちゃうから」


「抱き枕代わりになりなさい」


「拒否権はありませーん♪」


「なーに、ドキドキしちゃって眠れない?」


「それなら……子守歌でも歌ってあげようか」


「こうやって……お胸をとんとん、って……叩きながら……」


「ゆーりかごーのーうーたをー……」


「何?」


「覚えてないけど、懐かしい感じがする?」


「……よく、眠れそう?」


「……良かった」


「眠くなるまで、ずっとそばに居てあげるからね」


「ずっと、ずっと……」


「一生、一緒だから……」


「心配、要らないからね……」


「とんとん、とんとん……」


「とんとん、とんとん……」


(徐々にフェードアウト)


……

…………

………………


【SE:微かな衣擦れ音】


「……すう」


「……ん、むにゃ」


「……だい、すき……」


「ずっと……一緒にいて、ね……」


(寝息)

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