変色死体
彼女は緑色に変色した腕と太腿を抱えてそこに立っていた。私は思わずぎょっとした。よくそんな気持ち悪いものを平然と抱えていられるものだ。
「…こうでもしないと、すぐくっつこうとするから」
彼女は困ったように言う。
「くっつくって…?」
「だから、これがすぐに元に戻ろうとするの」
彼女の言葉に戸惑う。なぜ切断された四肢を大事そうに抱えているのか。しかも元に戻る…?ばらばらになった死体が元通りくっついて蘇るなんてありえない。しかも、もうこんなに変色しているのに。
「そんなに難しいこと言ってないわよ」
彼女は心配そうに言った。気づくと、彼女が抱えていた腕の断面が私の方を向いていた。その断面には小さな突起のようなものが無数に生えており、よく見るとそれは蠢いていた。
「うわっ!」
思わずその場にへたり込んでしまった。
「こいつら引っ剥がすのかなり大変だったの。焼いても再生するし、海に沈めても、いつの間にかくっついてるし。しかも再生したら真っ先に私を殺そうとしてくるのよ」
彼女は苦笑いを浮かべた。彼女がなぜ笑っていられるのか私には理解できなかった。何度殺しても死なない生物が、自分を怨み、殺そうとしてくる。それなのに彼女はなぜ平然としていられるのか。
「他の死体は一応海に沈めたから、それがこれとくっつくまでの時間は稼げると思うんだけど」
「…でも、その抱えてる死体同士はなんでくっつかないの?」
私が聞くと彼女は笑った。
「腕と太腿がくっつくわけないでしょ」
「…そうだね」冷静に考えれば確かにおかしな質問だった。「で、他の死体はどの辺の海に捨てたの?」
「まあ、向こうの方かな」
彼女は北を指さしたが、適当そうだった。こんな狂った世界で僕は生きていけるのだろうか。
後味の悪い物語短編集 日下朔クサカサク @kusakasaku
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