トラック2:自称妻による耳かきマッサージ

【SE:太ももを叩く音】


「ほーら、こーこ」


「お、じゃなかった、私の太ももに、ヘイカモン!」


「……なんでそんな警戒するように距離とるかな~?」


「『見知らぬ相手に無防備に急所はさらけ出せない』ぃ~? お嫁さんって言ってるでしょ!」


「な~んでこんなに生意気でこまっしゃくれた子に育っちゃったかな。昔はあーんなに素直で可愛かったのに……。私はそんな風に育てた覚えはないぞー」


「育てられた覚えはないって、記憶喪失なんだから当たり前でしょ!」


「いいから大人しく頭を預けなさいってば。怖くなんてないから」


「……ふ~ん? あくまで抵抗する気なんだ? それならこっちだって考えがあるんだから」


(徐々に近づく)


「何をする気かって……? ふふふ……」


「えいっ」


(抱き着く)


「(耳元で)ふふふ……あんなに警戒してたのにあっさり抱き着かれちゃったね。体は覚えてるって奴かな?」


「でも、これで終わりじゃないよ……? ここからが私の必殺奥義……」


「……こちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~~~~~!!!!!」


「あはははは!!! あんた、昔っからくすぐりに弱いよね~~~~♪」


「覚悟しろ~? 足腰が立たなくなるまで笑わせてやるから……ね!」


「! えっ、ちょっ、ふふっ、そっちから、くすぐってくるのはっ、はっ、反則でしょ!? うふふふふふ……」


「あははっ、反撃してくるとか、ほんとっ、生意気な……っ! ぜ~~~ったい、負けない、からっ!! ……あははははっ!!!」


「このこのこの~~~~~~!!! あはっあはっ、あははははっ!!! ちょっ、脇!! 脇は駄目だって!!!」


(徐々にフェードアウト)


……

…………

………………


「はーっ、はーっ、はーっ……」


「……勝っ、た……!」


「どーだ! お嫁さんに勝てると思ったか~!」


「は~い、と言うわけで……敗者は私のお膝にごあんな~い♪」


(声が近くなる)(片耳から聞こえる)


「……ふふふ、ぐったりしちゃって……」


「もう、逃げられないね……♡」


「あっこら、冗談、冗談だってば! 頭をよじらない! くすぐったいでしょ!」


「往生際が悪いんだから、もう……」


「ん、何?」


「不思議と落ち着く? 懐かしい感じ? そりゃーそうでしょ。何度もやってあげたんだから」


「……覚えてないだろうけどね」


「ま、落ち着いたならいっか。始めるよ~」


「まずはお耳のマッサージから。耳たぶをほぐしていくからね。もみもみ、もみもみ……」


「力加減はどーお? 痛くない? ……ん、なら良し」


「もみもみ、もみもみ……」


「どーんどん、お耳がやわやわ~になっていくよ」


「もみもみ、もみもみ……」


「りらーっくす、りらーっくす……」


「もみもみ、もみもみ……」


「体の力も、抜けていくよ……気持ちいいね……?」


「もみもみ、もみもみ……」


「……マッサージは、これくらいでいいかな?」


「ふふ、随分と強張りがほぐれたね」


「じゃあ、耳かきをする前に……周りの掃除をしていくね?」


「柔らかーいタオルで擦ってあげるから、安心してね~」


「は~いそれじゃ……ごしごし、ごしごし……」


(機嫌良さそうにしながら、耳の周りをタオルで擦る)


「……ん、こんなもんかな」


「それじゃ、いよいよ耳の中掃除していくね……」


「強張らないで、安心して……私に体を預けて……」


「それじゃ行くよ……こしょこしょ、こしょこしょ……」


【SE:耳掃除の音】


「ん~、やっぱり溜まってるね~」


「入院してたから仕方ないけど……これはやりがいがあるな~♪」


「だいじょーぶ。私がぜ~んぶ、すっきりさせてあげるからね……♡」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


「どう? 気持ちいい……?」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


(しばらく耳掃除が続く)


「……ふっ(耳に息をふきかける)」


「ふふ、びくってした」


「はい、こっちはおしまい。次は反対側ね。ひっくり返ってー」


(反対の耳から音が聞こえる)


「……ん、なーに?」


「胸とお腹が近くて、気になる……?」


「……スケベ」


「まあ、お嫁さんだから? 私は全然、ぜんっぜん気にしないけど?」


「気になるなら、目を閉じればいいんじゃない? ……私は、どっちでもいいけど」


「とにかく、始めるから」


「こっちもまずはお耳のマッサージから。もみもみ、もみもみ……」


「……目、開けてる? いや、どっちでもいいんだけど……」


「もみもみ、って言っても……変なところに手を伸ばしたら、駄目だからね?」


「……そういうのは、後で、ね」


「……えへへ」


「もみもみ、もみもみ……」


「……ん、ほぐれたかな。じゃあタオルで……ごしごし、ごしごし……」


【SE:耳の周りをタオルで擦る音】


「……どう? なんだか体全体がほぐれて、眠くなってきたんじゃない?」


「眠かったら、そのまま寝ちゃってもいいからね……」


「それじゃ、こっちのお耳もお掃除始めるよ~」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


【SE:耳掃除の音】


「こうやって、素直に私に体を預けてる姿……本当に可愛い♡」


「なーんにも心配しないで、安心して……ぜーんぶ任せちゃっていいから、ね……」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


「大きく息を吸って……吐いて……」


「りらーっくす、りらーっくす……」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


「頭、空っぽにしちゃおっか……」


「記憶喪失とか、今後のこととか……今は一旦、ぜーんぶ置いちゃっていいから……」


「今は、気持ち良さだけに集中して……」


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


(しばらく耳掃除が続く)


「こしょこしょ、こしょこしょ……」


「……あれ、寝ちゃった?」


「もしもーし……(小声)」


「……ふっ(耳に息をふきかける)」


「ん、寝ちゃってる……みたいだね」


「やっぱり、色々気を張ってたのかな。今はゆっくり休んでね」


「……寝顔、可愛い」


「頭撫でちゃお。わしゃわしゃ、わしゃわしゃ」


「……本当に可愛いんだから♡」


「なんだか、昔に戻ったみたい……」


「……ずっと、このままで居たいな」


「記憶なんて、戻らなくてもいいから……」


「ずっと、お嫁さんしていられたら……他には何も、要らないんだけどな……」

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