第7話 高校選抜開始

三月、ついに全国大会が始まった。会場に着いた部員たちは緊張しているようだった。あの雄大さえ緊張しているように見えた。まぁ俺も緊張していないって言ったらうそになる。予選リーグを一位で突破した俺たちは、決勝トーナメントに向けて早速作戦会議を始める。一回戦の相手は山西学園。俺達と一緒で今回が初出場らしい。というより今回の大会は例年よりも初出場の学校が多いらしいと聞いた。ということは、俺らくらい緊張している人たちが沢山いるってことか。そう聞くとなんだか少し緊張が和らいだ気がした。

俺の初戦の相手は川西誠也という気弱そうな一年生だった。こっちが大丈夫かと心配になる暗い緊張していた。そんな時だった。「隼人、頑張れ!」と柚葉の声が聞こえた。驚いて観客席の方を見渡すと、なぜか柚葉がいた。さすがバトミントン部。応援の熱量がすごい。いや、違うそうじゃない。メールしたら行けないって言ってたじゃないかと思っていた。ふと、後ろを見るとにやにやしている雄大がいた。犯人はお前か、雄大。と内心イライラして怒こりたかった。が、試合前に、それに好きな女にそんな醜態はみせられないので集中して試合に臨むことにした。一回戦の対戦相手は清雅国際高校。俺達と同じく今回が初めての全国大会らしい。

 俺の相手は、一年生の選手だった。見るからに緊張している。だけど、一年生だからとなめて考えると痛い目を見るというのは、葛西高校と戦った時に体験している。ましてやここは全国大会だ。普通の大会とは違う・相手のチームだって、一番できる人をチームのメンバーとして入れるだろう。だから、この一年生只者じゃない。

 最初のサーブは、俺だった。「ふぅー」と深呼吸をしていつものようにサーブを打つ。「中々いいコースに行った!」サーブが左サイドの所に弾んでサービスエースをとれたと思った。だけど次の瞬間、飛んでもなく速いボールが俺の真横を通って、ボールが床に落ちる音がする。「え?」今まで対戦してきたどんな選手よりも速いボールだった。黒川だって、葛西高校の一年だってあんなボールは打てなかった。相手の名前をよく見ると、見たことのある名前だった。「吉澤冬弥」一年生で色々な大会で優勝していて日本代表入りも期待されている選手だ。前、テレビで見た時普段は気弱な感じだけど試合になると人格が変わったのではないかと言われるくらいのプレーをする選手だったって言ってたな。そりゃ、あんな速いボールを打てるわけだ」しかしどうする。このままだと、間違いなく相手のペースに飲み込まれて負ける。さすが、決勝トーナメントに出るチームは話が違うな。俺は心のどこかにある熱い闘志を燃やしていた。


 一セット目、二セット目は、吉澤が取って

現在は三セット目。ここから一セットでもとられたら負ける。だけど、この二セットを通して吉澤の弱点が見えた気がする。吉澤は、速いボールと力のこもった強いスマッシュを得意とする選手だ。おそらくタイプ的には、黒川のプレースタイルに似ているだろう。だけど威力は黒川よりも凄い。そういうタイプの選手は、大体一球で決めてくるから、持久戦が苦手だ。「だったら、持久戦に持ち込んでみるか。」段々と吉澤の球筋も見えてきた。ゲームスコアは六対三、サーブ権は吉澤。相手のボールがこっちのコートに来る。それをネット際近くに返す。吉澤は返してきていたが、フォームを乱していた。でも、ここでスマッシュを打ったらすぐに返してきていそうな予感がしたので「あえて、ぎりぎりの場所に打つ。」より速くぎりぎりの場所に返す。

相手のフォームを乱してどんどんイラつかせる方法で段々とラリーを繰り返しているうちに吉澤がどんどん焦っている様子になっていた。「やっぱり、持久戦が苦手みたいだな。だけど俺もそろそろ決めたいから、ここしかない。再びネット際にボールを返す。吉澤がボールを返す。そのボールはとても俺がスマッシュをうつにはとても十分な球だった。思いっきり力を込めてスマッシュを打った。吉澤のラケットにかすかに当たっていたが、俺のコートには返ってこなかった。だけどその瞬間、吉澤が「うっ!」と声をだしてその場にうずくまった。どうやら足をひねったみたいだ。すぐに相手のチームの監督がタイムアウトを審判に申請した。監督と吉澤が話し合う。「でも、俺は…」、「お前のためだ…」そんなことがかすかに俺の耳元に聞こえてきた。そして、相手チームの監督が審判と話をした後、審判が「第四試合は清雅国際高校が試合を棄権したため、東英高校の勝利とします。」と言った。「え?」さっき吉澤と監督が話していたのは、今後の試合のことについてだろう。確かに日本代表入りも期待されている選手がこの後無理にでも試合を続けたらどうなるか分からない。大した怪我でもないと思っているといずれ選手生命に響く怪我になっているかもしれない。きっと今回の判断は正しいのだろう。そう考えていると、足を引きづりながら吉澤が俺に話しかけてきた。「お前がネット際にばかり打つからこんなことになったんだ。この怪我はお前のせいだ。」そう吐き捨てるように言って試合会場を去っていった。

それを言われて、俺は心のどこかにあった闘志が消えていった気がした。「怪我をしたのは俺のせいか…」確かにそうだ。あの時スマッシュを打ったのは間違いなく俺でそれを返すために吉澤は体勢を崩した。吉澤が言うことは間違っていない。「俺が悪かったのか…」飯塚の怪我をした瞬間が何度でも頭の中で思い出される。今まで見たことのない飯塚の顔。焦る俺達部員。きっと今の清雅国際はあの時の俺達と一緒の状況だろう。一番のエースを失ったんだ。「俺のせいで、あの時と一緒の状況を生み出してしまった…いくら試合のためとはいえ怪我をする可能性があるプレーなんてしなきゃよかったんだ。」そう一人でぶつぶつと言っていると、雄大が俺に話しかけてくる。「おい、お前大丈夫か?今までにないくらい死んだような顔してるぞ。」「え?」「何があったかは監督から聞いた。あれはお前のせいじゃない。お前は悪くないから大丈夫だ。」

「でも、俺があんなプレーしなきゃ。もし、吉澤の怪我が大変だったらどうすんだよ。」

「だったら、敵だけど吉澤の分まで勝たなきゃだめだろ!ちなみに俺は勝った。」とどや顔で言われた。そんな雄大を見て俺は少し笑って

「そうだな、あいつの分まで勝たないとな。」

「あ、ちなみにさっき俺が勝ったから俺達準々決勝いけるぞ。」

「それを早く言えよ。」と雄大に突っ込むように言った。

そこからの俺たちは波に乗ったように試合にどんどん勝っていった。準々決勝は、俺は出場せず雄大たちが頑張ってくれたおかげで準決勝に進出することが出来た。準決勝も、俺と雄大のダブルスの試合で決勝進出が決まり、ついに決勝を迎えた。

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