第28話 モルガンおじさんの訃報

 アトリエの扉を開けると、見知った顔があった。



「マルクさん?」


「久しぶりだね、スヴニール」



 マルクさんはラフィネさんに珈琲を勧められ、帽子を外すと頭を下げ席についた。

 依頼人というわけではなく僕の客人だからか、ラフィネさんはいつものように話に前のめりにはならない。寧ろ執事のような真似事をしている、それなりに楽しんで。

 マルクさんは気品のあるラフィネさんに見惚れていたけれど、僕が視界に入ると咳払いをして用件を話し出した。



「悲しまないでくれ、というのは難しいだろうな。…実はなスヴニール、モルガンが死んだ」


「…そんな」


「病気はしていなかったんだ。奥さんの墓参りをしていたところ、墓石の前でそのまま……」



モルガンおじさんのあの寂しそうな背中を思い出す。



「そうだったんですね。もう一度会いたかったな」



今頃奥さんにはもう会えているかな。

「それでな」と言って、彼はボロボロで年季の入った鞄の中から一通の手紙と箱を取り出した。



「ここへ来たのはスヴニールにモルガンの訃報を知らせるためというのもそうなんだが、あの人が遺していた手紙にお前とこの店のことが書かれていてな」



渡された手紙に目を通し、気にしていたラフィネさんにも見せる。




『 可愛いスヴニール

 ボンジュール。お前がこれを読んでいるということは、マルクがわしの骨を持ってロン・ドルミールを訪れているんだろう。

 前にもらった手紙の中に、お前のとこの店では生前の本人の依頼しか請け負わないと書かれていたからな。この手紙で依頼をさせてもらいたい。

 わしの骨を使って、何でもいい、何かを作ってほしい。

 頼んだぞ、スヴニール。

                           モルガン・ダルトワ 』




「ほう」



いつもなら目を輝かせて飛びつくところなのに、今日のラフィネさんは随分とあっさり引いた。



「どうだろうスヴニール、ムッシュー・ラフィネ」



仕事を受けるかどうかはラフィネさんが決めることだ。彼に視線で判断をあおぐと、静かに微笑み返された。



「君にきた依頼です。君が決めて構いませんよ」



手紙を持つ手に力がこもる。



「わかりました。お引き受けします」



マルクさんも喜んでくれるかと思ったけど、彼は複雑そうに苦笑していた。

 この辺は宿もないので、ラフィネさんの許可を得てマルクさんを僕の部屋に泊めさせてもらった。

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