第3話 地獄の日々

十月、代理のキャプテンになってから三ヶ月。

俺は未だにキャプテンとして自信が無かった。顧問も監督も「芹沢はちゃんと部をまとめられているよ。」と慰めの言葉をくれるがどんどん部の雰囲気は悪くなっているのがわかる。こういう時、飯塚ならどうしただろうかとつい自分と飯塚を比べてしまう。「はぁー」とため息をついていると

「今日でため息つくの何回目?もう少し気楽に過ごしたら?」と柚葉が声をかけてくる。「そうは言うけどさ、やっぱり飯塚の方がすごいよ。俺みたいに部の雰囲気悪くしないしさ。」「でも急に決まったことだししょうがないよ。それに隼人には隼人の良さがあると思うけどな。」「そんなことないよ。」とそんな話をしていると「隼人、そろそろ部活行こうぜ。」と部員の一人で俺と柚葉の幼馴染でもある佐藤雄大が声をかけてきた。

「おう、すぐ行く。じゃあな、柚葉!」と手を振りながら言うと

「うん、また明日ね隼人!」と手を振り返してくれた。

柚葉と別れた後、雄大が「お前、いつ柚葉に告るの?」「は?」と唐突に聞いてきた。「だって、小さいころからずっと好きならそろそろ告ればいいじゃん。ずっとこのままだと、他の男と付き合うかもよ?」

「もし、柚葉に告ったとして振られたら気まずいだろ。幼馴染なんだし。というか好きになったらすぐに告白して高校入ってから20人以上振られてるお前にだけは言われたくない。」と言い返す。

だけど雄大は「でも顔赤くなってるぞ。告るなら早めにしろよ。」と言いながら一緒に部室に向かった。

部室に行くと、久しぶりに松葉杖をついている飯塚に会った。

「お、芹沢と佐藤じゃん!久しぶり」

「お、おう久しぶりだな。怪我の状態はどうだ?」

「いやぁーあの後、手術することになってさー今はリハビリ中だよ。というか芹沢、俺の代わりにキャプテンになったって聞いたよ。俺が怪我したせいで悪いな」と飯塚は苦笑いをしていた。いつもの飯塚のように見えたが、俺には何となくいつもの飯塚じゃないという違和感があった。それから、飯塚は見学という形で部活に参加していた。皆、部の雰囲気がただでさえ悪いのに飯塚が参加してきたことで飯塚に対して気まずさを感じていた。

 そんな日々が続いていたある日、俺は顧問に説教をされていた。「芹沢、もう少しキャプテンの自覚を持て、飯塚だったらこんなことにはなってないぞ!」きっかけは些細なことだった。部員の何人かが部活を無断欠席して外で遊んでいたというものだった。顧問はそういうことには厳しいので、結果的に当人だけでなくキャプテンである俺まで怒られてしまった。でも俺は顧問に何も言えなかった。だってその部員たちは飯塚がキャプテンの時は部活にも積極的に参加していてとても楽しんでいるように見えていたから。そこに丁度、飯塚が入ってきて「先生、芹沢も俺の代わりに頑張ってやっているとおもうのであまり強く言わないであげてください。」と顧問に言った。飯塚が顧問に言ったことで説教はすぐに終わった。飯塚が俺に対して、

「大丈夫か?先生もあんなに言わなくてもいいのにな。」と俺を慰めるように言ってくる。その言葉を聞いた時、俺の何かが切れた。

「お前が怪我なんかしなければ、こんなことにはなってない。」

「え?」

飯塚は俺にそんなことを言われると思ってはなかったらしく、とても驚いた顔をしていた。その反応に対してさらにむかついた俺は

「お前が、怪我なんかしたせいでやりたくもないキャプテンをやることになったんだよ。それに部の雰囲気がこんなに悪いのも、みんながお前に気を使ってるのが分かんないのかよ。」

それに対して飯塚も俺の服を掴んで負けずに言い返してくる。

「俺だって怪我なんかしたくなかったよ!でもしょうがないだろ!」

そう俺たち二人が言い合いをしていると、雄大が間に入ってきて

「お前らいい加減落ち着けよ!後輩たちも見てるだろ!」

そういって俺たちの頬を一発ずつ殴った。騒ぎを聞きつけた顧問がこっちにきて俺たちは再び叱られることになった。


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