第5話 決勝戦

 決勝戦の相手は葛西高校、毎年決勝に出ている高校でいわゆる強豪校だ。

決勝では第三試合で俺と雄大のダブルスで出場した。第一試合、第二試合は一年の風見と俺と一緒のクラスの森谷が頑張ってくれて二試合とも勝っていた。この試合を俺たちが勝つことができれば、全国に行ける。逆に葛西高校からしたらこの試合を落とせばその時点で負けが確定する。だから俺たち二人はきっと相手は強い奴なんだろうなぁと思っていたらまさかの相手は一年生だった。多分葛西高校は初めて決勝に出た俺たちに早々負けるはずがないと思っていたのだろう。だからダブルスは一年生に託した。その一年生はというと二人とも少し緊張しているように見えた。確かに決勝、しかもこれに負けたらこっちは負けるという状況だ。俺がもしあの状況だったらきっと同じような反応をすると思う。だがプレーは一年生とは思えない位上手かった。

さっき戦った黒川ほどではないがそれでも十分強い。さすが強豪校と言ったところだ。でも、こっちも負けるわけにはいかない。だが、相手が緊張しているというのもあったのだろう。試合の流れはこっちにきていた。すると相手チームの監督がタイムアウトを取る。

「せっかくいいところだったのに何でタイム取るかなー」と雄大が文句を言っていた。

俺が水を飲みながら「流れがこっちに来ているんだからタイム取るのは当たり前だろ。」というと「そうだけどさー」と雄大はまだ文句を言っている。

俺はため息をつきながら「そんなことよりも、流れが切られたし。相手は何かしら対策を取ってくる。俺達も作戦を立てないと。」そういうと雄大はさっきの顔とは打って変わり真剣な顔になった。今のセットスコアは2-1でこちらが勝っている。だけど少しでも油断してミスをすれば流れは相手に渡ってしまう。

そうならないように、この短いタイムアウト中に新しい作戦を立てなければいけない。多分この時間で俺たちのことは完全に対策されると考えてきた方が現実的だ。でも、どうすればそれを突破出来るんだ。そう考えていると、雄大が俺にある提案をしてきた。

「なぁ、俺とお前のプレースタイル交換してみないか?」

「は?何言ってんだ?」

「お前の守りのプレーと俺の攻めるプレーを交換すれば相手もきっと驚くと思うんだよ。」

確かに俺はある意味守りに重点を置くプレーをする。でも雄大は攻撃に重点を置くプレーをする。だからその正反対のプレーをする俺たちがダブルスに選ばれることは多い。そのプレーをあえて変えることで、相手は俺たちがプレーを変えないと思い込んでいるからそれ用に作戦を立てているかもしれない。でももし違っていたら?相手がそのことも考えて対策してきたらどうする?

「でもそんなことできるのか?そんなの全く練習したことないじゃんか。」

そう聞くと雄大は笑いながら

「俺はお前のプレーを一番近くで誰よりも見てきた。それでお前は俺のプレーを誰よりも見てるって思ってる。だからやろう。」その言葉を聞いて俺はなんだかできる気がした。一回もやったことのない作戦。だけど、雄大の言う通り、俺はあいつのプレーを誰よりも見てきていたという自信がある。練習、試合どんな時でも隣にあいつがいた。そんなあいつが俺を信じてくれているのなら、俺はあいつの期待に応えなきゃいけない。そう思った。「わかった。やろう。」俺がそう雄大に答えたと同時にタイムアウトの時間が終了した。俺はふと、昔やっていたある事をやろうと思って雄大に話しかける。「雄大、やるぞ。」と言って拳を出した。雄大は、一瞬驚いた顔をしていたがすぐにいつもの顔に戻って「おう!」と俺の拳に自分の拳を合わせて来た。昔、大会の試合で必ずなっていた「拳合わせ」いつからやり始めてたのかも、いつからやらなくなったのかもわからない。だけど今の俺達には必要なことだ。

試合の流れはまだ渡さない。

 試合が再開すると、相手の動き方が明らかに違った。「やっぱり俺達のプレースタイルに合わせて対策してきたか。」そう思った。でも俺達も負けるわけにはいかない。今はこっちが七点で相手が三点で点数差は四点。まだ流れはこっちにあるが、いつあっちに流れが渡るか分からない。幸いサーブ権はこっちにある。きっとすぐには対応できないはずだ。「一本、一本丁寧に落ち着いて打つ。」心の中でそう思いながら、俺は普段雄大が打っているサーブを打った。相手はそれを返そうとするがラケットにボールは当たっても俺たちの所に跳ね返ってくることはなかった。俺が打てる雄大のサーブは黒川ほどすごく早くそして強いサーブでもない。だけど、その分雄大のサーブは回転力がある。しかも雄大はその回転力を生かしたサーブを沢山持っている。いつも相手をするのが大変なくらいだ。相手にサーブ権が移ると雄大の番だ。相手が打ったサーブが雄大のもとに来るそのボールを雄大は相手のネットぎりぎりの場所に返した。正直、驚いた。こんなに俺のプレースタイルを、フォームを完璧にまねするなんてしかもあの技は俺が大会の試合では一回も使ったことのない返しかただった。練習の相手として雄大には見てもらっていたがそれも二、三回だ。相手の選手も驚いて何も言えない様子だった。そりゃあそうだろう、だって仲間である俺でさえも驚いているんだから。そんなすごい技を打った張本人は「俺ってやっぱ今日の俺ついてるー絶対入んないと思ったもん」と能天気なことを言っていた。だったら何で使ったんだろう…と突っ込みたくなったがとりあえず相手をビビらせることは出来たし見なかったことにしようと思った。だけど、相手も俺たちのプレースタイルが変わったことについて反応することが出来始めていた。そのせいで試合の流れが少しずつ傾き始めていて、いつのまにか点数差は二点差だった。スコアは、俺たちが十点で相手が八点。あと一点取れば、俺たちは勝てるけど油断はできない。ここからは、一回のミスも許されない。俺も雄大に負けないようにしないとと思いながら、ラケットを構えた。相手の強烈なサーブが来る。きっとこの試合の中で一番のサーブだ。俺はそのボールをありったけの力を込めて、黒川の時よりも力を込めて、ボールを打った。打ったボールは相手はそのボールを打とうとしていたが、その前に相手のコートのサイドラインぎりぎりのところに跳ね返り、ボールが床に落ちた。その瞬間、俺たちが全国へ行けることが決まった。「ありがとうございました」相手チームに礼をした後、俺たちのチームは一気に歓声が上がった。

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