第14話 ジャンティの願い

 ジャンティはふと頭に浮かんだ名案をラフィネに話す。



『ねえ僕の骨も作品にしてもらえないかな』



死んで骨となっても尚、妻を傍で見守りたいという彼の願いにラフィネは応えた。

そのままアトリエでどんな形や大きさの作品にするか、模様は葡萄がいいなどと長時間の相談を受けた。

 全てが決まり安心しきったジャンティが元気よく手を振りながら帰路を辿るのを見送ってから一月もしないうちに、彼の訃報が届いた。

 ジャンティの妻は、自分が死んだらラフィネに骨を届けてほしいという旨の夫からの手紙通り、ラフィネの住む屋敷へ夫と共に足を運んだ。

 ラフィネは生前ジャンティに頼まれていた通り、彼の骨を使って一つの精巧な作品を仕上げる。



『ヴィーニュさん、これはジャンティから頼まれていた代物です。受け取ってください』



彼女に完成した小さな指輪を渡す。



『ジャンティの左手薬指を加工して作りました。彼は私に葡萄の彫刻をあしらってほしいと仰ってました。…貴女の名前が〝ヴィーニュ《葡萄》〟だったからなんですね』



毅然とした振る舞いでそれを自分の薬指にはめる彼女。



『婚約した時もお金がなくて。彼、指輪を渡せなかったことずっと気にしていたんですね。私は…私は彼さえいれば、よかったのに』



段々小さくなって消え入りそうな声が震え、泣き声に変わっていった。

 ラフィネは死に対する価値観が人とは異なり、何故彼女が頽れるほど泣き悲しんでいるのか理解出来なかった。



『あの、これ』



ヴィーニュから手渡されたジャンティの手紙には愛する妻への感謝、そして一人残してしまう謝罪が書き記されていた。そして手紙の最後、ラフィネに宛てた言葉が綴られていた。


『―――ここからは、骨董店のラフィネ君へ宛てて書いたものだよ。まずは僕の無理なお願いを聞いてくれて、本当にありがとう。完成した指輪を見ることは出来ないけれど、君ならきっと素敵に仕上げてくれているんだろうな。

 ラフィネ君は僕をヴィーニュの傍にいられるようにしてくれたのに、僕は君に何も出来ない。だからお金の代わりと言うには粗末な物だけれど、残った僕の骨を受け取ってほしい。なかなか骨がなくて作品作りが出来ずに困ってるって言ってたでしょ?。君の素敵な趣味のためにどうか使って』


 ラフィネはヴィーニュからジャンティの骨を譲り受け、彼女を見送った後すぐに彼の骨を加工し始めた。既に頭にあったものを形にしていく。

 楕円形の看板を作り、そこに「long dormir」と刻んだ。

 死は終焉ではなく、永い眠り。そんな意味を込めて。

 そして完成した看板を屋敷の門に掛け、その日から骨董品店を始めた。

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