第6話想いを思う時

 ふたりで過ごす時間が増えて行くなかで、君への愛情をちゃんと伝えてきただろうか。甘い言葉もろくに言えなかったし、具体的な約束も未来予想図もなかった。君は不安を訴えることも、何かを要求することもなかった。

 僕は周りから注がれる愛情を重く感じたり、恵まれた環境を揶揄やれたりもしてたから「愛情」にナーバスになっていた。君はすでに必要以上に傷ついていて、優しい言葉も甘い約束も、未来さえも信用していなかった。そんな、ふたりの温度差 は大きくはなく、ふたりでいる空間は僕をとても楽にしてくれていた。お互いの誕生日はふたりでささやかにお祝いしたけど、特別な何かが、特別な日や記念日とかサプライズなんてふたりにはなくて、お互いただ一緒に居ること、伝わるぬくもりが心地よいこと、別れ際に当たり前に「またね」と言えること、そんな目には見えないものを信じていて、そんな毎日が続くだけで良かったんだ。本を読む僕のそばにちょこんと座りコーヒーを淹れてくれる君が可愛くも思えたし、「星がきれい」とか「金木犀が香るね」と君と歩くといつもの道もいつも違う表情を見せてくれて、僕は君と歩くことが楽しみになっていたよ。

 だけど、「想う」と「思う」とがあって。(辞書的には、頭や心で考えるのが「思う」で、より感情をこめたのが「想う」らしい。)

 君への「想い」は確かにあった。君を幸せにしたい…もちろん、で幸せにになりたいと思ってもいた。

 いつからだろう…ふたりがそれだけでいいと思うことも周囲から見れば違和感とか不安の種にしか見えなくて。見守られ、祝福されるふたりではなく、ふたりだけのことで済まされないことがあるってことが見え隠れするようになっていた。そして、僕は思いあぐねてしまった。

 周りの思いを全て絶ちきって君と居ることを選んだとして…最期まで君を守り通すことができるだろうか?君の不安を解消できるだけの愛情を注ぎ続けることができるのだろうか?付随するであろう疎外感みたいなものに耐える勇気があるのだろうか?そして…こんなことを思いあぐねている僕と居て、君は幸せを感じてくれるのだろうか…。


 少年の頃から繰り返し聴いてきた唄の歌詞のように、憧れていたアーティストが叫んでいたように、なぜ「君を守りたい」と言えないんだ…あの夜、「守りたい」と誓ったじゃないか…。


 あんなにも重く感じていたものを絶ちきれないなんて…。今すぐ君の手をとり「ずっと一緒に居よう」と言えないなんて…なんて情けない男なんだろう。僕は…ただ、恵まれてることに甘えていただけなんだろうね。愛情が重いとか言っていたって、こうして君と居ることとその愛情を天秤にかけるようなことをしているんだから。君の真実ほんとうの寂しさや、深い孤独と、今まで闘ってきた芯の強さを垣間見た気もした。


 君と会わなくなって、だいぶ月日が流れたけど…未だ自分を苛むしかできない僕を、君は許してくれているだろうか。許しを乞うてるわけじゃない。君の中で僕がわだかまりと化してほしくないと思っているんだ。それが君の為だと思っているから。

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