第13話 死に対する考え方の違い 

 始まりは一人の青年が若い妻のため、病でもうじきこの世を去る自分に何か遺せるものはないかと頭を悩ませていた時のこと。

 急な発作で人気のない道端に倒れてしまったその青年を、偶然通りかかったラフィネが気まぐれで自分の屋敷まで運んだ。

 当時のラフィネは、物作りは趣味として、本職にはソレイユ・クシャン・コリーヌの麓にある葬儀屋で働いていた。



『人間はいつか必ず死ぬでしょう?。食いっぱぐれることのない最高の職だと思いますが、みなさん〝死〟というワードがお嫌いなようで、あまり好んで選ばれる仕事ではないようですね』



実際この国では、一般人の葬儀を行う葬儀屋は国民の階級でも最下層の人たちが請け負っている仕事だった。やりたがる人がいない仕事を、何でもいいから仕事をして金を稼ぎたい貧困層の人たちが担うのは、この国では当然の仕組みだった。

 一方で王族の葬儀は華々しく行われるために、王宮には位の高い人間が働く王室専属の葬儀屋枠というものが別に存在していた。

 そんな話を目覚めたばかりの青年に容赦なく話した。

まさか先の長くない病人が葬儀屋に助けられるとは、何だか不思議な縁だと感じた青年は、気を悪くすることなくラフィネと話し込んだ。

 青年の名はジャンティといった。彼は気さくで純粋な青年で、ラフィネもそんな彼を嫌いだとは思わなかった。

 ラフィネは暇潰しだと言って、ジャンティの悩みを聞くことにした。どんな悩みを抱えているのかを知った彼は、気晴らしにと少し魔法を見せジャンティの笑顔を取り戻した。

 それから彼をアトリエに案内して自分の作品を見せた。



『これみんな動物の骨?』


『ウィ』



ジャンティは不気味がることなく『触ってみてもいいかな?』などと言いながらアトリエ内を熱心に見て回った。貧しかった彼は、美術館や博物館といった場所にこれまで一度も足を運んだことがなかったけれど、きっとそれらはこのような場所なのだろうと思いながらラフィネの作品に感嘆を漏らしていた。



『僕は貧しくて墓も作れなくてさ。国が所有してる土地が減少しているし、それこそいつ土に埋めるなって法が布かれるかわからないよね』



掘り返されたら堪らないよ、と苦笑いをする彼に、ラフィネは大層怪訝そうに問う。



『土葬に火葬、どちらであっても土の下へ埋められますよね。土に還るわけでもないのに、なぜ狭くて暗い窮屈な場所へ入りたいと思うんです?』



振り返るジャンティにラフィネは構わず続けた。



『地は踏みつけられるもの。死人を安らかに眠らせるため?、よく考えた口実です。死人を埋葬する慣習に「死人は場所を取るから土の下に埋まってろ」という考えが全くないと証明するものは何もないじゃありませんか』



淡々と語るラフィネに呆気に取られていたジャンティだったが、ふっと表情を緩めた。



『確かに、言われてみればそうだよなぁ』



ふにゃりと笑う彼は、自身の死に対する考えを少し恥ずかしそうに話した。

 夜大切な人に「おやすみ」の挨拶を告げて眠りにつけば、あっという間に朝を迎えてその大切な人に「おはよう」の挨拶が出来る。そんな風に、死ぬことは大切な人が僕と同じところに来てくれるその時まで眠っているようなものだと思うと彼は話した。死んでも、目が覚めた時には隣に大切な人がいてくれるのだ、と。



『僕は死ぬことをそんな風に思っているよ』



 死への新しい捉え方に触れたラフィネは『随分と長い眠りになりそうですね』と思わず微笑んでいた。

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