Demande 依頼

第27話 パルルとシエル

 ここ数日は動物の骨で作品を作る日々が続いていた。

 セルメントからもらった彫刻刀を使って細かい模様を彫っていると、二日まるまるアトリエにこもることも多々あった。夜になると小さな音にいちいち驚かされたけど、それもラフィネさんが隣で作業していれば慣れてくるものだ。

 今日も朝から作業していると「スヴニール君、お客さんですよ」とカウンターから声が聞こえて一旦手を止める。

 我ながらいい出来だ。

 先日パトリシアさんに連れられて店へやって来たシャルロットからチョコレートをもらったので、来月お返し出来るようにと額縁を作っていた。彼女の好きだという動物を沢山彫って、その先頭にシャルロットを模した少女も彫ってみた。

 この額縁を作るにあたり初めて教えてもらったことがある。



『先生、額縁を作るには骨が足りないのですが』


『大きな作品を手掛ける時には白樺の木や、この貝殻の粉末を混ぜて全体量を増やします』



ラフィネさんは作業中の作品から目を逸らすことなく指さした。



『棚や椅子などは白樺の木材で作った上に骨粉を混ぜた白い絵の具を塗ったりするんですよ』



言われた通り貝殻の粉末を使うことにしたのだけれど、指の先にあったそれが大きな壺の中に入っていてその凄まじい量に驚いた。



『山々に囲まれた国なのに、貝なんてどこから調達して来ているのですか』


『店にトルソーがあるでしょう?。あれはパルルとシエルという海の向こうからいらした可愛らしい依頼人と取引したもので、貝殻の仕入れ先は彼女たちに紹介・仲介して頂いたんです』



話によると二人の少女は互いの骨を合わせて作ったトルソーに素敵な洋服をかけてほしいと先生に頼んだそう。先生は珍しい客人であることに頭を巡らせ思案した結果、お金の代わりに海の向こうにある店との交渉と仲介を彼女たちへ提案したという。



『お二人は病気か何かだったのですか?』


『元気なお嬢さんたちでしたよ。ただ…』



若い女性二人で店を営むのには限界があったらしい。この国と同じ、あるいはそれ以上に男女差別の顕著な国なら尚更。男性と同じように働く二人をよく思わない人間は男女問わず多かったことだろう。これまで嫌がらせも散々受けてきて、もう疲れてしまったと話していたそう。

 大好きな洋服づくりが出来なくなるくらいならいっそ死んでしまおうと考えて、風の噂で聞いたというこの店まで捨て身でやって来たのだと言う。



『先生は何も?』


『言えば何か変わったんですか』



彼女たちの意思、価値観は確固としたものだったと話す。



『変わったとして、その結果が彼女たちの望まないものだった時、私はその責任を取ることが出来ません』



今まで出会ってきた大人は「話せばわかってもらえる」「説得することが大事だ」と僕に教えた。だけどこの人はそういった考え方とは異なる視点から話しているようだ。それに、自分のその考えを僕に押しつけることはしない。



『ま、私的には良いお話でしたから断る理由もありません。どのような考えを持っている方であろうと、私の知ったことではありませんから』


『もう一回牢獄に入った方がいいと思いますよ』



でも先生の言っていること、わからなくもなかった。

 話せばわかるという考えを持ちながら、僕自身は誰かに説得されても一度決めたことは大抵譲らない性格だ。矛盾していた自分の考え方に、ラフィネさんの話を聞いていて気づかされた。

 そんなラフィネさんとも軽口を叩けるくらいには気心知れた仲になっていた。考えの違いによく喧嘩もするけど、作品の話やそれに関することとなればお互いに話が止まらなくなった。良いと思うデザインやセンスが僕は彼と似ているらしい。



「はーい、今行きます」

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