太ももの魔法
「裕也君♡」
「どうしたんだ?美咲♡」
「呼んでみただけ♡」
「そうなんだぁ♡美咲は可愛いなぁ」
「もう!裕也君ったら!」
「…」
どうもこんにちは裕也君♡の親友の真柴 蒼緋です。ただいま俺は地獄を見せつけられています。同窓会には行けません。私は今、ファミレスでテスト勉強をしています。
そう。あのバカップルと俺、柳でファミレスで中間テストの勉強をしている最中である。そして勉強中だと言うのに目の前のバカップルは人目もはばからずイチャコライチャコラしやがって…お?見せつけてんのか?お?
「裕也、一応俺たちはテスト勉強をしてるんだよな?」
「ん?そうだぞ?」
「ならもう少しイチャつくのを自重してくれないか?見てるとお前の顔をぶん殴りそうになるから」
彼女持ちは余裕ですねぇ?
「怖ぇよ!目がマジじゃねぇか!」
「柳からも何とか言ってやってくれよ」
俺は隣に座る柳にそう声をかける。
「真柴君は目の前でイチャつかれて勉強に集中出来ない、そう言いたいのね?」
「あぁ、そうだ」
さぁ、言ってやってくださいよ姉御!
「なら私達もイチャつけば問題は解決するわね」
「しませんよ?」
何がどうなって解決するんだよ。よりカオスな状況になるだけだろうが。
「見てみなさい真柴君。あの二人を。既にここがファミレスだと言うことを忘れているわ」
言われて二人の方に目線を向けてみるとそこには橋川に膝枕されている裕也の姿があった。
「どう?気持ちいい?」
「あぁ、最高だよ」
「お前ら何やってんの?」
さすがの俺もこれにはツッコミを入れるしかなかった。
「いいか蒼緋。太ももには素晴らしい力があるんだ。集中力と記憶力と持久力が上がり体調の不調まで回復する。それが太ももの魔法だ!」
なんてことを橋川の太ももに頬を擦り付けたままの裕也が言った。
「お前は一回黙ろうか?」
「そんなに言わなくてもいいじゃない」
そんな俺を柳がなだめる。
「…はぁ、もうツッコミ疲れた」
「あら、もう疲れたの?なら私に突っ込む?」
柳さんや、字が違う。
「んー、なら真柴君も太ももの魔法を試してみたら?」
橋川がいきなりそんなことを言い出した。
「…どうやって」
いや、別に気になってるとかじゃないよ?別にそんなのしたいとか思ってないし?今日は勉強するために来たんだし?でも一応聞いとこうかな、みたいな?いや決していやらしい気持ちとかは ────
───だけど橋川がどうしてもって言うから一応話だけでも聞いておこうかな!
「ほら、隣に結ちゃんがいるでしょ?」
…いやいや、柳はそんなことするタイプじゃないだろ。そう思いながらもチラッと柳の方を見る。柳はなんというか…かなりムチッとしている。太っている訳じゃない。ただなんというか…どエロボディなのだ。
「あら、私は全然いいわよ」
「…いいん…ですかッ?!」
そ、その顔が埋まりそうな太ももに…ダイブしてもいいんですか?!
「えぇ、いいわよ」
俺は生唾を飲み込んだ。あの太もも…どんな感触がするんだろうか。想像するだけでも自然と口角が上がってしまいそうになる。
「…お願いしますッ!」
欲望には抗えなかったよ。
「分かったわ。それじゃ、失礼するわね」
ん?なんだかセリフが逆なような…
そう思ったのもつかの間、俺の太ももに確かな重みが加わった。
下を向くと丸メガネの奥の目と目線がぶつかった。
「いやお前がされるんかい!」
思わず大きな声でツッコんでしまった。
「なかなか寝心地が悪いわね」
「しかも悪いのかよ」
「えぇ。でもなんだか落ち着くわ」
柳はそう言いながら静かに目を瞑る。
「…」
その様子を見ていると自然と柳の頭に手が伸びる。そして美しく艶のある長い黒髪を丁寧に撫でてしまった。
「…あ!わ、悪い!」
「……いえ、別に構わないわ」
そう言うと柳は起き上がった。
「…少し御手洗に行ってくるわ」
柳はそう言うとこちらを一度も見ることなく行ってしまった。
「やっちまった…嫌われたか?」
そんなことを考えて落ち込んでいるとふと目線を感じた。
目線の感じた方を向くと先程までは太ももの上でだらしない顔をしていた裕也とそんな裕也を愛おしそうに撫でていた橋川が二人ならんでニヤニヤしていた。
「…なんだよ」
俺はなんだか恥ずかしくなってぶっきらぼうにそう言う。
「いやー?なんでもないぞー?なー、美咲」
「うん。そーだよー、ねー、裕也君」
なぜだか分からないが猛烈に殴ってやりたい衝動に駆られる。
俺の太ももにはまだ微かに温もりが残っていた。
…髪、サラサラだったな。
あとがき
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