トラック1:自称妻との愛の巣におかえりなさい

【SE:靴音】


「あ、そっちじゃないよ。こっちこっち」


「家までの道も忘れちゃったんだね。こりゃー前途多難だなー」


「ま、思い出せなくてもまた覚えていけばいいよ。私もいるし」


「さて、着いたよ。ここが私達二人の……愛の巣、だよっ! ……なんちゃって、えへへ」


「ほら、入った入った!」


【SE:足音】


「……何か思い出した?」


「何も? そっかー(溜息)」


「え? 今の溜息はなんだ、って……えーっと、ら、落胆の溜息だよ! 二人の部屋に来たら何か思い出してくれないかなーって期待してたから、さ!」


「……安堵の溜息に聞こえた? そ、そんなわけないじゃーん? 安堵する場面じゃないって! 記憶、思い出してほしいんだから!」


「……ホントだよ?」


「そ、そんなことより、どう? お家帰ってきたわけだけど、何か感じたりしない!?」


「落ち着く? そりゃそうだよ、自分の家なんだから」


「あ、またその顔。ほんとーに疑り深いんだから!」


「まーだ私が妻だってこと、信じてないんでしょ! 全く仕方ないな……」


【SE:鞄を漁る音】


「……ほら! 免許証! あなたと同じ苗字でしょ!」


「これこそ私達が家族である動かぬ証拠でしょ! どーだ、参ったか!」


「……偽造〜? 私がそんな裏社会と繋がってるように見えるわけ?」


「ほんっと、昔っから慎重なんだから……そこがいいとこでもあるけど、ね」


「なーんで疑うかなぁ。こーんな可愛いお嫁さんを」


「『何か嘘を吐いてるのは間違いない』、って……そ、そんなことないよ? 嘘なんて吐いてないよ?」


「……それより! いつまでも荷物背負ってないで、おろしたら?」


「……あ、そっか。自分の部屋も分かんないんだっけ」


「リビングを出てこっちが私の部屋でー。こっちがあなたの部屋だから」


「手狭じゃないかって? 二人暮らしだからこんなもんでしょ?」


「……え? 夫婦の寝室はないのか……って?」


「あー……えと、それは、その」


「寝、寝るときはどっちかの部屋に集まることにしてるの!」


「こう見えて、ほら? 私達二人共一人の時間も大事にするタイプだし? それぞれ個室が欲しいってなったんだよ……覚えてないと思うけどね!」


「それに、ほら!! 節約、しなくちゃだから! もう一部屋ある物件を借りる余裕とか、なくって!」


「何のための節約って……それは、ほら……ま、将来に向けた色々、的な?」


「結婚式もまだ挙げられてないし? それに……ほら、結婚生活続けるなら……いつか、引っ越さなきゃいけないかも、じゃない? そういう、将来に向けた色々的な……ね?」


「……最初から子供のことも考えて部屋借りれば、って……気、気が早いよ!」


「えと、ほら……この部屋、結婚前から一緒に住んでるから! 結構長いこと住んでるの、分かるでしょ? 一緒に住み始めた当初は、こ、子供とか……考えも、してなかったし!!」


「そういう! こと! だから! もう、あれこれ詮索するのはいいでしょ! 早く部屋に荷物置きなよ!」


「そしたら……あれ、してあげるから」


「何って……あれだよ、あれ。あなたがだーいすきな、気持ちのいい、あ・れ♡」


「最近してなかったから……溜まってるでしょ? 大丈夫、あなたは横になってるだけでいいから……私が気持ちよーくしてあげるから……ね?」


「……あははは! 顔真っ赤じゃーん!!」


「何を想像したの? やーらしい♡」


「耳かきだよ、み・み・か・き。耳垢、溜まってるんじゃない? ほーら、横になって。キレイキレイにしてあげるから♡」

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