第15話 傷と痣

ー鮮やか。それでいて艶やかな赤い髪ー



一糸纏わぬ姿で全身に水滴を纏った

凛央さんは非常に色っぽかった。



さっきもここで体を洗って風呂に浸かった

はずなのに、凛央さんが居るだけでまるで別空間かのように緊張させられる。

心臓が高鳴るし、何より股間が疼く。


「頭洗ったげるね。」

「うん。ありがとう。」


こうして俺は頭を洗ってもらった。

彼女の細長い指が手櫛の要領で俺の髪をほぐしていく感覚は至極であり、絶妙に心地良い。

誰かと一緒に風呂に入ったことはなかったし

誰かに頭を洗ってもらうのは初めだった。 

「あがったらピノ食べよっか。」

……ぴの………?


…ひとまずは頷いておこう。

「おう。」


にしても…

さっきから背中にちょくちょく当たる

凛央さんの胸が俺の色欲を掻き立てる…///

いや、正確には当たるのは彼女の胸の突起。

すなわち……彼女の乳首だが……///



いかん/// こういうことを考えるな……///



やがて凛央さんが俺の髪の泡を流し終えて

「はいっ。おしまい。」

と言った後



「…え……?」


と、いきなり凛央さんが絶句した。




「ど、どうした?」

いきなりのことで焦った俺と、

目を見開いて鏡を凝視する凛央さん。



「アンタ…その傷と痣……なに……?」



凛央さんは俺の方に向き直り

俺の上半身を中心に無数についた

傷や痣を撫でてきた。


その顔にはいつにない真剣さが含まれている。


俺は焦った。

虚偽ではないが


俺が親に殴られてきたのがばれてしまう。


そうしたら

凛央さんは俺を警察に届けるかもしれない。



虐待を疑って。


そうしたら、凛央さんと一緒には居られなくなるかもしれないと、直感的に感じた。


「あぁ…これな…。」

俺はできるだけ明るい声色で言った。


「俺…剣道しててさ。

よく木刀で打ち込み合いをすんだよ。」

これも虚偽ではなかった。 


親父にやらされていた剣道。

俺の剣道の腕前がどの程度か。

腕比べの経験が乏しいため詳しいことは

わからないが、相当なものだという自負はある。


というのも、上達方法が一切容赦のない親父にひたすら木刀で打ち込んでいくという極めて過酷なものだかったからだ。

親父は持っている木刀で容赦なく俺を殴ってくるし、時には真剣を向けられたこともあった。

痣は木刀、傷は真剣によるものだ。


「雑魚すぎる。」

「阿呆が。真面目にやれ。」

そんな言葉が耳に蘇る。

思わず怒りで手を握りしめていた。


真面目にやったって…

てめぇには勝てなかったよ………。



「……本当に…?」

凛央さんは引き下がらない。

俺の傷の具合が相当なのは明らかだったからだろう。

これまで誰かに上裸を晒すことなんか

無かったため、完全に油断をしていた。 


「おう。本当だよ。心配させてごめんな。」


すると凛央さんはやっと

向けていた疑惑の目を心配の目に変えてくれた。


「……痛むようやったら言いよ?」

「うん。 わかった。」



ふう…。なんとか首の皮が一枚繋がった…。

ぎりぎりせーふと言うやつだ。









ざぱぁーんーー


「んー。あったかぁーい…。」

そんな問答をしているうちに凛央さんは全身を洗い終えていたようで、一緒に風呂に浸かった。

足を広げて湯船に浸かった凛央さんの、広げた足の間に収まるようにして座る俺。浴槽を狭く使っているが、その分凛央さんが近くに感じられる。後ろから頭を撫でられるのも、気持ちよかった。


お互いがのぼせるまで

この時間が続いてほしい。


「のりお。」

「ん?」

俺は後ろを向いた。

凛央さんが俺をじっと見つめている。



「ヤな質問してもいい?」

なんだか嫌な予感がした。


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