第4話愛おしい記憶

 もちろん、初めての恋愛じゃなかった。好きなのかもわからずに恋愛ごっこみたいなこともした。それなりに楽しかったし、それなりに切ない経験もしてきたつもりだった。

 初めて君とふたりだけで過ごした帰り道、『君に触れたい』と思った。欲とか口説く手段とかではなく、ストレートに『君に触れたい』と思った瞬間、僕の掌は君の掌を包んでいた。びっくりして、僕を見上げた君に「酔った勢い…」と言うと笑ってくれたのが嬉しかった。

 君が僕の腕の中に飛び込んで来てくれた夜。抱きしめた君が思ったより小さくて…心が震えたんだ。

 君が小さな声で「ありがとう」と言った。こんな僕に、神に感謝するほど、君は寂しい時を過ごして来たんだ。

 初めて『守りたい』と言う感情を知ったんだ。


 あの夜、君を守ると決めたのに…。


 月が出ているのに音もなく雨が降って来た。見上げると、ぼんやりとした月だ。まるで、君が見せた泣き笑いのようで胸が締めつけられる。


 今夜、君は笑っているのか?傘を差しかけてくれる人はいるのか?

 もう、僕が心配することじゃないか。

 忘れたいのに、忘れられない。

 忘れたいけど、忘れちゃいけないこともあると知った。

 今更か…。

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