確かにこれは魔法ですわ
「ちょっといいかしら」
ファミレスで勉強会をした次の日の昼休み、俺は柳に話しかけられていた。
「や、柳…どうしたんだ?」
昨日のことがあったからか柳と顔を合わせるのは少し気まずいというか…
「昨日はファミレスで勉強会をしたわよね」
「あ、あぁ。そうだな?」
「そこで私は膝枕をしてもらいました」
こ、ここで掘り返すのか?!
「お、おい柳、こんなところで言わなくていいだろ」
俺は小声でそう伝える。だが柳の発言が聞こえていてのか教室にいた何人かのクラスメイトは俺の事を見ていた。
「あら、ならどこで言ったらいいの?あなたの家に行けばいいのかしら?」
「よーし!柳!昼ごはん食べに行こうぜ!な?」
俺は何とかこの場から逃げるためにそう言う。
「真柴君から誘ってくれるなんて、真柴君も私のことを愛していたのね」
「一緒にご飯食べに行くことを愛してるって言うのやめてくれません?」
「ならなんと言えばいいのかしら?金銭を介した関係、とでも言えばいいのかしら?」
「それ絶対人前で言ったりするなよ!勘違いされるからな!」
「私は別に勘違いされてもいいのよ?パパ」
「やめろォ!」
とんでもない発言ばかりする柳を何とか黙らせて食堂に向かう。
「さぁ真柴君。今日は私にどんな愛をくれるのかしら」
柳は食券機の前に立ちながら堂々とそう言ってくる。
「はぁ、なんで奢られる気満々なんだよ…まぁいいや。なんでも選べよ」
「あら太っ腹ね。私も脱いだ方がいいのかしら」
「何を言ってるんだねキミは」
しょうもないことを言いながら俺たちは注文する。俺はカレー、柳はうどんだった。俺はカレーをスプーンで掬い口元に運びながら話す。
「それで?なにか話したいことでもあるのか?」
「えぇ」
柳も箸でうどんを掴み口元に運ぶ。柳の口元に運ばれたうどんはプルっとした唇にちゅるちゅると音を立てながら吸い込まれていった。
「さっきも言ったのだけど、私は昨日あなたに膝枕をしてもらったわよね」
「…あぁ」
柳にそう言われたことで昨日の太ももの上に乗った重みと温もりを思い出す。少し赤くなってしまいそうな顔を隠すようにそっぽを向きながら返事を返す。
「して貰って終わりというのはなんだか失礼だと思うの」
「…それで?」
なんだ?話が見えてこない。柳は一体何を…
「だから私もあなたを膝枕してあげようと思うのだけど」
「いいんですか?!」
俺は勢いよくそう言う。はっ!け、決してあのけしからん太ももに顔面を埋めてスーハースーハーしたいだなんて思っていないからな!?
「ち、違う!な、なんでそうなったんだ?」
「あなた欲望に忠実なのね。その欲望を思いのままに私にぶつけてくれても構わないのよ?」
「そ、そんなことよりなんでそうなったんだ。別にあの場は流されただけだ。別にそれのお返しとか考えなくて大丈夫だから…」
本当にそんなこと考えなくても…
「本当に?」
「ほ、本当に」
べ、別に俺は膝枕なんて…
「…」
柳が顔を少し下に傾けメガネのかかっていない裸眼の部分で俺の目を見てくる。
無言で見つめてくるその瞳は俺の心を見透かしている気がしてならない。
「…お願いします」
欲望には抗えなかったよ…
そんなこんなで俺たちは今人のほとんど居ない裏庭に来ていた。
この学校には裏庭と呼ばれる場所がある。小さめの体育館程の大きさがある。地面には青々とした草が切りそろえられており綺麗に整備されている。そんな空間の中心には小さな木陰が出来る木が植えられていた。
柳はその木の下に向かうと木陰が出来ている地面に腰を下ろし自分の太ももをトントンと叩いた。
「どうぞ。今度は私が真柴君の太ももに頭を置いたりしないわよ」
前はお前が勝手にしたんだろ…
「…なぁ柳、さっきのはなんて言うか…勢いで言っただけだから別にしなくてもいいんだぞ?」
べ、別に直前になって怖気付いた訳じゃないんだからね!
「真柴君。あなたは女にここまでヤらせておめおめと逃げ帰るつもりなの?」
「柳が勝手にしたんだろ!」
「まぁいいから来なさいな」
再び柳が自分の太ももをトントンと叩く。
「…」
俺は吸い込まれるように柳の元へ向かう。そして柳の前で腰を下ろす。
「い、いいんだな?」
俺は最後に確認をとる。
「えぇ、私は準備万端よ。あなたのその欲望を存分にぶちまけるがいいわ」
「何言ってんだよ…いや別に完全に間違っている訳ではないんだけど…」
俺は小さく息を吸って呼吸を整えてから頭を柳の太ももに近づけていく。数センチ、数センチとストッキングに覆われた柳のムチムチの太ももに顔が近づいていく。あの太ももに顔を埋めたら俺は一体どうなってしまうんだ?想像もつかない未知の世界への道を進んでいく。そして遂にその太ももに俺の頬が接触する。
「んっ」
「変な声あげないで貰えます?」
そして完全に顔が太ももに包まれる。な、なんだこれ…決して柔らかすぎず適度にハリのある感触、これでもかと鼻腔をくすぐる甘い匂い。自分では感じることの無い他人の肌の温度。全てが俺を取り込んで逃がそうとしない。これは…不味い。ハマってしまいそうだ。
「や、柳。もう…」
もう結構だ。そういいかけた俺の頭に新たな感触が加わる。
「ふふ…」
柳が微笑みながら俺の頭を撫でだした。
「柳?」
頭を撫でられた俺は心臓の鼓動が早くなる。どうして柳がそんなことをしているのか分からない俺は思わず柳の名前を呼んでしまった。
「?っ!も、もうお終いよ」
「あ、あぁ」
そう言われて俺は起き上がる。
「もうお昼休みが終わってしまうわ。帰りましょう」
そう言うと柳はそそくさと行ってしまった。結局なぜ柳が膝枕をしてくれたのかよく分からなかった。
ただ、柳をただの友達だと思っていた俺の気持ちは変わってしまいそうな気がした。
あとがき
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