第8話 貴方は魔法使いなんですか?
パトリシアさんとシャルロットに見送られながらお宅を後にする。行きはパトリシアさんの馬車で来たが、送迎を断った僕らは徒歩で帰路を辿っていた。
鼻歌を歌う上機嫌なラフィネさんは、森へ入ると急に話し出した。
「私の仕事は大体このようなものです。今回は既に火葬された遺骨を使いましたが、アトリエでご遺体を火葬することもあります」
人気のある町中では話し難い内容だったから、この静謐で人気もない森の中へ入ってから切り出したのか。
「それから独特なあの匂いは取れません。パトリシアさん宅へお邪魔する時は私が君の分も香水を吹きかけて差し上げましたけど」
話しながら彼は道端に咲く花を手では触れずに摘み取り、空中で花輪へと編み上げていく。やっぱりパトリシアさんの言う通り、この人は魔法使いなのかもしれない。アトリエでもそう感じる場面が幾度もあった。
「君が疑問に思っていることは、働くと決断されたらお話するつもりでいますよ。どうです?、働きますか。それとも他をあたりますか?」
自分のような子どもを働かせてくれると言うなら、断る理由がない。それに亡くなられた人の骨を埋めずに作品として家族の元に返すという行ためそのものを、少しずつ魅力的に感じ始めている自分がいた。
「働きます」
「うん、いい返事ですね。なら住み込みで働きなさい。君の年齢じゃ部屋を借りるのにも骨が折れるでしょう」
まさか住み込みまでさせてくれるはと思っていなかったので、「メルシィー」と礼を言いながら何度も頭を下げた。
「これからよろしくお願いしますね、スヴニール君」
初めて名前を呼んでもらえた。
「ウィ」
屋敷へ帰宅すると、ラフィネさんはトルソーにコートをかけてから二階へ案内してくれた。
三本の蝋燭が立てられた洒落た照明が、壁に等間隔にあり灯っている。三つ横並びに部屋があって、その一番奥の部屋へと通された。
「ここを自由に使ってください」
「ひ、広いですね」
中にはデスクやクローゼット、ベッドや誰が座るのかよくわからない豪奢な応接用のソファが二脚。必要以上の家具が部屋には揃っていた。
「気に入りませんか?。それなら模様替えしますね」
何パターンにも家具の趣や配置、壁紙やラグを変えるラフィネさん。
「そ、そういうわけではないんです。ただこんなおしゃれな部屋というか、自室自体初めてだったので」
「そうでしたか」
彼はくるくると回していた人指し指をピタリと止め「荷解きが終わったらベッドの上に用意した服装に着替えて降りてきなさい」とその場を去ろうとするので慌てて呼び止めた。
「貴方は魔法使いなんですか」
ラフィネさんは肩越しに視線だけこちらに向けると「夕食の時に」とだけ言い残して階下へ下りて行ってしまった。
持って来ていた少ない荷物を一度全てベッドの上に広げ、ひとつずつ片つけていく。モルガンおじさんからもらったオルゴールをデスクに置き、壁にはパトリシアさんからもらった絵を飾る。
用意されていたスーツは誰かが着古したお古ではなく、真新しいものだった。緊張しながら袖を通すと、楕円型の全身鏡に映る自分がまるで別人のように見えた。
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