友達の定義とは裸になることである

「友達の定義ってなんだと思う?」


「…わざわざ俺のクラスまできて聞くことがそれか?」


今、俺の目の前には真剣な顔をしてそんなことを聞いてくる柳の姿があった。


時刻は放課後。相変わらず裕也は橋川と一緒に先に帰ってしまった。俺は寂しく一人で帰ろうと思っていたところだ。


「別にいいじゃない。この世界は謎で満ちているのよ。そのうちの一つを考えてみましょう」


「それで友達の定義…もっとなんかあっただろ…」


「あら、なら真柴君は友達の定義についてはっきりと答えられるのかしら?」


そう言われ少し考えてみる。


「…別にそんなはっきりさせなくていいんじゃないか?何となく仲が良くなったなーと思ったら友達なんじゃないのか?」


だいたいみんなそんな感じじゃないか?俺と裕也だって最初はそんな感じだったし。


「あなた本当にそんなことで友達だと言えるの?」


なんでこの人はこんなに突っかかってくるんだろう?


「そんなので友達だなんて言ってたらダメよ。『仲良くなる』にも色々あるでしょ」


「例えば?」


「体の関係よ」


どうしてそうなった。


「…続きは?」


まぁとりあえず言い分を聞こうじゃないか。


「女の体目的の男と金銭目的の女、その二人が行為に及んだとしたらそれは金銭を介した交友になるのではないかしら?つまり仲がいいと言えるんじゃないかしら」


「…ナニイッテンダ」


「他にもあるわよ。険悪な二人がいたとしましょう。お互いがお互いを嫌いあっていて関係は最悪。でも先生に仲良くしなさいと言われて表面上だけは仲良くした。それはもう周りから見れば仲がいい友達よ」


そうはならんだろ。


「…結局何が言いたいんだ?」


「それっ本当に友達だと言えるの?私は違うと思うわ。だからただ漠然と『仲良くなった』では友達だと言えないと思うの」


うん。ここまで話を聞いて三割も理解出来なかった。


「じゃあ柳の思うここからは友達だってラインはどこなんだ?」


そこまで言うのなら逆に柳の考えを聞いてみたくなった。


「そうね…まずはある程度の信頼関係がいるわね」


「ほう」


なかなか真っ当なんじゃないか?


「それでいてお互いを尊重し合える関係がいいわ」


「うんうん」


なんだ、結構まともな感性してるじゃないか。今まで柳の言動を聞いていたらこんなですら感心してしまう。


「あとはそうね…お互いに裸体を晒し会える関係がいいわね」


柳は直前まで話していたトーンのままそう言った。その顔は至って真剣だった。なんで真剣な顔でそんなこと言えるんだよ…


「…なんですって?」


はい?今なんと?裸体を晒し会える関係?なんだそれ。え?途中までいい感じだったじゃん。どうしたの急に。


「やはり人間と言うのは人に隠し事をしてしまう生き物だと思うの」


「まぁ…誰でも隠し事の一つや二つくらいはあるだろうな」


「私はそんな隠し事ですら赤裸々に話し合える関係。つまりお互い裸(精神的)で話し合える関係こそが友達だと言えると思うの」


言い方が紛らわしいねぇ?わざわざそんな言い方する必要あった?


「へぇ、柳はそんなふうに考えるのか。俺は隠し事の一つや二つくらいあっても全然いいと思うけどな。誰だって話しにくいことくらいあるだろ。それを無理に聞き出したりはしたくないな」


あくまでこれは俺の考え方だ。この考えを人に押し付ける気は無い。


「私だって無理に聞き出そうとは思っていないのよ?隠したいことは隠せばいいと思っているわ。ただ私のことを信頼してくれて裏切らないでくれたらいいわ」


そう言った柳の顔は今までと全く変わっていない真剣な表面のままだった。…これは聞かない方がいいかもしれないな。


「そうか」


だから俺はそう短く返した。


「ふふ、私あなたのそういうところ結構好きよ」


「…なんの事だか」


俺はそっぽを向きながらそう言った。


「まぁそんなことにこだわっているせいで友達が居ないのだけど」


悲しいなぁ…俺も人の事言えないけど。


「まぁ…いつかできるといいな」


恐らく俺では柳の『友達』にはなれないのだろう。俺は柳のことを信頼しているが、柳は俺の事をそこまで信頼出来ないだろう。俺は柳に全く自分のことを話していない。というか話せるような内容がない。多分柳から見た俺はただその場の雰囲気に合わせているだけの男だ。そして実際その通りだ。だから俺では柳の『友達』にはなれない。


「…私的にはあなたにその第一号になって貰いたいのだけど?」


メガネの下にある目を伏せ目がちにしながらそう言った。少し頬が赤くなっているような気がするのは俺の気の所為なのだろうか?


「え?お、俺?」


予想していなかった言葉が飛んできて少し困惑してしまう。


「別に無理にとは言わないのだけど…」


「い、いや、俺でいいのか?」


正直俺には何も無いと思う。顔も普通だし友達も裕也だけだし確固たる意志を持っている訳でもない。そんな俺のどこがいいんだ?


「…女に何度も言わせるつもり?」


柳の言う友達像には全く及んでいないと思う。それでもあの柳が勇気を出してそう伝えてくれたんだ。それに俺は応えたいと…そう思った。


「…俺で良ければ」


「…そう。ならこれからよろしくね」


「…おう」


なんだこれ。なんかめっちゃはずい。ただ友達になっただけだと言うのにあたかも恋人になった瞬間のような気持ちになる。


落ち着け。別に深い意味は無いはずだ。俺はただ柳と友達になっただけなんだ。


でもまぁ…嬉しいことではある。


「友達になったから一つ聞きたいのだけど」


「なんだ?」


「真柴君って性行為をしたことがあるのかしら?」


「やっぱり友達辞めようかな」



あとがき

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