第8話 決勝戦

決勝は、嵐山高校だった。「嵐山って前回準優勝だったところだよな。」と雄大が俺に聞いてくる。「そうだよ、確か力強いスマッシュが部の売りだ。なるべく当たりたくはなかったんだけど。」俺は苦笑いをしながら雄大に言った。「まぁ、俺たちは俺たちのプレーをするしかないでしょ!」と笑いながら言う。俺は内心「こいつがいるから、俺はキャプテンとしてできるんだろうな。」と感謝していた。この大会で最後の挨拶だ「よろしくおねがいします!」会場に響く俺たちの声がとても嬉しかった。

最後の試合だ、絶対に勝ってやる

 決勝戦、俺は第五試合のシングルス。ここまで両校合わせて二対二。つまり俺たちの試合で結果が決まる。決まるんだが、「相手がこいつとは運が悪いな。」嵐山のキャプテンで嵐山の中でも最強と言われる人物。「合田良太」俺は「よりにもよって一番相性悪い奴が来たよ。」と思っていた。合田は俺に向かって「よぅ、芹沢久しぶりだな。まさかお前とこの場所で会えるとは思わなかったよ。というかまだやってたんだなぁ弱いくせに」とくすくす笑いながら言う。そう、俺と合田は会ったことがある。合田は小二まで俺が住んでいる街にいたのでむしろ仲がいい方だった。だけどあいつが、引っ越す直前に俺たちは大喧嘩をした。そこから俺達の仲は悪い。合田の言葉にイラっとしたので俺も負けずに「お前もまさかやっていると思わなかったよ。卓球部じゃなくて別の部に入ればよかったんじゃないか?」と言い返す。負けたら終わりのデスゲームやってやろうじゃないか。俺はそう思いながらコートに入った。

 試合が始まり、セットスコアは二対一で合田の方が勝っている。はっきり言ってとてもむかつく。まじで、こいつのプレースタイルむかつく。鬼ごっこじゃないんだよ。合田のプレースタイルは、どんどん攻めるタイプでもなく俺みたいに守ってミスを誘い出すタイプでもなかった。全く別のプレースタイル。昔は、どんどん攻めるスタイルだったのに変わったのか。そう思いながらラリーを繰り返す。だけど俺も負けたくはない。そこから俺は一セットをとり、二セット目も終盤になっていた。お互い、連戦で体力も集中力もなくなっていく、しかもこんな長いラリーをする。正直言ってかなりきつい。でもここまで来たんだ。絶対に勝って笑顔で終わる。だったら、「あれ」を使うしかないかそう思った。サーブ権が俺に回ってきたとき俺のプレースタイルは変わった「攻撃的な卓球」本選が始まるギリギリまで練習していた。でも、ここまで疲れた状態ではやったことがない。出来るかどうかは分からない。だけどやってみるしかない。ゲームのスコアは十対八。「ふぅー」しっかりと深呼吸をして、サーブを打つ。そのボールはあの予選で使った時よりも、回転がかかっていた。「やばい、コースがギリギリアウトか?」そう思ったが相手の方にはぎりぎり入ってくれた。さすがの合田もそれには驚いたようで、目を点にしていた。俺は「よしっ!」と思わず言ってしまった。そして二対二で迎えた最終セット。さっきのプレーを見た合田もギアが一つ上がったらしく、さっきよりも速いボールのラリーが始まったのだ。四対五、六対七、十対十、十一対十。差が全然縮まらなかった。お互いの体力もあまりない中での延長戦。こんなの初めてだ。

きっともう体力なんてないのだろう。でも両者の「絶対に勝つ。」という意志がここまでの延長戦を作っている。十六対十五。「あと一点で勝てる。」そう何度思ったのだろう。でもここで決めないと俺の体力も限界だ。サーブ権はこっちにある。「行ける、勝てる。」そう思った。「あれ?」ふと、ボールを持つ自分の手を見ると、手が震えている。周りの応援がうるさい。こんなことを思ったのは初めてだ。いつも嬉しいとか頑張ろうと思える応援がこんなに邪魔だと思った事はない。きっともう体は限界なのだろう。いつもは出来る集中が出来ない。「しっかりしろ、俺はキャプテンだろ。」そう自分に言い聞かせる。だけどどんどん応援はうるさく感じてしまう。「ああもう全てが邪魔だ。」そう考えていると、「隼人、頑張れー負けるなよー」と柚葉の声が聞こえる。ああ、そうだここには柚葉がいる。あいつの前で負けたところなんて見せたくない。そのすぐ後に、「キャプテンとかそんなことは考えんな。いつもの自分で戦え!」と飯塚の声が聞こえる。そうだ、俺は一人じゃない。みんなの思いを背負ってここにいる。だけど、ここだったらめんどくさいキャプテンとかの称号も捨てられる。ただ一人の「芹沢隼人」として挑むことが出来るだったら、いつもみたいに練習でやったことをそのまんま本番でやるだけだ。

俺はいったい何を難しく考えていたのだろう。

「ふー」俺はいつもみたいに深呼吸をして、サーブを打った。それはこの短期間で練習した「攻撃的なサーブじゃない」俺が今までずっと培ってきたものを一思いに込めてサーブを打った。案の定、合田はそれを返してくる。だけどそれでいいんだ。それが目的なんだから。相手が戻る数秒、そこだけはきっと相手の場所じゃなくて俺の場所。俺はボールだけを見つめてそのボールに向かってスマッシュを打った。合田はそれに反応することが出来なかった。俺の打ったボールは相手の方のネットに行って跳ね返り、そして床に落ちた。

その時、大歓声が上がって部員もみんな出てきて、やっと自分が勝ったことが分かった。皆泣いていて俺も少し泣いた。授賞式でトロフィーを受け取った時、やっと優勝できたと実感した。その後、応援してくれていた人全員に部員一同「ありがとうございました!」と礼をした。俺は柚葉に向かってトロフィーを見せた。柚葉はとても笑顔だった。


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