第5話愛のあとさき

 最初から気がついてはいたんだ。あなたと私は違い過ぎていた。生まれおちた環境も注がれてきた愛情も、どれをとってみても、私にはまぶしく見えた。あなたはそれをひけらかすこともなく、逆に重く感じて抗っていたから、私も見ないふりができた。

 あなたとの時間のなかの何気ない言葉やぬくもりは私をあたため安心させた。

 今日は大丈夫、明日もきっと大丈夫と毎日を紡いでいた。一緒に笑ったり、たまにケンカして仲なおりして、散歩をしたり、ご飯を作ったり…そんな、ありふれた日々が続くだけでよかった。いびつなピースはピタッと合わなくても、隣にいるだけでよかった。だけど…神様とあなたのバックグラウンドは『今までの私』を許そうとはしなかった。黙過することもできないらしい。

 ふたりで居る風景はあまりにも稚拙で不安にしか見えないらしい。『今までの私』を私にはどうにもできない。

「またか…仕方ないか」と言いながらも、また、神様を恨んだ。


 私は「愛」と言う無防備な言葉を信用していなかった。お互いの関係性に「愛」があるはずの恋人同士や親子間でのDVや殺人事件、中には病が原因のものもあるが、そのひとつ、ひとつ、たとえ理不尽な理由であっても、とてもいたましく思う。私はたまたま殺されなかっただけ。たまたま、私を傷つけた人を殺めなかっただけのことでしかない。そんな経験が有ると無いとでは、人生のおもむきが違ってくると思う。裏切られても、また何かを、誰かを信じられたなら、叶うことも増えるだろう。裏切られ「またか…」と何度も繰り返す度に心は疲弊していくばかりで、押してはいけないスイッチが大きく、はっきりと見えてくる。押すか、押さないかの差でしかない。


ただ一緒に居ることを反対される私が、真実ほんとうにあなたを愛し、想い、幸せをを願うのなら、できることはただひとつ。『ふたりでの幸せ』をあきらめることなのかもしれない。でも、もしも、あなたが「ずっと一緒だよ」と言ってくれたなら…初めて「愛」と言う言葉が信じられるのかもしれない。


信じてなんかいなかったけど、ずっと欲しかったものは「無防備でいられる 愛」だったのかもしれない。こんなことを考える夜は、大抵、静かに雨が降っている。哀しみを抱えた人々に寄り添い、一緒に泣いてるかのように。


そんな夜を、あなたは知っている?

言葉に頼らずに、あなたを信じたいと思っていた。

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