トラック3:自称妻の手作りカレー♪

【SE:包丁の音】


「……あ、起きた?」


「ぐっすり寝てたね。起こさないように気を遣ったけど、その必要もなかったかも」


「昏睡状態って寝た内に入らないのかな?」


「どっちでもいいか。療養期間なんだし、ゆっくりするのはいいことだよね」


「……あ、そうそう。私の方で連絡しておいたから、しばらくお休みだよ。事故に遭ったばかりなんだから、ゆっくり体を休めないと」


「最近忙しそうだったから、ちょうど良かったんじゃない?」


「私も在宅だから、一緒に居られるし……せっかくだから、お家でいっぱいイチャイチャしようね♡」


「……で、何してるのかって?」


「音で分かるでしょ。ご飯作ってるんだよ」


「お腹、減ってるでしょ?」


「料理作れるのかって……当たり前でしょ。いつも美味しいって言ってもらってたんだから」


「え? メニュー? さあ何でしょう、当ててみて……って言っても、匂いですぐ分かるか」


「そう、お察しの通りカレーでーす。好物だったでしょ、私のカレー」


「……分からない? そっか。そりゃそうだよね。覚えてないもんね」


「まあ思い出せなくても、また好きにしてあげるから」


「……私自身も、ね」


【SE:腹の鳴る音】


「ふふっ。体の方はやっぱり覚えてるみたい」


「主観的には初めての手作りカレーだと思うけど……あまりの美味しさに驚かないようにしてね」


「……そうそう、カレーと言えば。日本人で初めてカレーを食べたのは織田信長だって知ってた? 流石は新しいもの好きだよね」


「……え? あ、バレた? はい、嘘でーす。今適当に考えましたー」


「騙せると思ったんだけどなー。鋭いね?」


「……私が嘘つくの下手なだけ? そんなことないと思うんだけどなー」


「え、嘘つくときに癖が出てる!? それほんと!? え、私そんな癖あったかなぁ……」


「どんな癖なの? ……教えない? ケチ!」


「むー、まずいなー。どんな癖だか分からないと、嘘がバレちゃう……」


「……いや、バレて困る嘘とか、吐いてないけどね? 私正直者のお嫁さんだし?」


「大好きな旦那様に、隠し事とかしてないし?」


「……そ、そんなことよりっ。そろそろカレー出来上がるから、お皿にご飯用意して!」


「お皿としゃもじ、そこだから!」


【SE:カレーを煮込む音】


……

…………

………………


「はい、それじゃあ……」


「お嫁さんの愛情たっぷりカレー……どうぞ、召し上がれ♪」


「……どう? 美味しい?」


「……だよね~!」


「良かった~。頭を打って味覚とか変わってたらどうしようって、ちょっと心配してたから……」


「ほっとする味? そうでしょう、そうでしょう」


「子供のころからこのカレー、好きだもんね~?」


「隠し味にビターチョコレート入れるのがコツで~……」


「……うん?」


「え? 私何か変なこと言った?」


「……あ! いや、その……幼馴染! そう、私たち、幼馴染夫婦なんだよ! 素敵でしょ!?」


「子供のころからお互いを知ってるんだよ、好物も!」


「このカレーだって、あなたのお母さんから教わったんだから!」


「……ホントだよ?」


「……うう、そんな目で見ないで」


「……あ、そうだ!」


「せっかくの機会だし、あれやらなきゃ!」


「はい、そのスプーン借りるね」


「何をするかって? ……決まってるじゃん」


「ラブラブ夫婦が食事時にやることと言ったら、あれだよ、あれ」


「……と、言うわけでぇ……」


「はい、あーん♡」


「食べて、ダーリン♡」


「どーよ、可愛い妻が手ずから食べさせてくれる料理の味は?」


「……ふふふ、照れてる照れてる♪」


「ほんとーに可愛いんだから」


「……私の顔も赤い?」


「そ、そんなわけないでしょ。これくらいのいちゃつき、いっつもやってたんだから」


「ほら、次はあなたの番! 食べさせて、ほらほら!」


「んっ」


「……うん、美味しっ♪」


「あなたの手で食べさせてもらうと、倍以上に美味しい気がする」


「……えへへ。なんだか暑い、ね?」


「スパイス、入れすぎちゃったかな」


「……なーんちゃって、ね」


「……いい食べっぷり。そんなに美味しい?」


「おかわりもあるから、じゃんじゃん食べてね」


「今日は退院祝いに、ちょっと良いお肉使ってるんだから」


「たっくさん食べて元気つけないと、ね!」


「記憶も取り戻してもらわないといけないんだから」


「……え?」


「本当に記憶を取り戻してほしいのか、って……?」


「……当たり前じゃん、何言ってんの」


「記憶を取り戻して、大好きな私のこと思い出してほしいに決まってるじゃん」


「……お嫁さんなんだから、さ」


「ああもう、まーたそんな目でこっちを見る……」


「別に、思い出さなきゃ―ってプレッシャー掛けたいわけじゃないよ?」


「料理中も言ったけど、もう一度私に惚れ直してもらえばいいわけだし!」


「っていうか、そっちの方が良いくらいだけど(小声で)」


「……ううん、なんでもない!」


「食べ終わったら、お風呂沸かしておくから。私がお皿洗ってるうちに、先入っちゃって」


「え? いーよいーよ手伝いなんて。病み上がりなんだからゆっくりしなって」


「そ・れ・に……」


「……こんな美人のお姉さんの後にお風呂入るとか、緊張しちゃうでしょ?」


「あはははっ、じょーだんだって、冗談。いちいち反応が可愛いんだから」


「さ、ご飯よそってあげる。お腹いーっぱい食べて、ね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る