第19話 辛い痛い悲し寂し
ー 風呂場をあとにした俺たちは
高床式布団に並んで座っていた。 ー
神社のこと、親のこと。
自分は要らないんだってことを話した。
しかし、淡々と話す俺の背中をずっと撫でてくれていた凛央さんだったが彼女が本当に聞きたいのはこんなことではないだろう。
そろそろ本題に入ろう。
「…俺がどうして家でしたかだったな…。」
「……うん。」
やはり凛央さんの声が強張った。
「俺はな…。 もう、疲れたんだ……。
未来が明るいという保証もなしに、剣とか
勉強とかを頑張らされるのに疲れた。
誰かが褒めてくれるわけでも
一緒にいてくれるわけでもない。
まだまだ知らないことばかりなのに、
体はどんどん大きくなって、子どもでなくなっていく。 大人になっていっちゃう。
それが…怖かった…。
あのままあそこにいちゃ駄目だと思った。
俺も普通の家に産まれて…
普通に生きてみたかったっ…………。」
絞り出したかの声でそう言うと同時に
両目から涙が溢れた。
俺も随分と涙脆くなったなと
調子の外れたことを感じる暇もなく
凛央さんは俺を抱きしめてくれた。
あったかかった。
陽の光みたいだと思った。
その光に伴う心地よい陽だまりのような人肌の熱は、長い年月をかけて凍てついていった俺の心の臓を溶かした。悲しみや怒りが擦り切れ、枯れていたはずの涙を湧かせた。
「あっ……ああ゙っ…………ああああ゙ああ゙あ゙
あ゙ああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!!」
涙腺が馬鹿になっているのか、凛央さんの優しさに当てられているのか、それが分からなくなってくるくらい泣いた。
さっきの飯屋の時よりも大声を上げた。
でも凛央さんは、俺を泣かせてくれた。
「…のりおは…
…ずっとずっと我慢してきたんだね……。」
息をつくかのような
甘くて優しくて柔らかい
女神の囁きだった。
「あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙っ!! あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」
俺は夢中で首を縦に振った。
「めしもぉ…!! 塵みてぇなもんしか食わしてもらえなかったし…! 弱音も…!!
ずっと吐けずに溜め込んでたっ!!!
もう…しんどかったっっ…!!!!」
「…辛かった?」
「ああっ!」
「痛かった?」
「あ゙あ゙あ゙っ…!」
「苦しかった?」
「あ゙あ゙っ……っっっ………ゔんっ……!!」
「そっか。…寂しかったね……。」
「ああっあっ……ゔんっっ…!!!」
凛央さんの両脇の下に手を通して
凛央さんを抱きしめ、胸に顔を埋めた。
凛央さんは俺の首元に手を巻いて
さらに強く俺を抱きしめてくれた。
それがたまらなく嬉しかった。
「俺も……平等に扱って欲しかった…。
髪の色がなんなんだよ……。
どいつもこいつも……。
そんなもんで俺を区別するんじゃねぇよ…」
凛央さんはそれを聞くなり
俺の髪に視線を流し、俺を見つめてきた。
「…髪…………?」
「母親も歴代の神主も白髪だったし…
妹もそうだった…。
あそこの家は…血が狂ってるんだよ……。」
「は…?…え…?…いやまさか………」
凛央さんのみぞおちが大きく上下した。
「気付いてたと思ってたけどよ…。
生まれつきなんだ…。この髪…。」
俺は自分の髪を撫でつけた。
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